宿営
コロニちゃんの入浴が終わり、俺とロックも入浴を済ます。
後は、女性陣が交代で次々と入浴を済ませ終わった頃、夕食の準備も調ったので、全員で宿営初日の夕食となった。
メニューはと言うと、イサドイベで仕入れた野菜や豚肉を使った豚汁とご飯、そして大量に魚人族から頂いた魚を焼いた完全な和食メニューだ。
豚汁には、芋と根菜がたっぷりと入った具沢山で、これは全員に評判が良い。
根菜は、大根に似た味の蕪の様な球形根菜と、人参に似た色の少し長い根菜で、これは兎人族のベルと馬人族のハヤブサさんが、特に大好きなのは納得だ。
野菜が好きでは無いと言う、妖狐人族のサクラさんや、狼人族のウメさん、虎人族のマユさんも、豚肉がたっぷりと入っているので文句は出ない。
そして、焼き魚はと言うと、猫人族のヒグラシさんはもう大喜びだ。
比較的、好き嫌いの無い犬人族のヒタキさんや、人族のユキさん、ツバメさん。ホタルさん、イズミさん、ツキさん、モモさんも、味噌味の具沢山スープは美味しいと言って、豚汁が大好きだ。
もちろん、アンやミラ、ロックは元々、好き嫌いが殆どないので、美味しそうに食べている。
そして、初めて我々と一緒の食事をするコロニちゃんはと言うと、もう尻尾が終始、激しく振られており笑顔でもくもくと食べている。
焼き魚は、初めて食べた様で、骨が気になったのだが、隣に座っているヒグラシさんと、ツキさんが、骨を綺麗に取ってから食べさせている。
流石、ベビー・シッターの経験も豊富な"九ノ一"達で、その様子には全く危なげが無い。
コロニちゃんは、焚いた白米も初めてだった様だが、箸では無くスプーンで上手に掬って食べている。
コロニちゃんは、髪の毛もぼさぼさだったのだが、風呂で綺麗に洗髪されていた。
洗髪には、俺の個人所有していた、元の世界のシャンプーを使っており、このシャンプーやボディー・シャンプー、石鹸は女性陣に大人気だ。
洗髪した後の櫛の通りや、光沢が全然違うと絶賛してくれている。
この異世界にも、石鹸は存在しているのだが、獣油がベースの様で臭みが強い。
当然、石鹸やボディー・シャンプーも俺が提供した、元の世界の物だ。
残念ながら、リンスは持って居なかったので、これは未提供だった。
コロニちゃんの髪は、"九ノ一"の誰かによって綺麗なツイン・テールに束ねられており、その束ねた根本にはリボンまで結ばれている。
幼い子のツイン・テールとリボンは、やはり可愛い。
特に、大きな狼耳がにょっきりと頭から生えているので、やはりツイン・テールの方がバランスも良さそうだ。
母親が生きて居たなら、きっと可愛く髪も結ったりしていたのだろうが、冒険者ギルドの従業員達も仕事も忙しいので、食事の世話や生活に必要な最低限の世話しか手が回らなかったのだろう。
食事も終わり、そろそろ日が沈む時間になる。
この異世界では、食事が終われば後は寝ると言うのが普通なので、既にコロニちゃんも眠そうな感じだが、大勢の人と一緒の食事が楽しかったのだろう、未だに尻尾を振って嬉しそうだ。
宿営テントには、LEDランタンも設置しているので、夜になっても明るい。
俺は、"九ノ一"のメンバーに、コロニちゃんをテントへ連れて行って、寝かせる様に頼む事にした。
「サクラさん、コロニちゃんを一人で家で寝かせるよりも、みんなと一緒の方が良いだろうから、テントへ誰か一緒に行って、寝かしつけて欲しいのだけれど」
「はい、主様。私もそれが宜しいかと思います。では、ヒタキに行かせましょう」
「うん、お願い。ヒタキさん、宜しくね」
「はいっ、主様、お頭様。コロニちゃん、一緒に寝ましょう」
ヒタキさんの言葉にコロニちゃんは、こっくりと頷き、ヒタキさんに手を引かれて宿泊用のテントへと連れて行かれる。
「主様、コロニちゃんですが、一点だけ気になった事が有ると、ウメが申しております」
「気になる事?なんだろう……。ウメさん、それって何ですか?」
「はい、主様。それは、あの子の目の色でございます」
「コロニちゃんの目の色?黒い瞳でとても綺麗だと思うけど、何か変なのですか?」
「はい、狼人族の幼子は、目の色が青いのが普通です。そして成長して12歳を超えた頃から、私の様に金色の瞳に色が変わるのでございます」
そうなのか。
確かに、ウメさんの瞳の色は、綺麗な金色をしている。
それに対して、犬人族のヒタキさんは、茶色の瞳だった。
「それって、黒狼族の特性なんじゃないの?」
「そうかもしれませんが、稀に左右の瞳が青と金の者は居りますが、黒い瞳の狼人族は初めて見ました」
「そうなんだ……。ロック、コロニちゃんのお母さんの目は、何色だったか覚えている?」
「はぃ。エリーンさんの瞳は、ウメさんと同じで金色でした」
「そうか、だとすると、黒狼族の目は、狼人族と同じなんだね……父親の目の色が黒かったのかもね」
「主様、そうだとすると、コロニちゃんは混血種と言う事になります。それが生まれつき、喋れない原因かもしれませぬ」
「混血だと何か問題なの?」
「はい、獣人族は、同じ種族同士で無ければ、子を産む事が普通は出来ないのです」
「なるほど、そう言う事か……」
「稀に、近い種族同士であれば、子を残す事が出来ますが……例えば、狼人族と犬人族であれば……」
「犬人族に黒い瞳の人は居るの?」
「稀に居る様でございますが、詳しくはヒタキに聞いてみないと判りませぬ」
「そうか。まあ、目の色くらいは些細な事なので、どうでも良いけど後で冒険者ギルドのシラリアさんにでも、詳しく聞いてみれば良いんじゃないの」
「そうでございますね。目は見えておりますので、大きな問題ではございません」
「うん、それじゃ、各自お茶でも飲んで、ゆっくりしてから、明日の準備をして就寝しよう」
「「「「「はいっ」」」」」
コロニちゃんの話題は、そこまでにして、俺は食後のコーヒーを自分で入れる。
本当に、オブライエン少佐から、このインスタント・コーヒーを貰っておいて良かった。
他のみんなは、それぞれが好きな、お茶を飲んだりしている。
相変わらず、コーヒーは全く人気が無い。
お茶を楽しみながら、一つ気になった事をロックに尋ねてみる。
「ロック、夜になるとセイレーンが活動仕始めると言っていたけど、それって、此処も危なくないの?」
「大丈夫です。理由は知りませんが、セイレーン達は絶対に古代遺跡都市から外へは出なぃのです」
「つまり、あの城壁を超えて外へも飛べるのに、何故か出てこないと?」
「そぅなんです。ですから、門に扉が無くても警備兵は居りません」
「ふーん。ゴブリンやオークは?」
「ゴブリンやオークは、外へも出てきますが、この町を襲ぅ様であれば警備兵や、依頼業務で夜警を行ってぃる冒険者達が片付けます」
「なるほどね。それじゃ、今夜は俺達も見張りを立てずに寝ても大丈夫かな?」
「主様、それは危険でございます。魔物は襲ってきませぬが、不届き者が盗み目的で襲ってまいります」
「ああ、そう言う事か。魔物よりも悪人を注意しなければ行けないのか」
「はい。ですから、何時もどおりに交代で我らが見張りに立ちます」
「判った。それじゃ、俺も含めて全員で交代をしよう」
「いえ、明日の事を考えると、主様とロックさん達は、お休み下さいませ」
「いや、大丈夫だよ。なあ、ロック?」
「はぃ。問題ぁりません」
「いえ、三人体勢で交代すれば、我ら"九ノ一"だけで十分でございます故、お休み下さい」
「……判った、有り難う。それじゃ、悪いけど俺達は休ませて貰うよ。宜しく頼むね」
「「「「「はいっ」」」」」
夜間の見張りは、サクラさんの進言に従い"九ノ一"達へ任せ、俺達は寝かせて貰う事にする。
さあ、明日からは古代遺跡都市の探索だ。
今夜は、ゆっくりと寝て明日のために鋭気を養おう。
俺は、遠足前の子供の頃の様な気持ちで、逸る心を抑えテント内のベッドへ潜り込むのだった。




