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突貫工事

 俺が操縦する96式装輪装甲車は、ギルさん達"雛鳥の巣"とマリアンヌさん、マーチンさんご夫婦と赤ちゃん、そして、お爺ちゃんのアントニオさんと、未だ元気の無いテンダーのおっさんを後部スペースへ乗せ、銃座にはナークが座っている。

 俺達の後方からは、ロックの運転する高機動車が追従してくる。

 もちろん助手席には、妹のミラが乗っている。


 テンダーのおっさん、いつもなら俺の側に来て操縦を代われとか、もっと速度を上げろとか五月蠅いのだが、流石に今回は静かにしている。

 可哀想なので、俺は怒ったり強く叱ったりもしなかったのだが、どうやら俺達が到着するまでの間に、ギルさんやガレル君、ハンナさん、そしてアントニオさんから、かなりこっぴどく怒られたらしい。

 それが、余程応えたと見える。

 まあ、これに懲りて、少し大人しくなってくれるかもしれないが、俺は無理だと思っているけど。


 夜間の街道には、当然のことながら対向車など皆無だ。

 馬車も夜間は移動しないし、稀に何かが居たとしても、それは獣か魔物なので体当たりしても問題は無いし、96式装輪装甲車なら破損する事もないだろう。

 もっとも、あの巨大なスライムやワイバーンの様な強力な魔物となると、安心はできないので、ヘッドライトをハイビームにして、かなり前方まで注意しながら街道を走って行く。


 夜間の街道走行は、特に問題もなく順調に走行し、程なくして避難民のキャンプまで到着した。

 16式機動戦闘車へ搭乗して警備を行っていたアンとベルが、下車して俺達の元まで走ってくる。

 避難民のキャンプ村からは、サクラさんと部下たち"九ノ一"の面々も同様に走って来た。


「ジョーに兄い、みんな大丈夫だったの?」

「ああ、アン、皆大丈夫だよ。約一名を除いてね」

「誰でしゅか?ジョー様」

「テンダーさん」

「「えっ、生産ギルド長が?」」

「うん。と言っても、怪我じゃないから」

「よかったよ!アタイはギルマスには借りがあるから」

「ああ、身分票の事ね。あれもテンダーさんの冗談だったし」

「でも、借りは借りだよ」

「そうアンは言ってますよ。テンダーさん」

「……娘っ子よ、お主は良い奴だのう……」

「はははは……ギルマスも、落ち込むと素直になるぜ。なあ、アントニオさん」

「そうですな。こんな落ち込んだテンダー殿を見るのは、久々ですな」


 そうなのか、俺は初めてこんなに落ち込んだテンダーのおっさんを見たのだが、以前にも有ったらしい。

 その時は、何があったのか興味はあるのだが、此処で尋ねたりすると再び落ち込んでしまうかもしれないので、その話題には触れなかった。

 これが空気を読める男の対応だと、自画自賛しながら、俺はサクラさんへ尋ねた。


「サクラさん、特に留守中は問題ありませんでしたか?」

「はい、ジングージ様。避難民の方々は落ち着いて天幕にて寛いでおります」

「それは良かった。具合の悪い方がいるなら、ミラに治療してもらえますけど」

「特に配下の者達からも、その様な方は報告されておりません」

「そうですか、それでは皆さんも、お休みください。闇ギルド幹部との戦いでお疲れでしょう」

「ご配慮、有り難き幸せでございます。しかし、夜間の警護は我らも行います故、先ずはジングージ様から、お休み下さい」

「……そうですか、それでは全員の交代で休みましょう。ギルさん達"雛鳥の巣"も、それで宜しいでしょうか?」

「ジョー、俺達は構わねえぜ。それより、このメイド達は一体どうしたんだ?」

「ああ、紹介してませんでしたね。彼女達は勇者コジローさんが創立した"九ノ一"の方々です。ワン・オブ・ナインと言った方が、皆さんには判り易いかな?」

「「「「「何だと!隠密暗殺待女部隊だと!」」」」」


 ギルさんと同時に、アントニオさん、テンダーのおっさん、ガレル君、ハンナさん、そして、マリアンヌさんとマーチンさんも驚愕の表情で叫んだ。

 俺は、仕方なく彼女達"九ノ一"の事を話す羽目になる。

 特に、待女ギルドを配下に持っている商業ギルド長のアントニオさんは、興味津々で俺の説明に耳を傾けて居た。


「なるほど……そう言う経緯だったのですか。それで、ジングージ様が彼女達の管理を、お引き受けになられたと言う事ですか」

「はい、アントニオさん。彼女達をスベニへ同行するのは、問題ないですよね?」

「無論ですとも、ジングージ様。勇者コジロー様が創設なさった組織の待女となれば、働く場所などスベニであれば引っ張りだこでございます。いや、当家にも是非お願いしたいですな。正直、ベルを手放して困っておりました所です。はははは……」

「アントニオ様、申し訳ございましぇん」

「何を言うベル。お前をジングージ様の所へ行かせたのは私ですよ。気にするんじゃありません」

「はい、アントニオ様。ありがとうございましゅ」

「ところで、アントニオさん、折り入ってご相談が有るのですが、宜しいですか?」

「何でございましょう?」

「えっと、彼女達の住む場所を、今住んでいる場所へ増築したいのですが」

「おお、そうですか、そうですか。承りました。スベニに帰ったら、直ぐに建てましょう。大丈夫ですな、テンダー殿?」

「うむ、大丈夫じゃぞい。小僧……ジョーには借りが出来たからのう。突貫工事で、通常の半分、いや3分の1の工期で建ててやるわい」

「おお、テンダー殿、なんと力強い言葉。ジングージ殿、大丈夫ですぞ。生産ギルド長が確約してくれましたからな。はははは……」

「ありがとうございます。アントニオさん、テンダーさん。大変助かります」


 これで、彼女達"九ノ一"のスベニへの移動は問題無くなったし、住まいの事も解決した。

 それにしても、テンダーのおっさん、突貫工事で通常工期の3分の1って、早すぎないか?

 まあ、生産ギルド長が確約してくれたんだし、裏付けが有ってのことだろうから、俺が心配してもしょうがない。

 そして、テンダーのおっさん、俺を「小僧」と呼んだと言うことは、精神的に復活したんだろう。

 落ち込んだテンダーのおっさんは、やっぱり似合わないから良かった。


 その後、俺はサクラさん達"九ノ一"部隊、俺達"自衛隊"そして、ギルさん達"雛鳥の巣"で分担して夜間の警備を行う事にし、非番の者はテントや96式装輪装甲車、高機動車で休む事にした。

 明日の昼頃には、スベニからの第二次救援隊も到着するだろうから、避難民の救援活動も明日までで終わるだろう。

 そして、俺の気になっているのは、闇ギルドの大きな収益源となっている、闇奴隷市場の問題を片付けねばならない事だ。

 明日は、この件に関してフェアウェイ大公と直談判を行う必要がある。

 さあ、明日は、タースの反乱騒動の後片付けを始める事にしよう。






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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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