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幕はおりる

 甲板――黒河を東へ下った小型蒸気船ではなく、西――〈魔法使いの島〉へ向かう船でツクモは潮風を浴びていた。

 最終便。ゆえに、夜も遅い。漆黒の波を根気強く進んでいく。〈魔力〉を主動力としているため、蒸気船の騒々しさはないが、酒を飲み交わす乗客の大声と、とめどない笑いが出港直後からつづいていた。

 里帰りする出稼ぎ労働者たちらしい。大荷物を椅子に歌い出す者もいる。帰郷――その嬉しさが全身から溢れていた。この調子では、到着まで静けさとは無縁だろう。

「まあ、ものは考えようだ」

 陽気な彼らを見つめていたレディに、ツクモは話しかけた。出港してからずっと、ひと言も口を開かない――いや、違う。出港直後。博物館図書室で調べたことを包み隠さず話してから、だ。

 ヴァレリアン夫人――つまりレディの母も亡くなっていると告げたときには、顔が強ばった。

 とはいえ、いつまでも隠しているわけにはいかなかったのだ。

 当初ツクモは、黒河の河口まで下り――もしくは途中で外国航路の船に横付けして乗り換え――東の大陸へ渡る腹づもりだった。大都市が多いので身を隠しやすく――もちろん、それに応じた〈組織〉の活動も盛んだが――逃げる場合の選択肢も無数にある。

 レディの父親と思われるエルネスト・ヴァレリアンは、名前から推察するに大陸系だから、なんらかの伝手を頼ることもできるかもしれなかった。

 そのためにはレディも、自分の家族のことを知っておいてもらわねばならない――ツクモなりに勇気のいる決断だったのだが。

 結局、逆方向の〈魔法使いの島〉へ向かっている――ポーチェが大陸行きを強硬に反対し、島へ渡ることを主張して譲らなかったのだ。口角泡を飛ばす勢いだった。ツクモはレディと顔を見合わせ、ほとんど押し切られる形で赤毛の少女に賛同したのだ。

 だから、話すことも少しばかり屁理屈まじりになる。

「〈魔法使いの島〉は、都市部以外はのんびりした田舎だという話だから、きっと部外者は目に付くだろう。誰が追ってきても、すぐに気づく。〈組織〉の支部もない。なにより帝国の情報はすぐに入ってくるほど近いのがいい。帰国の条件が揃えば、その日のうちにでも戻れる。それに、もしかするとポーチェの親類がいるかもしれないし、上手くいけば高位の〈魔術師〉に記憶を戻してもらえる可能性まである」

「ふふっ」

 レディが笑いを洩らす。夜の潮風に踊る帽子の縁を摘んで向き直った。

「慰めてくださるの?」

「……さあな」

 ツクモは首を傾げる。本心から。

「なにか話したほうがいいと思った」

「それを慰めると言うのですわ」

 指摘されても、結局のところ善し悪しが分からない。

「気を悪くしたのなら――」

「そうではなくて」

 レディが首を横に振って遮る。

「感謝してるのです。ありがとう」

 早口――星の瞬く水平線へぷいと目を移す。

「説明したら、かえって恥ずかしくなりますわ」

 波。風。星。闇――途絶えた会話の隙間を埋めていく笑声。歌。冗談。お喋り。

「あなたは?」

 しばしの沈黙などなかった様子で、レディが言葉を継いだ。

故郷(ホーム)は東の果てでしょう? 西に行きながら訊くのもおかしな話ですが」

「望郷の念ってやつか? そんなものはない」

 ツクモは船縁に背をもたれた。小さめの〈光球〉を閉じこめ、低い天井から吊されたガラス球の灯りを見上げる。

「俺は〈組織〉で育った人間だからな。その土地で隠れる方法は知ってるが、溶け込む方法は知らない。根を張るほど長居もしない。生まれた国でも、それは同じだ」

 あえて言えば〈組織〉自体が故郷なのかもしれないが、足抜けをしたいまも特別な――愛着と呼ぶものか――感慨は抱かなかった。

「持っていなければ失う辛さもない、ということかしら? なんだか東洋的……ちょっともの悲しい感じも……」

 呟きになっていくレディの横顔を見つめ、ツクモはふと、ひとつだけ腑に落ちた。

なるほど(あい・しい)。そうだな……もし俺が喪失感ってやつを理解するとしたら、レディやポーチェと別れたときだろう」

 なにしろ、騎士としての柱のひとつを失うのだから。

 うん。こいつは間違いない。俺にしてはたいした発見だ――。

 これだけでも〈封〉が解けて良かったと思える。独り悦に入った。

「ツクモ?」

「なんだ?」

 答えはない。レディが、目の奥――頭の中まで覗き込むつもりではと勘繰る眼差しで見つめる。

 ツクモはしばし身じろぎもできず、船の揺れを数えた。居心地の悪さに顔をしかめたところで、ようやく解放。

「なんでもありません」

 レディがくすくすと笑いをこぼしている――あまり、いい気分ではなかった。

「気になるんだが?」

「さっき申し上げましたわ。説明したら――と」

 そのまま周囲を見回す――追及を躱されてしまった。

「それで。そのもう一人の――ポーチェはどこ行ったのでしょう?」

 腰に手を当て、自由気ままな妹に手を焼く姉の風情。

「わたくし、まだ疑問がありますの。あの子なら分かるかもしれません」

「疑問?」

「〈賢者の石〉が貴重なのは分かりました。それが大切な父の形見だったいうことも。ですが、どうしてあれが――アイリス・ヴァレリアンにとって――わざわざ予行練習までして取り返す『本命』だったのでしょうか?」

 言われてみれば、だ。ツクモは思いつくままに答える。

「代々受け継いできたから、じゃないのか?」

「それなら、いっそ王立技術協会に寄付でもしておけばよかったはずです。債務の代わりに持って行かれることはないでしょうし、保管も厳重ですわ」

 即座の反論。一理ある。目で同意を示すと、レディがさらにつづけた。

「あの子、万博会場でわたくしに持っているようにと言ったでしょう? あのときは騒ぎのどさくさ――あら失礼――混乱に紛れてしまいましたが、もしかすると、なにか考えがあるのかもしれません」

 ツクモは首を傾げる。

「あいつだって、知らないことぐらいあるだろう」

「それならそれで構いませんわ。また真実を突き止めるまでです――そうそう」

 涼しい笑みを浮かべつつ、吊っていた鍵のペンダントを胸元から出す。

「ですから、これ、今後はよろしくお願いしますわ。わたくしが持っているより、ツクモに預けておいたほうが安全ですから」

 押しつけるなり、くるりと背を向けて反論を封じ、ポーチェ探しに甲板を歩き出す。

 その後ろ姿を見つめたツクモは、大きく息をついた。口元に笑みを浮かべていることに気づき、ごしごしと顔を手で擦り――まだ鍵を握っていたことに気づき――西洋柊(ホーリー)の紋様と赤褐色の石を一瞥。

 助けるつもりでいたものの――。

 ゆっくりと後を追う。

 まだ当分、あいつの騎士ってことになりそうだな――。

 こいつは――うん。

 悪くない。


                      ◆


 甲板――ポーチェは一人、足取りも軽く歩いていた。

ついさっき、隠れて覗いていた動力室から追い出されたのだが、不満の色はない。

「〈魔心〉見れたしー」

 なにより船は順調に西へ――〈魔法使いの島〉へ進んでいる。これが興奮せずにいられるか。

 自分が、どうしてここまで〈魔術〉に惹かれるのか一向にわからない。けれども、この一週間というもの愉しくて仕方がなかった。

 記憶は空っぽのくせに、なぜか頭の抽斗に〈魔術用語〉だけはぎっしり詰まっているのだ。

 そのうえ、視える。

 ツクモやレディ、〈教授〉――世の中の大半が気づきもしない〈流れ〉が鮮明に。

 おそらく〈魔力〉と呼ばれるものだとは、すぐに直感――もしかすると、記憶が封じられる前から「視ていた」のかもしれない。ツクモが持ってきた中等〈魔術〉教本がすんなり頭に入ったのも、例えば自分は〈魔術師〉の家系だったなら説明が――。

 ぴたり、と足を止めた。横。船縁へ上機嫌な顔を巡らせる。

「あたしになにか用?」

「ありゃ? 見えてた?」

 悪戯が発覚した若者の声音――銀の梟。手すりで、堂々と翼を休めている。

「ちょっとやそっとじゃ見えないはずなんだけどね。けっこう手間がかかってるんだよ。この〈魔術〉。銀だって安くないし――いつから見えてた?」

「さっきから……それとも、シスルの町でレディやツクモに会ったあとぐらい、って答えたほうがいいー?」

 みすぼらしい服から、レディに見繕ってもらった上等の服に着替えたとき、部屋の窓辺から向かいの屋根に留まっている姿を見つけたのが最初だ。

 それから、ずっと付いてきていた。

「キミには無意味な〈魔術〉だってことは、良く分かったよ」

 銀梟が嘆く。ガラス玉の瞳と銀細工の体でありながら、梟の――その声の主の――若く聞こえるのは本人の年齢か。それとも人工物を経由しているせいか――〈教授〉並にわざとらしい表情がありありと思い描けた。

「まったく鋭い子だね。自分を見てるみたいだ」

 ぴょん、と手すりを横移動。ポーチェのために――こっちにおいでよ、と誘い。

「ということは、こっちが誰か、なぜここにいるかも――」

「王立技術協会〈魔術〉系の最高位術者モルガンでー、鍵のペンダント……〈賢者の石〉でしょー?」

「ご名答」

 その賛辞に、うふっ、とポーチェは無邪気な笑いをこぼす。

「故買屋で話を聞いたときおかしいと思ったのー。最高位術者と呼ばれるような人なのに、あの有名な〈賢者の石〉が偽物にすり替わってることに気づかないで〈魔術〉を使うなんてあるのかなー、って」

 誘われるまま銀梟の横に並んだポーチェは、船に吊られた仄明かりにきらめき、崩れる波頭を眺めながら言う。

「だからねー、贋作屋に偽物をもう一度作ってもらったの。首都で受け取って笑いそうになったよ。とても良くできてたけど、本物と違うのは――あたしには――一目瞭然だったもん」

素晴らしいね(グレイト)!」

 手放しの賛辞に、ポーチェはまんざらでもない様子ながら小首を傾げる。

「でも、わからないこともあるよー。どうして、すり替わってることに気づいてたのに『実験』したのー?」

「その挙げ句に町の人を消して、記憶を封じられてしまったことを怒ってるかい?」

「ううん。町の人のことまで考えられないよ。あたしは〈魔術〉に関われたらどうでもいいし。でもね、レディはずっと辛そうにしてたんだー」

 相変わらずの茫洋とした調子――しかし最後の言葉に、銀梟が虚を衝かれた気配で一瞬黙り込んでから「説明の義務があるか」と独りごちた。

「最初に話を持ち込んだのは向こうのほうなんだ。〈賢者の石〉を手に入れた経緯と、それを使える『研究中の〈魔術〉で完成に近いものはありますか?』って。最高位術者でも、支援がなければ大掛かりな実験はそう簡単にできないんだよ。だから、こりゃいいやと思ってさ。王立技術協会の〈魔術〉系は〈科学〉系に、ここ一世紀ばかり押されまくってて、彼としては肩身が狭いうえに万博も迫って焦ってたんだろうねえ。まだ未完成だとか研究段階だとか不安定だとかいう説明も必要なく了解してくれたよ」

 すり替えたのがレディだとはすぐに気づいた、とつづける。

「あの夜、〈魔法陣〉にいたのは〈魔法卿〉の手配した男でね、塔の地下牢に閉じこめておいた死刑囚なんだ――」

 博打の諍いで相手を刺し殺したという話だった。実験に協力すれば減刑され流刑になると持ちかけた。しかも、流刑地での当面の生活に困らないよう大金も用意されている。どうせ死ぬ身だ、と囚人が今度は一世一代の大博打に乗ったというわけだ。

 同夜、塔の持ち主のキルシウム伯の館で夕餐があったとき、鍵をすり替えようとしていたレディが見つかり――なんでも〈科学卿〉の醜聞に関する情報を買って欲しいと〈魔法卿〉に持ちかけて入り込んだらしい――実験前にひとまず「牢の中身を入れ替えた」のだと経緯を説明する。

「だから実験をしてみせて失敗して、後でこっそり金髪娘さんから本物を、という魂胆だったわけ。実験自体は、石なしでも〈呪式〉の発動状態が確認できるし。せいぜい不発か反応なしだと思ったんだけどねえ。まさかあんなに大暴走するとは」

 嘆いてみせるが、どこまでも他人事の響きだ。

「その前にー」

 ポーチェはもどかしく首をふる。

「実験した〈魔術〉が〈空間転移〉じゃないってところから話してー」

「ありゃ? それもお見通しなの?」

「だってー、〈魔法陣〉は円形(サーカス)だったー」

「ああ、そうだった。君は塔の瓦礫の山を歩き回っていたっけ」

「床石は粉々になったわけじゃなかったから、丸い輪郭はすぐにわかったよー。そのあと、ツクモが本を拾ってきてくれたお陰で〈魔法陣〉のことも詳しく調べられたー」

 ポーチュラカという自称は、ちょうど〈魔法陣〉の項にあった単語だ。

「でも、〈魔法卿〉が大監獄と水晶宮で作ったのは方形(スクエア)ー」

 次第に、その瞳が遠くを見つめる。

「大監獄で〈魔法陣〉の跡を調べたとき、疑問に思ったの。円形よりはるかに下位の、それも小さな方形を使っていながら――」

 脳裏では刻み込まれた〈魔法陣〉の解説がめまぐるしく展開。円形を頂点とし、辺の数が多いものから少ないものへと移ろい――途中、三日月(クレセント)といった変種や数種の組み合わせも交え――最下位の三角形まで辿り着く。

「決められた人を〈構成要素〉丸ごと消し去って(・・・・・)いた。〈魔法卿〉の〈消滅〉は塔の〈空間転移〉を参考にしたって言ってたけど、消えちゃったら再構成できない〈呪式〉を〈空間転移〉で使うとは思えない。つまり、そもそも塔で発動した〈魔術〉は〈空間転移〉じゃなかったんじゃないか……水晶宮の〈賢者の石〉もそれを裏付けてた。用途限定の〈枷〉がかけられているように見えるのに、ちょびっとだけど反応もしていた――魔法卿はちゃんと(・・・・)反応してると思ってたみたいだけど――それは、元の〈呪式〉に反応してたんじゃないかと思ったの」

 波頭から梟へと目を戻す。

「でも、その元の呪式がわからないのー。教えてー。いま〈魔法使いの島〉にいるんでしょー?」

「驚いたな。居場所まで気づいちゃったの?」

「絹糸みたいに細いけど、梟に繋がってる〈流れ〉を見つけたよー。お話の間にね」

 ふふん、とポーチェにしては得意げに笑う。

「お話で時間稼ぎした〈魔法卿〉の真似をしてみたのー」

「彼も少しは役に立ったってわけだ。だけど――」

 梟が音もなく銀の翼を広げた。

「自分の研究をしたいんだ。せっかくいい口実でお目付役を追い払って、こうして自由に羽を伸ばせるんだから」

「あたし、もっともっと〈魔術〉を知りたいの!」

 ポーチェは銀梟に――傍目にはなにもない空間へ――人目も憚らず訴えた。

「嬉しいね。そう思いつづけるなら、そのうち必ず会えるよ。鍵をあの娘さんに託したのだって、こっちとの接点を切らさないため。技術協会なんかに渡したら最後、いまの君には手の届かない存在になる。そう思ったんだろう?」

 ずばりと言い当てられ、ポーチェは頬を膨らませながら小さく頷く。

「むくれないでよ。君の立場だったら、やっぱり同じことをしたと思うよ」

 つまり似たもの同士というわけだ。そう言われると、ポーチェも悪い気はしなかった。

「それに、〈魔術師〉の直感としても正解だ」

「じゃあ――」

「だーめ」

 軽い調子ながらも、銀梟がきっぱりと却下。

「物事には時機ってものがある。その日まで、その気持ちが萎れないことを祈ってるよ」

「ウソつきー。他人のために祈るなんてしないくせにー」

 それほど殊勝な人間なら、シスルの大惨禍に平然としていられない――「その通りだ!」と銀梟の笑声が波音と混じる。

「正直なところボク――自分もあの暴走で仮説の修正を迫られてるんだ。まだまだ謎がいっぱいだよ! でも、とっても優秀なキミのためだ。仮説のひとつを披露しちゃおう。あくまで勘にすぎないけどね……おそらく『鍵』はひとつじゃない」

 ゆえに、銀梟の研究は先が長い。なにしろ「別の鍵」とやらも探さなくてはならないのだ。その間に捕まえてみろ、と言ってる。そうすれば、「時機」も訪れるということだろう。

 呆気にとられたポーチェを横目に、銀梟が柵を離れる。船足に及ばず置いていかれたのは一瞬。すぐに力強い羽ばたきを見せ、並んで飛翔。

「もうひとつだけ。鍵の植物紋様は西洋柊(ホーリー)。その雄株――」

 言い切るよりも早く、銀梟が空へ舞い上がる。たちまち闇に溶け――。

「ポーチェ! 聞きましたわ。動力室に勝手に入り込んだんですって?」

 背後。

「まだ安全ってわけじゃないからな。用心してくれ」

 聞き慣れた声。

「はーい」

 黒い海原から視線をそらし、ツクモとレディに向き直る。顔を見るなり、一週間の記憶が奔流となって脳裏を過ぎていく――気づけば、みずから歩み寄っていた。そんなことをする自分自身に驚き、さらに、ツクモの首もとにかかる銀の鎖に目をやってぽかんと口を開ける。

「か、鍵……?」

 辛うじて、それだけを言った。

「ん? ああ。俺が持ってたほうが安全だろうとレディが……まずいのか?」

〈魔術〉に疎いツクモが、困惑した顔で取り出した。

 目の前に赤褐色の〈賢者の石〉。鍵の持ち手に植物紋様――。

(西洋柊、雄株……ということは雌雄異株)

 ポーチェは答えもせずに考えに集中。

(雄と雌がある。鍵に雄株の紋様。じゃあ雌は? (キー)の対。鍵穴? 違う。(ロック)!)

 読み解けた。

 これは隠喩だ。他の〈魔術品〉と同じ。それを理解できてしまった――まだ仮説段階とはいえ。モルガンの手元に置いたほうが安全なのに、レディが持っていて「正解」という意味が。

 そしてなにより、それ(・・)に思い至ることのできた自分が――なんてこと!

「まあ、ポーチェどうしたの? 顔が真っ赤ですわ」

 レディが――錠が(・・)――だから消えなかったのか――腰をかがめて顔を覗き込む。

「風に当たりすぎたのか?」

 ツクモが――鍵が(・・)――もしかして同じ理由か――訝る。

「い――」

 ポーチェは声を絞り出した。

ふしだら(インモラル)……」

「「は?」」

 黒と碧の四つの瞳が一身に集まり、追いつめられた気分に陥り――もう、走るしかなかった。その場で二人の顔を見ていられず、自分の顔も見られたくなく。

ふしだら(インモラル)よー」

「なんだってんだ」

「ちょっと! お待ちなさい!」

 思いのほか小気味よく逃げる赤毛の少女と、黒髪の東洋人、金髪娘の二人組の突如始まった追いかけっこ――せせこましい甲板で、夜更かしの乗客たちが愉しい余興とばかりに眺め、囃す。

 しばらくは、終わりそうになかった。

これにて幕。

なのですが、色々と未解決なところもあったりしてます。そのへんの言い訳も含めて活動報告にでも書こうかと思って、ふと部数を見たらこれで49部。あと1部書けばキリ良く50部じゃないですか。


というわけで、次の50部目に「あとがき」を載せて締めたいと思います。


最後になりましたが、ここまで読んでくださった方々にはお礼申し上げます。

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