メタル・ランカー
本日三話目です。
「ギルバートさん、金属階級者って、何でしょうか?」
「あぁ、やっぱり忘れちまっているのか……俺や、お前、アントニオさんが持っている身分証、金属製だろ。冒険者ギルドや商人ギルド、それから軍隊なんかも、ある階級以上でないと金属製の身分証は発行してくれねぇんだぜ」
「そうなのですか……じゃぁ自分も、それなりの階級なのですね」
そう、確かに青い色の板に表示されていた俺の階級は、F(少尉)となっていた。
とすると、俺は軍人という扱いなのだろうか。
まぁ、任官していれば曹長だったはずだが、女神様の眷属が元で死亡したから、女神様による二階級特進って事になったのかもしれない。
そうであるならば、元の世界でも日本以外の国々からは、3尉ではなく少尉と呼ばれることになるので納得だ。
何れにしても俺は、この異世界でも軍属の士官なのだろうか。
「ギルバートさんの身分証、銀製ですよね。アントニオさんのは金製に見えましたが、階級によって金属が変わるのでしょうか?」
「いや、単純に階級が上がった時、身分証の再発行を頼むんだが、俺は手持ちの銀貨をギルドに渡しただけだ。アントニオさんは金持ちだから金貨を渡したんだろうな」
「はい、ジングージ様、ギルバート殿の言うとおりでございます。商人は見栄もありますし、信用第一ですので、私めは金属階級者に昇格した際、金貨をギルドに渡しました」
なるほど、手持ちの硬貨を流用して、メタル・ランカーへ昇格した際、金属製の身分証を作ってもらうのか。
元の世界では、法律違反で処罰物だな。
最も、ステンレス製のコインは、流石に日本でも無かったが。
「だから、金のない貧乏冒険者は、金属階級者に昇格しても大抵は、銅貨を使って銅製の身分証を発行して貰うのが普通だぜ。俺のは銀製だがな」
「そうなのですか……自分は金属階級者だったのですね……」
「あぁ、そうだ。その若さで金属階級者は珍しいぜ。それにしても、ジョーの身分証は珍しい金属だな。それに、その透明な袋はなんだ?」
「判りません……記憶にありません」
(またまた嘘をついてしまった。本当は知っていますギルバートさん。このチープなビニール製の袋は、ステンレス製の認識票に傷がつかない様にするための、保護袋を兼ねた消音用袋です。2枚のドッグ・タグが擦れ合って、音を発しない様にするための袋なのですよ)
それからギルバートさんとアントニオさんは、二人でギルドや軍隊の階級や階級者に関して説明してくれた。
要約すると、こんな感じだろうか。
ギルド 軍隊 身分証 (自衛隊)
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A 大佐 メタル 1佐
B 中佐 メタル 2佐
C 少佐 メタル 3佐
D 大尉 メタル 1尉
E 中尉 メタル 2尉
F 少尉 メタル 3尉
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G 准尉 レザー 准尉
H 曹長 レザー 曹長
I 軍曹 レザー 1曹
J 伍長 レザー 2曹
K 兵長 レザー 3曹
L 上等兵 レザー 士長
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M 一等兵 ウッド 1士
N 二等兵 ウッド 2士
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加えて、Aランクや大佐の上には、Sランクと将軍が有り、自衛官でいうところの将官クラスが存在するようだ。
ちなみに、木片階級者は、初心者であり、見倣いの様な者だと教えられた。
ランカーの構成人数は、完全なピラミッド型で、上級士官相当の金属階級者は、下士官相当の革片階級者に比べ、極端に人数が少ないそうだ。
また、ギルバートさんは冒険者ギルドのDランクで、なんとアントニオさんは、商業ギルドのAランク保持者だそうだ。
お二人とも、1尉殿と1佐殿で、上官殿でありましたか。
これは今後、失礼な事は出来ません。
自衛隊や軍隊は、上下関係が絶対的な組織なのであります。はい……。
特に冒険者ギルドや傭兵ギルドに所属している場合は、ギルドのランクが、そのまま軍隊の階級として扱われるそうなので、戦争が勃発した場合にも上下関係の混乱や実力差が出ない様に、昇格の審査や試験は、殆ど同じレベルで実施されるとの事だ。
俺のランクがF(少尉)と表示されていたのは、どうやらこれが理由らしい。
ただし、俺が本当の軍人だった場合は、階級の表示が逆の少尉(F)と表示されたのだろう。
また、戦闘系では無い商業系ギルドや生産系ギルドでは、異なった昇格の審査や試験が実施されるので、この表示がされるのは、冒険者ギルドと傭兵ギルドなどの戦闘関連ギルドだけとの事だ。
ギルバートさんの部下である、ガレル君は冒険者ギルドのIランクで1曹、ハンナさんはJランクで2曹相当だった。
馬耳少年ラック君と兎耳少女のベルさんは、御者ギルドと待女ギルドのウッド・ランカーから、それぞれレザー・ランカーのLランクに昇格したばかりだそうだ。
二人とも、士長さんに成ったばかりなのだね。
「さて、少しばかり長居をしてしまいましたな。後続の馬車も見えてきましたから、もう街の中に入るとしましょう。宜しいですかな」
「あぉ、そうだな、アントニオさん。それじゃアマンダ、またな」
ギルバートさんは、青い色の板を持った、女性警備兵に手を振りながら言うと、ギルバートさんにアマンダさんと呼ばれた女性警備兵は、微笑みながらアントニオさんとギルバートさん、そして俺に対して敬礼をして言った。
「アントニオさん、ギルバートさん、それではまた。ジングージ様も、またお会いしましょう」