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自由交易都市スベニ

 俺の提供した戦闘糧食Ⅰ型は、全員から美味いという絶賛の嵐だった。

 兎耳少女のベルさんが折角作ってくれた、燻製干し肉と乾燥野菜のスープも塩味ベースで、決して不味くは無いのだが……。

 俺は、ベルさんをフォローすべく、皆の言葉に続けた。


「いえ、ベルさんのスープも、とても美味しいです」


 ベルさんは、「ありがとうございましゅ……」と言って俯いてしまった。

 あっという間に戦闘糧食Ⅰ型は完食され、皆は続いて乾燥パンをスープに漬けて食べ始める。

 正直な感想を言えば、スープは良いのだが乾燥パンは決して美味くなかった。

 戦闘糧食Ⅰ型のバリエーションにある、乾パンの方が遙かに美味い。


 食事が済むと、やはりと言うべきか予想したとおり、アントニオさんからの戦闘糧食Ⅰ型に関する、猛烈な質問攻撃が開始されたのは言うまでも無い。

 先ずは製造方法を聞かれたので、概略は知っている――記憶にある――旨を答えると、是非とも教えて欲しいと哀願されたので後日お話するという条件で、これを承諾する。


 また、戦闘糧食Ⅰ型に印刷されている文字に関しても皆が読めないと言い、この異世界では日本語の文字が知られていない事が判明した。

 喋っている原語は、何故か俺には日本語に聞こえるし、俺が普通に日本語で喋ると、それが相手に通じてしまうのだが、読み書きする言語は日本語では無いという、妙な状況に少し困惑してしまう。


 特に全員が驚いたのは、戦闘糧食Ⅰ型の有効保存期間だった。

 「2年以上です」と俺が言うと、皆が「嘘だ!」と驚愕の声を発してしてしまう。

 もちろん、アントニオさんから「絶対に作り方を教えて下さいね、ジングージ様!」と、俺の手を硬く握られてから哀願された。


 この異世界での非常用や旅の保存食品は、乾燥や燻製が基本の様なので、長期の保存もできないのだろう。

 商人であるアントニオさんが戦闘糧食Ⅰ型に猛烈な興味を示すのは、商売のビッグ・チャンスを見付けたからだろうと、商売に興味の無い俺でも容易に窺い知る事が出来た。


 食事が済むと馬耳少年のラック君と兎耳少女ベルさん、加えてギルバートさんを除く冒険者グループが、てきぱきと後片付け始める。

 アントニオさんから空き缶はどうするのかと尋ねられたので、「地中に埋めて捨てます」と答えたら、「是非、私めにお譲りください!」と、これまた哀願されてしまったので「どうぞ、無料で差し上げます」と答た。


 アントニオさんには凄く感謝されてしまったが、アントニオさんがベルさんへ空き缶を洗った後、仕舞う様に指示していたので、俺は開けた蓋や缶の中の縁が鋭く手を切らないように注意する。

 ベルさんは、「ありがとうございましゅ……」と恐縮して俯く。

 うん、やっぱり可愛いは正義だと、俺はロリコンでは決して無いが実感する。


 夜の野営は、外敵の襲来を警戒し、ギルバートさん達の冒険者グループが交代で警戒にあたると言う。

 俺も警戒に参加すると言うと、日の出までの三交代で良いため「お前は寝ろ」と、ギルバートさんに言われてしまった。

 お言葉に甘え、俺は焚き火の側で寝る事にする。

 アントニオさんとベルさんは、箱形馬車の中で寝るそうだ。


 アントニオさんは、俺も一緒に馬車で寝る様に勧められたが、三人で横になるだけの座席スペースは、馬車に無い事が判っていたので丁重にお断りした。

ラック君は、毛布の様な厚手の布を身に纏い、箱馬車の下へ潜り込んで寝るようだ。


 俺は、寝袋を取り出そうか迷ったが、寝袋だと熟睡してしまうと考え、防寒用のポンチョを取り出して、それを頭から被って寝ることにした。

 異世界に来ての初日は、余りにも鮮烈な一日だったので、瞼を閉じて一日を振り返り思い出していると、そのまま深い眠りへと落ちてしまった。


■ ■ ■ ■ ■


 夜が明け、朝日が昇り始めた頃、俺は目が覚めた。

 朝方は、かなり熟睡してしまった様だが、深夜は冒険者グループが交代する度に目が覚めていた。

 既に兎耳少女のベルさんが、焚き火で昨晩のスープを温めていた。

 朝ご飯の準備をしいるのだろう。


 俺は、日が変わったので、"女神様の加護"を発動してインベントリーのフォルダーを表示してみる。

 すると、女神様が説明してくれたとおりに、戦闘糧食Ⅰ型の召喚回数が三個一組の三回に復元していた。

 戦闘糧食Ⅰ型を、また召喚して取り出しても良いのだが、大鍋は一つしか無かったし、折角ベルさんが暖めたスープを捨てるなんて可哀想な事は頼める訳もなく、戦闘糧食Ⅰ型の召喚はしない事にする。


 "女神様の加護"を発動して無限収納のフォルダーを表示した際、昨日は無かった項目が増えている事も確認できた。

 何故、表示項目が増えたのだろうか。

 一日経過する度に増えるのか、或いはゲームの様にモンスターと戦闘を行い勝利すると増えるのかは、現時点では不明だ。


 慌ただしく朝の食事を皆で済まし、素早く野営の荷物を片付け馬車へ積み込み、俺達は朝日を目の前にして街道を東へ向かい出発する。

 この異世界でも太陽は元の世界同様、東側から昇る事が確認できた。

 まさか、西へ沈んで、再び西から昇るなんて事は無かったので安心する。

 馬車の中では、昨日に引き続いて、アントニオさんからの質問攻撃に晒された。

 今日は戦闘糧食Ⅰ型に関しての質問攻めだ。


 三時間ほど――俺の腕時計で確認――東へ進むと、眼前の彼方に大きく長い城壁の様な巨大な建造物が見えてきた。

 何時しか、街道の前方には荷馬車が数台、やはり東へ向かっているのも確認できる。

 するとアントニオさんが、俺に向かって言った。


「ジングージ様、あの城壁に囲まれた街が、私どもが住むスベニでございます。ようこそ!自由交易都市スベニへ」





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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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― 新着の感想 ―
[一言] 本来なら自衛隊もMREレーションを 世界標準レベルにすべきだな!今まで狂気の 左翼系野党が反対したが、 災害救助で被災者に振舞われるのがMREレーション だから世界標準のメニュー構成にするべ…
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