女神の異世界へ
『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』
連載開始です。宜しくお願いします。
ジャングルの中を少し進むと、突然「ギャアー!」と叫び声をあげながら、緑色の小鬼が襲いかかって来た。
俺は、手にしている89式5.56mm小銃を、襲いかかろうとしている小鬼に向け、スリー・ショット・バースト・モードで発射する。
ダダダッ!と89式小銃が火を噴くと、小鬼は「グギャ!」と声を発し、緑色の血しぶきを撒き散らしながら倒れた。
しかし、直ぐに別の緑色の小鬼が大挙して襲いかかって来る。
そいつらに向けて、今度は89式小銃をフルオート・モードで連射し、俺は難なく小鬼共を殲滅した。
「とんでもねえ世界だな、ここは……」
思わず俺は、悪態を声に出してしまいながら溜息をつき、この異世界へ来てしまった顛末を思い返す。
■ ■ ■ ■ ■
俺の名前は、神宮司 丈。
防衛大学校を先日めでたく卒業し、自衛隊士官として4月から着任予定の、自分で言うのもなんだが前途明るい21歳だ。
既に、4年間過ごした防衛大学校の寮を出るための引っ越し荷造りを全て済ませ、任官し新たに陸上自衛隊幹部候補生学校へ入学するため、福岡県久留米市へ向かう前に住み慣れた横須賀の街を歩いていた。
横須賀の街は、今は盛りと桜の花が咲き誇っている。
満開までは、未だ少し早く八分咲きと言ったところだが、俺が横須賀で見る桜の花も、これで4回目となり今年が最後だ。
来年は、久留米市で桜を見ることになるのだが、関東と違い九州では、桜の開花も早いのだろうから、今から来年の花見が待ち遠しい。
コンビニで少し遅い昼食用のカツ丼弁当やら、同僚に頼まれたカレー弁当、飲み物、スナックなどを買い込み、大通りを超えようと歩行者信号待ちをしていると、俺から少し離れた所に大きな犬が尻尾を振りながら俺を見ていた。
どうやら、弁当の美味しそうな臭いに誘われたらしい。
その時、犬に向かって小さな女の子が「わんちゃん~」と言いながら走り寄って来る。
飼い主なのかなと、ほほえましく思っていると交差点の端から大型ダンプカーが、俺や大きな犬、そして女の子に向かって突進してきた。
ダンプの運転手は、スマートフォンの画面を見ている様で、俺や女の子の事に全く気づいていない模様だ。
ダンプの運転手は、完全にスマートフォンのゲームに夢中なのだ。
(ちっ、ゲーム中毒かよ……)
俺は、とっさに女の子と犬に向かって走り寄り、勢いよく体当たりして女の子と犬をはじき飛ばした。
すると、飛ばされた犬が素早く体勢を整えると女の子の服の襟首を咥え、俺に飛ばされた場所から更に脇の方へと引きずって行くのが見える。
賢い犬だと思う間もなく、ダンプカーは既に俺の目の前まで突進してきており、俺は思わず目を閉じてしまう。
暴走ダンプに轢き殺されると思いつつも、何故か痛みや衝撃を感じる事はなかった。
即死って、こんな感じで人生を終わるのだろうか。
そう思いながらも、ゆっくりと目を開くと、そこは明るく真っ白な空間だった。
なんだ、死んでいきなり天国かよと思いながら、ゆっくりと周りを見回す。
すると、光り輝く粒子が集まりだし、その光る粒子が人型になって行く。
やがて光の人型は、白く長い衣をまとった、美しい女性へと変化する。
その女性は、長く美しい金髪をなびかせながら、すこし悲しげな表情をし口を開いた。
「神宮司さん、誠に申し訳ありませんでした。私の眷属の不注意で貴方を……」
「えっ、貴女は?」
「私は、貴方達の言う神です。世界の管理者と言った方が良いでしょうか」
やっぱり俺は即死で、天国に来てしまった様だ。
超美人の女神様なんて信心深くない俺でも、ここが天国だと思ってしまう。
「そうですか、自分は、やっぱり死んでしまったのですね?」
「いいえ、正確に言うと、あと僅かで死んでしまいます」
「あと僅かですか?」
俺の質問に、女神様は片腕を何も無い空間へ向ける。
すると、その指先の方向に、先ほどまで俺が居た横須賀の街が映しだされ、暴走ダンプカーに轢き殺される寸前の俺が見えた。
あと1m程で目を瞑った俺自身を轢き殺すところだが、その映像は止まっているかの様に見える。
「残念ながら私には、貴方の世界の管理権限が殆どないので、神宮司さんを衝突事故から助けることができません。本当に申し訳ありません」
「そうですか。あの女の子は助かりましたか?」
「はい、女の子も私の眷属も無事でした」
女神様は、そう言うと指先を別の方向へ向ける。
すると、別の映像が何もない空間に映し出され、大型の犬に服の襟首を咥えられて泣きじゃくる女の子が見えた。
「女神様の眷属って、あの大きな犬ですか?」
「はい、犬ではなく狼ですが……。私の代わりに、貴方達の世界を見聞しておりました」
「狼でしたか。とにかく無事で何よりです」
「神宮司さん、お礼……いえ、お詫びとして貴方を私の管理する世界へ、お招きしたいのですが如何ですか?」
「お招きって言うと、生まれ変わりとかですか?」
「はい。本来であれば死亡した魂は、この世界や他の異世界で転生します。しかし、その際に生前の記憶はリセットされ全て失われてしまうのです。希に前世の記憶を持ったまま転生してしまう場合もありますが……」
「それは、仕方がないでしょうね……。自分も女神様の世界で、記憶をリセットされて転生する訳ですか?」
「いいえ、今なら貴方を記憶も身体の姿もそのままに、私の世界へお連れすることが出来ます。それは、転移と言っても良いでしょう。私の、この世界での唯一の管理者権限である複写で、貴方を私の管理する世界へ複写・転生、いえ、転移いたします。もちろん、この世界の貴方は死亡してしまいますが……」
そう女神様は言うと再び腕を挙げ、ダンプカーが俺に迫ってくる空間映像を指さした。
その映像は、先ほどと殆ど同じ映像だったが、暴走ダンプカーと俺との距離が先ほどよりも短くなっており、その距離は50cm程になっている。
そうか、この映像はスローモーション再生の様に、時の流れが凄く遅いが、確実に時間は進んでいたのだ。
「もうあまり時間が有りません。この世界の神宮司さんが亡くなる前に貴方を複写をしないと、貴方の記憶や身体を保ったまま転生できません」
女神様は、少しだけ慌てているような口調で、俺の目をじっと見つめながら、そう言った。
俺に迷っている時間は、もう無いという事は理解できる。
そして、完全なる死か、複写・転生による転移かの二者択一をどう答えるか。
暴走ダンプカーが俺に迫り来る映像を見つめながら、俺は女神様に決断した答えを叫ぶ。
「女神様の管理する世界へ、自分を転生させてください!」