スコール
俺のハンディー・トランシーバーでの呼びかけに、少し間を置いてから、アンからの応答が聞こえて来る。
『ジョー兄い? どうして、アタイが魔物を撃とうとしている事が判ったの? どうぞ……ザッ』
『了解。間に合ったか。いや、アンが撃とうとしているのは、魔物じゃなくてゴーレムだ。今、下降させるから、ナークに確認してもらってくれ。どうぞ』
『判ったよ。あれ、ゴーレムだったんだ……ロック兄いの新しいゴーレムなの? どうぞ……ザッ』
『そうだ。少し待っていてくれ』
間一髪、アンのバレットM82A3による狙撃から、偵察者ゴーレムを守る事が出来た。
俺は、アンにその場で待機する様に指示し、そしてロックへ偵察者ゴーレムの下降を依頼する。
「ロック、偵察者ゴーレムを下降させて、アン達から良く見える様にしてくれ」
「判りました。下降させます……映像が見ぇないので、地面に激突させない程度まで下降する様に命じます」
「そうか、半自律行動が出来るんだっけ。凄いな……」
「守護者ゴーレムと同じみたいですから、大丈夫だと思います」
「ああ、頼む」
俺は、もう一度アンへ、ハンディー・トランシーバーで連絡を行う。
『アン、聞こえるか? 偵察者ゴーレムを下降させてもらったけど、近くに見えるか? どうぞ』
『ジョー兄い、ゴーレム降りてきたよ。ナーク姉さんが、午前中に見つけた石像だって言っているよ。どうぞ……ザッ』
『そうだ。今はそちらを映していないけど、俺の持っている使い真みたいに、そのゴーレムの見た風景が、此方にも見えるんだ。どうぞ』
『そうなんだ。判ったよ。撃たなくて良かったよ。どうぞ……ザッ』
『ああ、アンに撃たれなくて良かったよ、本当に。それで、一つ聞きたいんだけど、何で偵察者ゴーレムの存在に気がついたんだい? どうぞ』
『うん、それはサクラ姉さんが、空から変な音が聞こえてくるって教えてくれたんだよ。どうぞ……ザッ』
『なるほどな。サクラさんの神耳の力だったか。サクラさん、どんな音が聞こえたのか教えてくれ。どうぞ』
『主様、サクラでございます。音は"キーン"と言う甲高い音でございます。今も聞こえておりますが、他の人には何も聞こえていないそうでございます。どうぞ……ザッ』
『了解。そう、サクラさん以外には聞こえないんだね。それで安心したよ。それじゃ、邪魔したね。探索、いや魔物討伐を続けてくれ。偵察者ゴーレムは、もう少し試験してみるから、撃たないでくれよ。以上通信終了』
『主様、了解いたしました。……ザッ』
『ジョー兄い、判ったよ、それじゃね。……ザッ』
なるほど、サクラさんの超人的な聴覚が、魔結晶が重力魔法を稼働している音を捕らえたのか。
守護者ゴーレムが、火炎弾を発射する際に、キーンと言う甲高い発信音の様な音を発していたが、あの音よりも更に高い周波数の音なので、俺達の耳では聞く事が出来ない超音波領域の音なのだろう、
そう言えば、俺も高校生位の歳までは、自作の不完全なFMラジオでFMステレオ放送の多重変調の音や、TVの水平発信周波数が聞こえて、酷く不快な思いをしていたが、歳を重ねることで、それらの音は聞こえなくなった。
所謂、モスキート音と言われる高周波音で、聴力の良い若い世代だけが聞こえる音域だ。
「ロック、指揮者ゴーレムの扉を閉めてくれ」
「はぃ、絞めます」
指揮者ゴーレムの胸の扉が閉まると、再び空間映像が表示され、偵察者ゴーレムからの映像が映し出される。
メイン・ビューアに映し出された映像は、アンやナーク、そしてサクラさん達"九ノ一"の面々が、こちらを見ている姿が映っていた。
偵察者ゴーレムは、地上から3m程度の高度をホバリングしている様だ。
アンが何かを言っている様だが、残念ながら音は聞こえて来ない。
「ロック、偵察者ゴーレムの手を動かしたりも出来るの?」
「出来ますよ。どぅ動かしますか?」
「うん、彼女達へ手を振ってから、上昇させてくれ」
「はぃ、判りました」
すると、メイン・ビューアに映っているアン達が、全員で此方へ向かって手を振り始めた。
どうやら、偵察者ゴーレムが手を振ったので、それに応えてくれた様だ。
同時に画像は、どんどん小さくなって行き、偵察者ゴーレムが急上昇している事が判る。
それにしても、危ないところだった。
並外れて視力の良いアンに加えて、"女神様の祝福"による神耳・真耳の力を持つサクラさんが居ては、高々度からの偵察者ゴーレムも容易に発見されてしまい、そして撃墜されてしまう事が判った。
恐るべし、パーティー"自衛隊"と、"九ノ一"による、防空警戒能力と防空迎撃能力だ。
「よし、偵察者ゴーレムは、そのまま古代遺跡都市の上空から、アン達が見える様に空中で待機させておいて、次のゴーレムを試してみよう」
「はぃ。では、情景の表示を切り換ぇますね。どの守護者ゴーレムにしますか?」
「赤……火のゴーレムは良く知っているから、緑の風ゴーレムにしようか」
「判りました。では配下に設定します」
ロックはそう言うと、指揮者ゴーレムの手で、守護者ゴーレムの一体を触る。
守護者ゴーレムの目が、緑色に輝き始めると同時に、偵察者ゴーレムの下のサブ・ビューアに映像が映し出された。
映し出された映像には、俺達が乗る守護者ゴーレムの漆黒の姿が映し出されている。
俺が破壊した4体の守護者ゴーレムと、姿形や大きさは全く同一だが、首のない顔の両眼が赤では無く緑に輝いているのが違う点だ。
「この守護者ゴーレムの情報は、判ったかい?」
「ぇぇ、判りましたよ。ジョーさんの予想どぉり、この守護者ゴーレムは風刃を放ちます。それだけが以前の守護者ゴーレムと違ぅ点です」
「風刃の射程距離は、火炎弾と同じ200m位かな?」
「そぅですね。同じ位です。正確では有りませんが、火炎弾と殆ど同じ250メトル位だと思ぃます」
「それじゃ、上空に向かって一発、発射してみようか」
「はぃ、射程外に出れば自然消滅しますので、空に向かって撃てば安全です」
「うん、それじゃ、試射してみてよ」
俺の依頼で、ロックが風の守護者ゴーレムへ風刃を撃つ様に指令する。
すると、メイン・ビューアに映っている守護者ゴーレムが、身体を大きく反らせて上空を見据える構えを取り、少しの間を取ると緑色の巨大な風刃を発射した。
魔法使いが放つ風刃よりも数倍大きく、飛ぶ速度も速い。
巨大な風刃は、どんどん上空へ舞い上がって行き、そして高度が200mを超えたのだろ、緑色の花火の様に四散した。
この大きさの風刃ならば、魔法使いの風刃とは比較にならない位に強力だろう。
今まで見た風刃では、商業ギルドの副会長、エルフのエルドラさんが放つ風刃も、相当な威力だったが、それでも射程距離は100m程だった。
俺の召喚する戦闘車両でも、防ぎきれずに装甲が破壊されてしまうかもしれない。
何処か、人や建物に被害が及ばない場所で、試してみる必要がある。
本当に、守護者ゴーレムは敵に回したくないものだ。
「よし、風刃の凄さが判ったから、次は青だね。水の守護者ゴーレムの試験をしてみよう」
「そぅですね。恐らく、水弾を発射出来るのだと思ぃますが、巨大な水弾なんて僕も見たことは有りませんから、楽しみです」
「うん、"九ノ一"のイズミさんの水弾も、かなり強力だったからね。サクラさんが言うには、普通の魔法使いの二倍以上、大きな水弾だって言ってたから」
「はぃ、ィズミさんの水魔法は、凄ぃですよ。僕もぁんなに強力な水魔法使い、見たことが有りませんでした」
「そうだね。それじゃ、青の守護者ゴーレムの試験開始だ」
「はぃ」
ロックはそう言うと、青い目を持った守護者ゴーレムへ、指揮者ゴーレムの手で触れた。
すると、守護者ゴーレムの青い目が光り輝きが増し、鮮やかな青色LEDの様に発光を開始して、守護者ゴーレムが動き出す。
先ほどの風の守護者ゴーレム同様、水の守護者ゴーレムは、大空へ向かって反り返る姿勢を取り、そして巨大な水弾を発射した。
巨大な水弾は、みるみる上空へと飛んで行き、そして射程距離の200mを少し超えた高度で、水弾が破裂して四散する。
しかし、四散した水弾は、そのままスコールの様な豪雨となって地上へ降り注いで来たではないか。
ヤバい! 干してある洗濯物が濡れてしまうぞ。
これは絶対に、ベルやミラ、そして"九ノ一"達から怒られてしまう……。
俺とロックは、お互いに顔を見合わせ、そして「はぁ~」と同時に溜息を吐くのだった。




