落城
俺の指示で、アンが16式機動戦闘車の主砲105mmライフル砲が発射される。
発射音が轟き、砲弾が侯爵城の城壁へと着弾するが、徹甲弾なので爆発は起こらない。
しかし、俺達の後方から進軍していた、フェアウェイ大公軍の騎馬隊が乗る馬達が主砲の発射音に怯えて暴れ出してしまう。
「「「ヒヒ~ン!」」」
「静まれ!」
「大丈夫だ!、怯えるな!」
「えぇい!、火炎弾での訓練を思い出すのだ!」
乗馬している騎士達の勝手な言葉などは一切無視して、馬達は怯えて嘶いている。
しかし、フェアウェイ大公の乗馬している白馬だけは、全く動じること無く平然としていた。
これが名馬と言う事なのか、それとも単に鈍感なのか。
普通ならば、聞いたことも無い爆音に対して、生物の危機回避本能から、怯える事は当然だと思うのだが。
「皆の者、馬を落ち着かせろ!。余の愛馬を見るがよい。主が怯えてしまえば、馬もそれを感じて怯えるのは当然だ!」
「「「はっ、申し訳ありません、閣下」」」
「ジングージ殿、部下達の訓練不足、失礼した。爆裂魔法を中断させて済まぬな。気にせず続けてくれ……それにしても、侯爵城の城壁、穴は開いたが爆裂はせんな?」
「はい、フェアウェイ大公閣下。今は敵を怯えさせる様に、3発中1発だけが爆発する様に撃っております」
「なるほど、それは愉快だ。その様な芸当も出来るのか。素晴らしい魔法攻撃だな」
「お褒め頂、恐縮です、大公閣下。では、砲撃を続行します」
「アン、砲撃を続行!」
「判ったよ、ジョー兄い」
ベルが次弾を装填し、アンが砲撃の続行を開始すると、怯えている馬達から再び鳴き声も聞こえたが、先ほどの様に大公の馬以外の全馬が一斉に鳴く事は無く、一部の馬だけが嘶いた。
どうやら、乗馬する騎士達の気持ちが馬に伝わるという、大公の言い分も一理あるのかもしれない。
アンの撃った2発目の砲弾も、侯爵城の城壁へ当然ながら命中し、城壁へ大穴が空く。
そして、ベルが榴弾を装填し、3発目をアンが撃つ。
3発目の砲撃も、見事に侯爵城の城壁へと着弾し、今度は大音響の爆発音と共に、爆煙が炎と共に吹き上がり、城壁が音を立てて崩れていく。
流石に、今度は発射音だけでは無く、榴弾の爆発音が轟いたので再び馬たちが一斉に嘶いた。
しかし、フェアウェイ大公の乗馬している白馬だけは、微動だにせず嘶く事も無かった。
やはり名馬と、乗馬する主が全く驚いていないと言う事か。
「ふはははは、見事だジングージ殿。伝説に残る勇者コジロー殿の爆裂魔法、この目で見られるとは余は思いもしなんだ。いや、天晴れなり」
「大公閣下、恐縮です。侯爵閣下の居城、自分達が破壊しておりますが、宜しいのですよね?」
「構わぬ。侯爵家は全員殺害されたと知らされておる。あの城も、今は敵の根城だ。早く傭兵共と闇ギルドを鎮圧し、城を開放せねば使用人達も助け出せぬからな」
「はい、人的被害を最小限とすべく、居館への攻撃は控えております」
「配慮に感謝する。それで良いぞ。幸い、城壁の周りには堀を作る予定でな、今は民の住居も皆無だ。気にせず攻撃してくれ」
「はい。それでは、城門まで進軍しながら、攻撃を続行します」
「頼む」
行進間射撃を行うためと、フェアウェイ大公軍の騎馬隊との速度を合わせるため、16式機動戦闘車の進行速度は10Km/hとかなりの低速走行だ。
アンが砲撃を続けるので、砲撃音に邪魔されんがらも、砲塔の車長ハッチから双眼鏡を手にした俺と、白馬に跨ったフェアウェイ大公は、会話を続けながら前進を続ける。
アンは、的確に侯爵城の城壁や防衛の主要施設を撃破していき、既に城壁の大半は瓦礫の山と変わり果てていた。
侯爵城へと続く道は、大きく左へ曲がり大公家を囲む大きな堀からも離れ、城壁の周りが新地へと変化している。
此処へ新たな堀を作る予定だったのだろうが、堀が掘られていれば城への侵入も防げたかもしれないと思うと、つくづく侯爵家は運にも見放されていた様だ。
侯爵城へ近づくと、破壊された城壁や、夜に砲撃して崩れ去った塔の無惨な瓦礫が目に飛び込んで来る。
もはや、城壁は防御の役目を行う事も叶わない程、アンの砲撃によって破壊されて居たが、瓦礫が邪魔をして16式機動戦闘車だけではなく、騎馬や歩兵も乗り越えるのは困難な状況だ。
こここは、真正面の城門を破壊し、内部へと進撃せざるを得ない。
未だ堀が掘られていなかったために、城門の扉も跳ね橋ではなく、通常の上下開閉式の扉だ。
スベニやタースを取り囲んでいる城壁に、接地されている扉と同様なので、容易に榴弾一発で破壊可能だ。
侯爵城の城門へと続く道が再び右へと曲がり、その道を進軍して行くと正面に城門が見えてきた。
大公家の居城からは、死角となって見えていなかった城門だが、右側面の城壁や側塔、張り出し陣は既に砲撃で破壊してあるので、侵入者への防御能力としては殆どそぎ落としている。
城門の上部には、傭兵が何人か居る様だが、此方への攻撃はして来ない。
俺は、迷わずベルとアンに、扉の破壊を命じた。
「ベル、榴弾を主砲へ装填」
「はい、ジョー様。榴弾を装填しましゅ」
「アン、城門の扉を撃破。何時もどおりに地面に近い下方へ照準を合わせてくれ」
「判ったよ、扉の下方を狙うよ」
俺が指示を出していると、城門の上に居た傭兵達が、此方へ弓矢の攻撃を仕掛けて来た。
まだ、刃向かう気力が残っていたとは。
しかし、もう弓矢による攻撃なんて俺は受けない。
しかも、そんな遠方からの弓矢攻撃が俺達に効くものか。
「フェアウェイ大公閣下、敵の弓矢攻撃です。自分達の"鉄の箱車"の後方へ移動してください!」
「うむ、判った。皆の者も、陣形を整えよ!」
「「「「はっ」」」」
「アン、城門の上から弓攻撃してくる傭兵軍へ機関銃を掃射!」
「うん、機関銃を撃つよ!」
アンが74式車載機関銃を城門の上に居る傭兵軍へ発射すると、傭兵共からの弓矢攻撃は直ぐに止む。
俺達の後方へと移動していた騎馬や砲兵達からは、歓声が聞こえてくる。
既に、主砲の発射音に慣れたのか、騎馬隊の馬からは嘶く鳴き声も聞こえて来ない。
俺は、双眼鏡で城門の上部を覗いてみたが、傭兵の姿は何処にも見えなかった。
雉も鳴かずば撃たれまいにとは、この事だ。
俺の夜間に発した撤退勧告を、素直に実行していれば死ぬことも無かったのにだ。
「よし、アン、主砲を撃て!」
「うん、主砲発射!」
16式機動戦闘車の主砲105mmライフル砲が発射された榴弾は、狙い違わず城門の扉の下方を直撃し、榴弾の爆発音と共に爆煙が吹き上がり、扉は木っ端微塵に吹き飛んだ。
タースの城門よりも構造的に弱かったのか、下方を狙ったにも関わらず扉全体が吹き飛んでしまい、爆煙が晴れると、城門は何もない空間だけとなる。
よし、これで城の内部へと全軍が進行できる。
「フェアウェイ大公閣下、自分達がまず城内へと進行します。敵の待ち伏せが有るやもしれませんので、此処で待機していて下さい」
「うむ、頼んだぞ、ジングージ殿。気を付けてな!」
「はい、暫しお待ちを。ナーク、MCVを侯爵城内へ向けて低速前進!」
「……了解、低速前進する」
ナークが16式機動戦闘車を発進させ、俺達は侯爵城内へと進行を始める。
傭兵軍の待ち伏せを注意しながらの前進なので比較的低速での前進で、俺も車長用ハッチから砲塔内へと入り、頭上からの弓矢攻撃や魔法攻撃に備えた。
爆散した城門の扉は、小さな破片となって飛び散ったので前進の邪魔には成らない。
この状態であれば、騎馬や歩兵でも問題なく城内へと入って来れるだろう。
さあ、傭兵軍と闇ギルドに占拠された城は落城したぞ。
後は、奴らを鎮圧するだけだ。




