身分証表示板
アントニオさんから、商業ギルドの副会長と紹介されたエルフ美女のエルドラさんは、ソファーから立ち上がると、俺に頭を下げてから俺に握手を求めてきた。
俺もエルドラさんに合わせて、ソファーから立ち上がってから自己紹介をする。
「自分は、ジョー・ジングージと申します。縁あって、アントニオさんとお会いして、この場に来ております。以後、よろしくお願いいたします」
俺は、差し出されたエルドラのさんの手へ、自分の手を差し出して握手をする。
握手を終え、俺とエルドラさんが再びソファーへ座るのを待っていたかの様に、アントニオさんが、オーガ戦に至る俺との出会いや、詳しい経緯をエルドラさんへ話し始めた。
加えて、俺が記憶を無くした、迷い人である事なども話していく。
本当は、全く記憶は無くしておらず、元の世界の記憶を失っていないとは、未だ言えない状況だ……。
申し訳ありません、アントニオさん、エルドラさん。
■ ■ ■ ■ ■
大方、これまでの経緯をアントニオさんが話し終わった頃、ドアをノックする音が聞こえてきた。
アントニオさんが「どうぞ」と言うと、図太い声で「入るぜ」と言いながら、大柄の男性が入室してきた。
入室してきたのは、ギルバートさんだ。
ギルバートさんは、入室するなりアントニオさんへ報告を始める。
「アントニオさん、オーガの死体……おっと、お宝素材は、やっと倉庫へ三体とも格納できたぜ。後の解体の手配なんかは、任せるぜ」
「はい、ギルバート殿、お疲れ様でしたな」
「あぁ、これで俺たちへの依頼は完了と言う事でいいか?」
「はいはい、いろいろとお疲れ様でしたな。護衛依頼完了書にサインいたしますぞ」
「オーガに襲われても、太刀打ち出来なかった不甲斐ない俺たちだったが、ジョーのお陰で何とかなったぜ。ジョーにも改めて礼を言うぜ」
そう言うとギルバートさんは、ポケットから羊皮紙の様なものを取り出し、アントニオさんへ手渡した。
その羊皮紙を受け取ったアントニオさんは、それを持って窓際の執務机へ移動し、羽根ペンをインク壺へ差し込んでから何やら書き始める。
恐らく、自筆のサインを記入したのだと思われる。
そして、アントニオさんは、記入の終わった羊皮紙を、ギルバートさんへ返して言った。
「ギルバート殿、今回の護衛、本当にお疲れ様でしたな。無事にスベニに帰ってこられて、お互い本当に幸いでした。近々にでも、お祝いの宴会を一緒に如何ですかな?」
「おぉ、悪いな。ジョーとも一緒に飲みたかったんで、是非とも参加させてくれ」
「はいはい、それでは日時と場所が決まりましたら、冒険者ギルドへ使いを出しましょう。これから場所を押さえないと行けませんからな、少し時間をくだされ」
「判った。それじゃ、俺たちは、これから冒険者ギルドへ出向いて、今回の一件を報告してくるぜ。はぐれオーガの件は、報告しておかねぇとヤバイからな」
「はい、オーガの件の報告は、お願いしました。ギルド長にも、宜しくお伝え下さいな」
「あぁ、それじゃあジョー、また会おう。一緒に飲めるのを楽しみにしているぜ。じゃあな」
ギルバートさんは、そう言うと手を振りながら慌ただしくドアから出て行った。
これから、冒険者ギルドへガレル君とハンナさんを連れて徒歩で行くのだろうか。
そんな事を考えていると、アントニオさんが机の引き出しから、何やら取り出して俺の方へ、それを持ってくる。
俺は、それを見たことがあった。
「ジングージ様、これは既にご存じですな。身分証へ記録されている内容を表示する、身分証表示板です」
「はい、スベニの街へ入場する際に、女性の警備兵の方……アマンダさんでしたか……が持っていた板ですよね」
「はい、そのとおりでございます。この身分証表示板で、ジングージ様が、何処で身分証を登録されたかが判明します。失われた記憶を呼び覚ます事ができればと思いますが……」
門番をしていた女性警備兵のアマンダさんが認識票をチェックした際は、ランク程度しか確認できていなかったので、じっくりと内容確認が可能なのは助かる。
「ありがとうございます、アントニオさん。是非、使わせてください」
「はい、それでは使い方は既に、お判りですな。お使いくだされ」
アントニオさんから手渡された、青い色の板――身分証表示板――を、俺はテーブルの上に置いてから、首から認識票を外し身分証表示板の上の自分の右手を添えた。
身分証表示板は青い光を発した後、認識票に記録されている情報を、くっきりと表示する。
身分証表示板は、俺以外にもアントニオさん、エルドラさんにも見える位置に置いたので、情報は二人にも確認できる。
元の世界にあった様な、タブレット端末にも似た身分証表示板だが、指によるスクロール機能は無かった。
表示されている内容を上から見て行くと、発行と表示されている項目が有り、そこには、アズマ国と表示されている。
「アズマ国とは、何処にある国でしょうか?」
「なんと……アズマ国ですか。それは難儀ですな」
「難儀と言いますと?」
「いや、とても遠い国なのです。私めも訪問した事すらありませぬ。この大陸の東の果てから、更に海を渡った島にあると聞きますな」
「東の果ての島国ですか……」
大陸の東の果ての島国とは、まるで元の世界の日本の様だな。
しかも、アズマとは東と、そのままではないか……。ひょっとすると……。
「冒険者からの聞き伝えでは、70年~80年前に突如現れた勇者様の起こした国とも言われております」
アントニオさんがそう言うと、それまで黙って聞いていた美人エルフのエルドラさんが口を開く。
「そうです。約80年前に魔王軍を打ち破った勇者様……コジロー様が建国されたのが、アズマ国です。エルフの里には当時、勇者コジロー様と一緒に戦われた方が居り、その方はアズマ国を訪問された事があります」




