ゴーレム軍団
古代遺跡都市の舗装された道路を、軽装甲機動車で少し走るとスマートフォンのマップ表示が、目的地の守護者ゴーレムが多数有ると言う地点を表示する。
マップ表示で真上から見ると、菓子箱に整然と並べられた饅頭の様にも見えるが、これが守護者ゴーレムらしい。
その数は想像以上に多く、大凡200体以上は有る様に見える。
大きな隊列が3列あり、その各列に5体づつの横並びで並んで居る様だ。
そして、俺の運転する軽装甲機動車の運転席からも、その威容が見えてきた。
守護者ゴーレムの保管場所は、地面から大分低く作られており、守護者ゴーレムの腰の辺りが地面と同じ高さとなっている。
一番手前の列は、数体の守護者ゴーレムが無くなっており、これが過去に王都へ運ばれた数体と、ロックが眷属化した4体だと思われた。
その奥の真ん中の列と一番奥の列は、一体も欠ける事なく道路の脇か直ぐの場所に佇んで居る。
道路からは、底まで階段が構築されており、守護者ゴーレムが稼働すれば、その階段を上って道路まで来れる様な構造だ。
俺は、守護者ゴーレムの真ん中の列まで軽装甲機動車を走らせ、そこで停車する。
軽装甲機動車から下車して、改めて守護者ゴーレムの大群を眺めると、それはまるで中国の秦の始皇帝が埋葬された場所から発掘された兵馬俑が巨大化した様だ。
と言っても、俺は実際に兵馬俑を見学した事は無いのだが、TVや写真などで何度か観た事があるので、その様子を思い浮かべてしまった。
守護者ゴーレムは、損傷している個体は一体も無いのだが、中には身体や頭部に苔の様な緑色をしている個体も有る。
1000年もの間、風雨に晒された居たのだから、苔も生えるだろうが全く風化して劣化している様子は見られない。
改めて、アーティファクトいや、古代文明の技術力の高さを思い知らされる。
「ロック、一番手前の列から前の4体を眷属化したの?」
「そぅです。大通りから一番近かったので」
「ふーん。どうやら、守護者ゴーレムにも種類が有るみたいだよ」
「ぇっ?どんな種類ですか?」
「ロックの操っていたのは、火の魔法を放ったよね」
「はぃ。火炎弾を発射できました」
「そうだったね。守護者ゴーレムの目を良く見てごらん」
「目ですか……ぁっ!目の色が違います!」
「そう。ロックが操っていたのは、目が赤だったけど……今は光って無いけど中央の列は緑で、一番奥の列は青だ。つまり……」
「成る程。使える魔法が異なるんですね!」
「多分そうだと思うよ。中央が風魔法で、一番奥が水魔法って事になるよね」
「だとすれば、緑は風刃を飛ばし、青は水弾を発射するかもしれませんね」
「赤、緑、青の攻撃魔法って、決まっているの?」
「代表的な攻撃魔法は、決まってぃます。稀に違ぅ攻撃魔法を使う魔法使ぃも居る様ですが」
「そうなんだ。此処で試してみる訳にも行かないから、取り敢えず各列から予備も含めて、数体づつ確保して置こうか」
「はい、ぉ願ぃします」
どうやら、使う攻撃魔法によって、隊列を分けて居た様だ。
R・G・Bの基本三色の魔結晶による分類だが、異なる攻撃魔法が使える方が戦い方のバリエーションは広がる。
火炎弾では、殆ど攻撃にしか使えない。
しかし、風刃であれば森などの樹木の伐採にも使えるし、水弾ならば火災の消火にも有効だから、災害救助時にも大活躍できそうなので、これは期待できるだろう。
ただ俺には、解せない点も有った。
それは、これだけ多数の守護者ゴーレムが存在しているのに、指揮者ゴーレムは最大4体までしか、守護者ゴーレムを操れないと言う点だ。
これだけ多数の守護者ゴーレムを全て操るには、相当数の指揮者ゴーレムが必要になってしまう。
そんな非効率な設計を、優秀だった古代文明の人々が行うとは思えない。
恐らく、何処かに中央制御を行うためのコントローラーが有る、いや有った筈だ。
そして、その制御を行って居た場所らしき建物が、守護者ゴーレムの一番奥に建っているのが見える。
それは、飛行場の管制塔の様な建物で、高さもかなり高い。
あの高さならば、古代遺跡都市の端まで見渡せるだろう。
しかし、残念ながら、その管制塔は既に盗掘が行われて居るのが、此処からでも見て取れる。
窓ガラスらしき物は全く無く、此処からでは内部は伺い知れないが、多分、何も残って居ないのだろう。
これだけ大量の守護者ゴーレムをコントロール出来たならば、ガウシアン帝国の大砲やマスケットを遙かに上回る戦力だ。
恐らく、この異世界を征服する事だって出来ただろうが、盗掘者は全くその価値に気づかず、単なる素材としてか、骨董品としての価値しか見いだせずに、持ち去って行ったのだろう。
それは有る意味、良かった事なのかもしないが。
取り敢えず、管制塔らしき建物の調査は後回しにし、俺は守護者ゴーレムの回収作業に取りかかる事にした。
無限収納から装備を召喚した場合は、手を触れずに格納する事が出来るのだが、この異世界の物体を無限収納へ入れるためには、その物体を手で触らなければならないのだ。
俺は、軽装甲機動車へ戻り積んであるロープを軽装甲機動車のバンパーへ結びつける。
そして、守護者ゴーレムには容易に昇降可能な階段へ、ロープの片側を垂らす。
この階段は、人間に取ってはロープ無しでは昇降不能な高さなのだ。
ロッククライミングの要領で、ロープをしっかりと身体に巻き付け、俺は階段状の絶壁を降り始める。
「ジョー様、気を付けて下しゃい。私が降りましょうか?」
「うん、大丈夫だよ。こう言う事は訓練で身についているから」
確かに、ベルの身体能力ならロープ無しで降りて、そして階段も問題なく昇って来れるだろう。
しかし、無限収納へ守護者ゴーレムを収納するには、俺自身が触らなければならないので、ベルでは駄目なのだ。
ナークとミラは、黙ったまま少し心配そうな表情をして、俺がロープを掴んで降り様とするのを見ている。
ロックは、特に心配そうな表情はしていない。
まあ、男ならば、この程度の事は出来るだろうと思っているのだろう。
俺は、階段を一段ずつ、ゆっくりとロープを握る手で緩めたり、強く握ったりしながら、下降して行き、数段の階段を全て降りきった。
改めて、守護者ゴーレムの足下に立ってみると、その大きさに圧倒される。
これだけ巨大な岩石で出来た巨体が自らの足で歩き出すのだから、それを見た事の有る者で無ければ容易には信じられないだろう。
先ずは、真ん中の列の緑色の目の守護者ゴーレムを、無限収納へ収納して行く事にする。
取り敢えずは、前列に並んでいる5体を次々に無限収納へ入れて行く。
特に、無限収納へ入れる妨害などは無く、何時もどおりに収納可能だった。
次に、一番奥の列まで歩いて行き、青い目の守護者ゴーレムも前列5体を収納する。
そして、最後に一番手前の枠へ移動し、赤い目の守護者ゴーレムを5体格納した。
この列は、既に6体が無くなって居たので、此処だけはスペースが広い。
少しだけ、辺りを調べてみる事にして、列の奥まで歩いて行く。
古代遺跡都市の建築技術は、やはり大したもので、ちゃんと雨水の排水用側溝なども作られており、この窪地に水が溜まらない用に作られている。
木の葉などの塵が、1000年以上も溜まって居るのかと思うが、ちゃんと今でも機能している様に見えるので、恐らく自動で塵を清掃する機能が施されているのだろう。
それは、1000年以上も前に作られた指揮者ゴーレムや守護者ゴーレムが、今でも正常に動作する事からも推測できる。
そう言った設備は、地下に設置されていると思われるので、今でも盗掘を免れているのだろう。
他には、特にめぼしい物や機構は見つからなかったので、俺はロープを再び掴み地上へと階段を昇り始める。
何とか、巨大な階段のロッククライミングを終え、俺は地上へと上り詰めた。
ロープをたぐり寄せ、軽装甲機動車へ結んでいたロープの端を解き、輪っか状に束ねてから軽装甲機動車へ仕舞う。
これで、今回の古代遺跡都市探索の最大の目標は達成した。
そして未だ時間はたっぷりと有るので、管制塔らしき建物を調査するため、俺達は全員で管制塔らしき建物に向かって徒歩で移動を開始したのだ。




