『黒歴史ノート』 ~花子の章~ 其の一
「あ、華音様。」
「確か今日は、学校の方に顔を出さないと駄目ですよ?」
何時もの様に、お昼過ぎの穏やかな日常を過ごそうとしていた華音様に、本日の予定を告げる。
「む、面倒くさいな。」
「まあ、仕方がない・・・昼食の後に行く事にしよう。」
華音様は、『霧島華音』以外に学校の運営もしている。
その学校とは、『私立霧華高等学校』といって、香奈ちゃん達も通っている学校だったりする。
基本的に資金だけ出して、運営は投げっぱなしの華音様は、学校に行く事も少ない。
・・・様は、面倒くさいという理由だけなのだが。
昼食を軽く済ませ、私と華音様は、学校に向かう事にする。
私はトイレの扉を開けると、その先を学校の理事長室へと繋げた。
扉があれば”どこにでも移動できる”私の最も得意な能力・・・チカラだ。
「今日は、こちらの書類の山に目を通して頂いて、判子をお願いします。」
普段来ないので、毎回書類の山である。
結局、夕方まで書類と格闘する事になった。
その夜、何時もの様に「オンラインゲーム」を始める私達。
「ふむ・・・今日も居ないか。」
居ないかと言ったのは、漆黒と紅蓮・・・良きライバルであり、グランドクエスト攻略時では、良き仲間でもある。
その廃人とも呼べる二人が、ここ数日はログインすらした形跡がない。
「一体、どうしたんでしょうね。」
「どちらにせよ、あの二人抜きでは、グランドクエストには挑戦できない。」
「・・・今日は、軽く流そう。」
「書類整理で疲れたしな。」と、華音様。
その日は、25時にはゲームを切り上げた。
翌日。
今日は世間的には土曜日・・・になる筈である。
毎日が日曜日。の私達にはあまり関係ないのだが。
まあ、学生・・・香奈ちゃん達は授業が半日な事もあり、『霧島華音』へとやって来た。
しかし、今日は状況がちょっと・・・違う感じ。
いち早くその事に気づいた華音様は、詳しく話を聞いた。
その結果・・・
「つまり、この『ノートの異世界』に行ったまま、兄が帰ってこないという訳だな?」
と、まあ・・・ちょっと訳が分からない状態なのである。
香織ちゃんの話はこうだった。
1週間前の週末の夜、何時ものように寝た。
気が付いたら、『異世界』だった。
しかも其処は、10年前に熱中したゲームの世界だった。
魔王を倒し、光に包まれると・・・目が覚めた。
「夢オチ?」
と思ったが、その内容が『黒歴史ノート』・・・
・・・昔、自分達・・・兄妹が考えた設定だったので、『黒歴史ノート』を確認に実家に行った。
その時は何でもなかったのだが、夜、寝ると『異世界』に行くようになった。
しかし『異世界』で、兄と再会できない。
すると実家の両親より、『直哉=兄』が目を覚まさない。
と連絡があった。
きっと兄は、『異世界』から帰れなくなったんだと思う。
との事。
「かおりんは帰ってこれるんだねぇ♪」
そういえばそうである。
香織ちゃんは何故帰って来れるのだろう?
「あ、うん、ログアウトってメニューがあるの」
「???」
「まるで、オンラインゲームですね。」
「うん、実際オンラインゲームなの。」
「????」
華音様以外の全員は首をかしげている。
夢の世界でオンラインゲームとは?
なにそれ、理想郷!?などと考えるのは、廃人思考なんだろうね。
「なら、実際に行ってみるとしよう。」
華音様は2冊のノートを見ながら言った。
「実際にって華音様?」
「原因は?そもそも、ノートの世界って・・・」
ノートの世界=夢の世界??
そんな世界、私のチカラを使ったって行ける所ではない。
それに、原因が分からなければ・・・
「原因は『付喪神』だ。」
と思ったら、即答。
流石は華音様♪
「『付喪神』って、長い間大事にされた物につく神様ですよね?」
「神様なのに、悪さをするんですか?」
「よく知ってるじゃないか、香奈。」
「確かに神様だ。」
「荒ぶれば禍をもたらし、和ぎれば幸をもたらす。」
「それが、『付喪神』だ。」
「しかし・・・」
「今回の場合は、悪さをしている訳じゃない。」
「だろう?香織。」
「はい、これは私と兄が望んだ世界です。」
「私達は、このノートに理想の世界を描いたんです。」
「終わることの無い、もう一つの世界を・・・」
大事にされた物には、神様が宿る。
そう、日本には八百万の神様が居るのだ。
何にでも神様は宿る。それが『付喪神』だ。
そうして宿った『付喪神』は、二人の望み・・・ノートの世界を作り上げた・・・夢の中に。
でも、原因が『付喪神』って分かってるんだから・・・
と、ふと思った事を口にする。
「えっと、この場でノートの『付喪神』を祓ったら?」
「馬鹿かお前は」
はうっ
頭ごなしに馬鹿と言われた。
「そんな事をしたら、直哉が帰れなくなるだろう。」
「だから実際に行くと言ったのだ。」
「花子・・・『姫薙』」
「はい、華音様!」
「『夢』の『精霊』のチカラを借りて、夢の中の『異世界』に直哉を迎えに行く!」
夢の中のゲームの世界・・・ちょっとわくわくした。




