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エルフ

本日二話目です。


 商業ギルドの受付嬢たちが、一斉にアントニオさんへ向かって頭を下げた。

 へぇー、流石Aランクの商人ともなると、商業ギルドの職員の対応も違うものだなと思った。

 しかし、アントニオ会長(・・)って呼んでいたけど、アントニオさんが営んでいると思われる、アントニオ商会(・・・・・・・)の主だからだろうか……。


「はい、無事、戻りましたよ。誰か、副会長を呼んできて下さい」


 アントニオさんが、そう言うと受付嬢の一人が、「はい、ただいま」と言うが早いか、階段の方へ走り去って消えた。

 アントニオさんは、俺の方を向いて、にっこりと笑いながら「それでは参りましょうか、ジングージ様」と、受付カウンターの中の方へ歩き出す。

 俺は、なにも判らず「はい」と頷き、アントニオさんの後を追うしかなかった。

 しかも、先ほどまで俺の後ろに付いてきていた兎耳少女のベルさんは、何故か何時の間にか居なくなっていた。


 アントニオさんは、受付カウンターの中を勝手にずかずかと歩いて進み、奥の階段を上がって行く。

 俺も周りをきょろきょろとしながら、その後に続いたのだが、受付嬢達の視線が俺を貫くかの様に集中砲火を浴びせ掛けて来る。

 いや、肉食女子率も高すぎるよ、この異世界は……。

 決して悪い気は、しないのだが。何せ防衛大学校では、男子と女子の在籍比率がカウント不能に近い数値だったから。


 階段を二階フロアまで上がると、廊下をアントニオさんは進み始め、廊下の先の一番奥まで行くと勝手にドアを開けて中に入り、「どうぞ、お入りください。ジングージ様」と俺を招き入れた。

 その部屋は、豪華な応接セットがあり、窓際には大きな執務机があった。


「どうぞ、お座り下さい。ジングージ様」


 と、俺を豪華なソファーへ座るように、彼の手が示した。

 俺は、言われるがままに、ソファーへ座る。

 ふかふかの上等なソファーで、馬車による長時間の移動で、正直お尻が痛くなってきていたので、この柔らかさは有り難かった。

 俺がソファーへ座ると、対面のソファーへアントニオさんも静かに腰を沈める。

 と同時に、ドアをノックする音が聞こえ、「失礼します」と言う声が聞こえた。


「入ってください」


 アントニオさんがノックの主に、そう返事をするとドアが開いて、長身のスレンダーな女性が入室してきた。

 長い金髪の女性で、その黄金色の髪の間からは、尖って少し長い耳が突き出ている。

 エルフだ!と俺は、確信すると共に、その美しさに驚嘆してしまった。

 それはまるで、天国でお会いした女神様の様にも見える。

 エルフの美しい女性は、部屋へ入ると同時にアントニオさんへ向かって口を開く。


「会長、お帰りが一日遅れていたので、心配いたしました」

「ご心配させて申し訳ありませんでしたな、副会長。実は迷いの森でオーガに襲われてしまいましてな」

「なんと!オーガにですと!よくご無事で……」

「いやいや、私も正直なところ、今回は死ぬだろうと思いましたよ。なにしろ、オーガが三匹でしたからな」

「オーガが三匹も!……ギルバート殿たちの護衛は、今回三名でしたね。しかし、彼らの戦力ではオーガ三体には敵うはずが無かったでしょうに……」

「はい、危ないところを、こちらのジョー・ジングージ様に救って頂いたのですよ」


 アントニオさんが、そこまでオーガの襲撃事件を副会長(・・・)と呼ばれているエルフの美人へ説明すると、再びドアをノックする音が聞こえて、「失礼しましゅ……」と言う声が聞こえた。

 この噛み噛みの可愛い声は、兎耳少女のベルさんだ。

 アントニオさんが「入りなさい」と言うと、ベルさんがワゴンを押しながら入室してくる。


「お茶をお持ちしましゅた」

「ありがとうベル。ジングージ様も喉が渇いたことでしょう。先ずは、お茶で喉を潤してください」


 ベルさんがワゴンに乗せられた高級そうなティーカップとソーサーを、俺の前のテーブルに乗せ、やはり高級そうなティーポットから紅茶の様な色のお茶を注ぎ込んで「失礼しましゅ……どうぞ」と言い、俺の方を見つめでから、例によって頬を染めてから俯いた。

 続いて同じように、副会長(・・・)と呼ばれているエルフの美人さんへも、お茶を出す。

 すると、エルフの美人さんは、ベルさんへ言った。


「ベル、怖い目にあった様だが大丈夫か?」

「はい……ジングージ様に、お助け頂きましゅたので……」

「そうか、良かったな……」


 そうエルフの美人さんは言うと、俺の方を見つめた。

 彼女の目は、まるで若草の様な綺麗な緑色をした瞳だった。

 その瞳は、まるで俺を値踏みするかの様にも思えたが、何故か暖かみがある優しさも持っている様にも見える。


 ベルさんは、最後にアントニオさんへお茶を入れると、お茶を乗せたワゴンを押して、部屋の隅にまで移動し、そのまま、その場所に立った。

 流石に、待女(メイド)ギルドに所属しているだけあって、メイドの作法どおりだなと思う。

 俺は、ベルさんが注いでくれたカップのお茶を、「いただきます」と言って飲んでみる。

 これは、紅茶を余り飲まない俺でも、一口飲むと紅茶だと判った。


「美味しい紅茶ですね」

「それは、恐縮です。しかし、ジングージ様のカンヅメの美味さには、ほど遠いですよ。はははは」

「そうですか……ところで、先ほどからアントニオさんを、皆さん会長(・・)と呼ばれておりますが……」

「おや、お話しておりませんでしたか……それは失礼申し上げました。私めは、商業ギルドの会長をしております。一般的な呼び方では商業ギルド・マスターと言った方がよろしいでしょうか」

「商業ギルドのマスターでしたか……」

「はい、私めの個人商会の方は、すでに息子が主に仕切っておりますので、こちらは隠居仕事ですよ。はははは……」


 何と、越後の縮緬(ちりめん)問屋のご隠居、

 しかしてその実体は、水戸光圀だったってパターンだ。

 まさか、アントニオさんが商業ギルドのギルド・マスターだったとは。

 「はははは」と笑うアントニオさんだが、これはわざと正体を言わなかったのは、間違いないな。

 まあ、悪気が無かったのは、判るけど……。


「さて、紹介するのが遅れてしまいましたな。彼女は商業ギルドの副会長をしている、エルドラです」

「ジングージ様、お初にお目にかかります。私はスベニ商業ギルドの副会長エルドラと申します。この度は、アントニオ会長だけではなく、ベルとラックまでも、お助け頂き誠に有り難うございました」






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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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