レストラン
「さて、そろそろ昼時ですな。昼食に致しましょうか……朝食が保存食だったので、少し美味しい昼食を頂きましょう。ジングージ様は、お嫌いな食べ物はございませんか?」
「はい、好き嫌いをするなと教育されておりましたので」
「おお、それは良いことですな。私めは好き嫌いが多くありましてな、今でも怒られます。はははは……それでは、参りましょう。副会長も同行ください」
「はい、お供いたします」
「おっと、ベル。昼飯前に悪いが、伝言を頼みます」
「はい」
アントニオさんは、兎耳少女ベルさんの耳元へ口を寄せて、俺に聞こえない程の小さな声で、なにやらベルさんへ伝えている。
ベルさんのピンク色をした長い兎耳が、ピクピクと動いているのが可愛い。
ベルさんは、伝言を聞き終わると「畏まりましゅた」と頭を下げてから、ドアへ向かう。
アントニオさんは、「頼みましたよ」と言ってから、俺の方へ向き「では、ジングージ様、出かけましょう」と言って、ベルさんの後を追うようにしてドアへ向かう。
俺もアントニオさんに続いてドアから廊下へでたが、既にベルさんの姿は見えなくなっていた。
俺の後からは、エルフ美女のエルドラさんが後を付いてくる。
階段を一階まで降りて、商業ギルドのホール表玄関を出ると、そこは此処へ来る時に見えた、周りに円形ロータリーのある、大きな広場の道路だった。
大きな広場は、朝方に見たときよりも、より大勢の人々で埋め尽くされている。
恐らく昼時ということで、屋台などが狙いなのだろう。
女性比率の高い、この異世界でも昼飯時ともなれば、やはり男性の姿も多く見られる。
俺としては、美味しい昼食にも惹かれるが、屋台の食事というのにも興味津々だ。
防衛大学校在学中に夏期休暇を利用して、タイ王国や台湾へ旅行したことがあるのだが、安価な屋台の食事がとても美味かった。
また、どちらの国も屋台を利用する一般庶民の暖かさや親切が、今でも忘れられない。
異国の文化を簡単に知るには、屋台の食事に限ると、俺は今でも思っている。
このスベニの街で、屋台を楽しむ機会は、まだ有るだろうから今回はパスしよう。
アントニオさんに連れられ、ロータリーの道路を反時計回りに1/4周ほど歩いていくと、何やらレストランの様な雰囲気をした店に到着した。
いかにも高級そうな店で、入り口にはピシっとした服を着込んだドア・ボーイが居り、アントニオさんの姿を確認すると、「いらっしゃいませ!アントニオ様」と言ってドアを開けてくれる。
アントニオさんがドアを抜けて店内に入るのに続いて、俺とエルドラさんも店内に足を踏み入れる。
俺たち三人がレストランの店内に入ると、ウェイトレスの少女が直ぐに近づいてきてから、頭を深くさげて言った。
「いらっしゃいませ、アントニオ様」
「支配人は居おられますかな?」
「はい、ただ今、呼んで参りますので少々お待ち下さい」
そう返事をするとウェイトレスの少女は、レストランの奥へ早足で歩いていく。
ウェイトレスの少女が店の奥へ姿を消すと、入れ替わりに執事服かタキシードの様な服を、ピシッと着込んだ女性が足早にこちらへ向かってきた。
所謂、男装の麗人と言うのが相応しい女性で、まるで宝塚の男役みたいだが、髪は後ろでポニーテールにしている。
「これは、これは、アントニオ会長とエルドラ副会長、いらっしゃいませ」
「支配人、ご無沙汰ですな。予約しなかったのですが、奥の部屋は使えますか?」
「はい、アントニオ会長、ご用意できます。ささ、どうぞこちらへ」
支配人と呼ばれた女性は、俺たちを奥へと案内する。
アントニオさんは、彼女に付いていくので、俺もそれに続く。
レストランの内部はテーブル席が並んでおり、どれも食事をする客で埋まっていた。
客層は、やはり上流階級の様で服装も町中を歩いている市民とは、少し違っている雰囲気だ。
もちろん、客は女性比率が高かったが、男性の客もそれなりにいる。
テーブル席を眺めながら、支配人に連れられてレストランの奥まで行き着くと、支配人はドアを開き「どうぞ」と言い頭を下げ、手で我々を部屋の中へと誘導した。
アントニオさん、俺、エルドラさんの順で入室すると、部屋の奥は、ガラス製の大きな窓があり、部屋の中を明るく照らしている。
窓の手前には、6人掛けのテーブルが設置されており、既に皿やフォークとナイフもセットされた状態だ。
窓の外は、庭園になっており、中央には池がある。
池の周りには、花が咲き誇っており、綺麗に手入れされた木々も美しい。
こんな庭園付きのレストランなんて、元の世界でも来たことはなかった。
死ぬ前に、一度で良いから高級料亭に行ってみたかったが、それは結局叶わなかった。
死んで第二の人生が始まったばかりなのに、高級レストラン、しかもVIPルームを体験できるとは。
これも、女神様に感謝せねばならないのだろう。
支配人が、椅子を引いてアントニオさんを案内する。
いつの間にか、ウェイトレスも入室してきており「どうぞ」と言いながら、椅子を引いて俺を着席させた。
支配人は、アントニオさんに続いてエルドラさんにも、同じ様に椅子を引いて案内する。
テーブルを挟んで、アントニオさん、エルドラさんの順に着席し、対面する俺はもちろん一人で着席だ。
「支配人、お客様は遠い国から来られたので、スベニの街の名物料理などを、ご用意して頂けますかな」
「畏まりました、アントニオ会長。お飲み物は如何なさいましょうか?」
「そうですな、ジングージ様。酒の方は、嗜みになられるのでしょうか?」
「はい、何でも頂きます」
「そうですか、それでは西のワインを、お願いしましょう」
「承りました、アントニオ会長。それでは皆様、少々お待ち下さい」
支配人とウエイトレスは、我々に向かって丁寧にお辞儀をし、ドアを静かに開けてVIPルームから退出しようとする。
その時、部屋の外で別のウエイトレスが支配人に走り寄ってきて、なにやら小声で支配人に告げると、支配人だけが再び入室してきて、アントニオさんへ近づきこう言った。
「アントニオ会長、生産ギルドのテンダー・ギルド長が、お越しになりました。こちらへ、ご案内しても宜しいでしょうか?」




