表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/237

謎の生物

 シラリアさんが、息子のレシク君を連れて、他の冒険者ギルドの受付嬢達と一緒に、浴場テントへと入っていく。

 その後を追う様にして、ウメさんとヒタキさんに手を引かれ、コロニちゃんも浴場テントの中へと姿を消す。

 シラリアさんと一緒に来た受付嬢達は、今回も5人だったので計6名だ。

 レシク君は半人前なので、コロニちゃんと合わせて一人と言う頭数で良いだろうから、今回の"九ノ一"からは、ウメさんとヒタキさんだけでも良かったかも知れないが、小さな子供の面倒も見たりでは大変なので、イズミさんにも一緒に入浴をお願いした。

 女性ばかりの入浴タイムではあるが、シラリアさんも承知でレシク君を連れて浴場テントへ入って行ったことから、5歳程度の男の子であれば混浴でも問題無いらしい。

 いや、決して羨ましくは無い。

 俺も、小さな頃は、妹や母親と一緒に温泉に入った記憶が、朧気(おぼろげ)ながら有るからだ。


 既に、サクラさんや他の"九ノ一"達、そしてベルやミラは夕食の準備に取りかかっている。

 アンは、夕食準備をしていない"九ノ一"達へ、銃の手入れの方法を教えていた。

 89式小銃のストックの内部へ格納されている、メンテナンス用のツールの使用方法などを、実際に行って見せている様だ。

 銃のメンテナンス方法も、俺がアン達に教えたとおりの事を、忠実に"九ノ一"達へ伝えている。

 しかし、マユさんが試射した重機関銃M2のメンテナンス方法は、アンにも教えていなかったので、これは俺が教える事になった。

 加えて、この世界の鉄製の剣とは違い、ステンレス製の89式多用途銃剣は、簡単には錆びないのだが、これも柄の内部にメンテナンス用具が収納されているので、その使い方なども伝授する。


 メンテナンス用具が、銃や剣の内部へ収納されている事に、殆どの"九ノ一"達が驚いている。

 この異世界の剣は、メンテナンスを怠ると直ぐに錆びてしまうのだが、ステンレス製の89式多用途銃剣と言えど、メンテナンスを怠れば切れなくなってしまうので、鉄製の剣と同様に日頃のメンテナンスは重要だ。

 最も、刃毀れしたり損傷が酷い場合には、俺の無限収納(インベントリー)へ収納してしまい、新たに召喚すれば新品同様、いや完全に新品となってしまうので、メンテナンスも不要なのだが、俺も基本は防衛大学校時代に叩き込まれたので、それを忠実に守っているのだ。

 アンや"九ノ一"達も、その辺りの事は良く判っているので、嫌な顔せずに欠かさずメンテナンスをしている。


 メンテナンスと言えば、ロックの操る指揮者(コマンダー)ゴーレムのメンテナンスは、ロックも全く判らないそうで、今回の古代遺跡都市の探索では、指揮者ゴーレムの補修パーツなどがあれば、是非とも探し出したいところだ。

 守護者(ガーディアン)ゴーレムに関しては、俺が破壊した個体をテンダーのおっさんと調査したのだが、全てが岩石で出来ており全くメカニズムは発見出来なかった。

 唯一、頭部に埋め込まれていた魔結晶の様な正体不明の鉱物が、どうやらエネルギー源らしかったのだが、全く謎の塊だったのだ。

 岩石で構築されているので、魔法によって動いているらしいのだが、壊れてしまえば修復も困難なため、今回は予備の守護者ゴーレムも余裕を持って回収した。


「きゃ~っ!」


 俺達が銃や剣のメンテナンスを行って居ると、突然、浴場のテントから女性の悲鳴が轟く。

 一体、何事だ!

 俺やアン、そしてロックと"九ノ一"達は、一斉に浴場のテントへ走って行く。

 もちろん、メンテナンス中の銃や剣は使う事が出来ないので、メンテナンスを終わったいるバレットM82A3、アンチ・マテリアル・ライフルをアンは持って、真っ先に浴場のテント内へと突入した。

 俺やロックも、89式小銃を携えて、多少躊躇はしたが「入るぞ!」と声を掛けてから、浴場テント内へと入って行く。

 テント内は、湯船の湯気が多少有る程度で、LEDランタンによる照明で明るい。


「どうした? 魔物が出たのか?」

「……ジ、ジングージ殿、何か得たいの知れない生き物が居ります」


 放漫な胸を両手で押さえ、冒険者ギルドの会長であるシラリアさんが、怯えた表情で言う。


「得たいの知れない生き物? 何処ですか?」

「彼処です。息子の……レシクとコロニの所です」


 俺は、シラリアさんの胸を押さえている手の指が指し示す方を見る。

 いや、胸に目が釘付けになってしまっていたのを断ち切って、その指の方を見た。

 そこには、コロニちゃんとレシク君の他に、何やら見た事のない生き物が居た。

 何だ此奴は……、新手の魔物なのだろうか?


「コロニ、レシク君、直ぐにそこから離れて!」


 俺が二人に叫ぶと、コロニちゃんは首を傾げて不思議そうな顔をする。

 そして、レシク君は小さな声で言った


「……大丈夫。僕の友達だから」

「友達? その変な生き物がかい?」

「うん」


 すると、妙な反応が、他の者達から発せられた。


「ジョー兄い、何か見えるの? アタイには、何も見えないんだよ」

「えっ、コロニちゃんとレシク君の側に居る変な生き物、アンには見えないのか?」

「うん、何も見えないよ」

「ウメさん、ヒタキさん、イズミさん、君達には見えるか?」

「「「主様、私にも何も見えません」」」

「何だって!? 冒険者ギルドの方々には見えませんか?」

「「「「「何も見えませんが……」」」」」


 ウメさん、ヒタキさん、イズミさんも素っ裸で身体をボディー・シャンプーで洗っていた真っ最中だ。

 ウメさんとヒタキさんは、ご自慢の尻尾だけは、頭髪用のシャンプーで洗っている様で、泡に包まれた尻尾が左右に振られている。

 正直、もう少し羞恥心を持ってくれていても良いのだが……。

 冒険者ギルドの受付嬢達は、湯船に漬かって居たのだが、何人かはわざわざ立ち上がったので、俺には余計な物まで見えてしまった。

 顔が赤くなるのを感じながら、俺は訳が判らなくなって、もう一度シラリアさんへ尋ねる。


「シラリアさん、貴方には見えているんですよね? あの変な生き物?」

「はい、ジングージ殿。ハッキリと見えております。しかし、初めて見る生き物です。レシク、その生き物と友達と言ったけど、前から知っていたの?」

「うん、前からの友達。コロニも知っているよ」


 すると、コロニちゃんが何度も頷いて、レシク君の言葉を肯定した。

 俺は、益々訳がわからなくなり、ロックの方を振り向く。

 すると、ロックの様子に異変が起きていた。


「ロック! 大丈夫か?」

「だ、だ、大丈夫です……僕にも見ぇます。ぁれは……ぁぁ~、もぅ駄目です……」


 ロックは、そう言うと鼻血を出しながら、その場に崩れる様にして倒れ込んでしまった。

 くっ、あの奇っ怪な生き物による精神攻撃か。

 俺は、再び奇っ怪な生き物の方へ振り向くと、レシク君とコロニちゃんが、しっかりと異様な生き物を抱きしめて居た。

 これでは、89式小銃での攻撃は無理だ。

 この異様な生き物は、レシク君とコロニちゃんの意識を乗っ取り、制御下に置いてコントロールしているのだろうか。


 俺は、89式小銃を構えたまま、何の行動も起こせないまま、その場で立ち続けるしか無かった。

 すると、この騒ぎを聞きつけてミラとサクラさん達も、浴場テントの中へ入って来る。


「お、お兄ちゃん! どうしたの?」

「主様、何事でしょうか?」

「ミラ、ロックへ回復魔法を頼む。あの奇っ怪な生き物にやられたんだ」

「はい、直ちに!」


 俺の構えている89式小銃の先、コロニちゃんとレシク君の方をサクラさんが見て、そして静かに言った。


「主様、あれは妖精(・・)にございます故、人には危害を加えませぬ」

「はあ? 妖精?」

「左様でございます。あの姿は妖精が実体化した姿にございます。但し、"女神様の祝福"を持っている者にしか見えませぬ」

「"女神様の祝福"を持った者にしか? シラリアさん、貴女は"女神様の祝福"を、お持ちなのですか?」

「はい。頂いておりますが、訳あって私が20歳の時に頂きました」


 すると、倒れて居たロックの姿が目映い光に包まれ、そして流していた大量の鼻血も止まり目を覚ます。

 ミラの放った回復治癒魔法が、どうやらロックに効いた様だ。


「ミラにも、あの奇っ怪な……いや、妖精が見えるのか?」

「はい、もちろん見えます。幼い頃に兄と一緒に遊んだ事もあります」

「も、申し訳ぁりませんでした、ジョーさん。僕は説明しよぅとしたのですが……。大勢の女性の裸を見てしまぃ、動転して気を失ってしまぃました……」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

  ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ