『花の城の音姫』 ~海魔の章~ 終
(まっさか、食べ物屋に居付いているとわねぇ・・・)
「華音さん、食いしん坊ですね。」
『社』の裏の階段を上り・・・『桜』。そして『祠』の中へと降りる。
ここから先は、うちと香奈、狐に黒猫の『かのん』の3人と1匹や。
・・・ん?うちと狐も匹で数えるんやろか??
其れは兎も角。
うっすらと光る壁の明かりを頼りに、階段を降り、やがて広間へと出る。
「ただいま。華音さん。」
「おかえり。」
「『かのん』は見つかったようだな。」
「はいっ。」
『かのん』は香奈の手をすり抜け、華音様の元、隣にちょこんと座る。
「早速儀式の準備をする。」
「その後此処の広間は封印され入る事は出来なくなる。」
早速に儀式に取り掛かろうとする華音様。
恐らく・・・時間は余り残っていないんやろね。
そして、
「狐。ありがとう、私を守ってくれて。」
「何を言う。儂は姫の為だったら、命だって惜しくないのじゃ。」
「クラーケンも色々と面倒を掛けたな。」
(いえいえ。この程度、華音様から受けたご恩に比べたら・・・)
「香奈。」
「はい。」
「これより儀式は1週間程はかかるだろう。」
「・・・店で、私達が出会った場所でまた会おう。」
「はいっ華音さん。」
「最も・・・この次に会う時は私は猫の姿だがな。」
「どんな姿だろうと、華音さんです。私の大切な友達の・・・」
華音様は、うちら一人一人に感謝の言葉をくれた。
うちらは『祠』を後にする。
これから『桜』の少女が華音様と共に儀式を行うのやろうね。
香奈の表情に不安の色は無い。
当然、うちらも華音様が無事に戻ると信じている。
香奈達と別れを済ませ、うちと狐だけが残る。
「クラーケン。お主は此れからどうするのじゃ?」
(そうやね・・・一度、海に戻るわ。)
(この位で、華音様から受けた恩に報いたとは思わん。また何かあったら駆けつけるわ。)
「そうか、儂は修行に戻ろうと思うのじゃ。」
(そか、なら暫くのお別れやね。)
「うむ、お互い姫の役に立てるように・・・な。」
(そやね。)
「では、達者でな。」
うちらは、それぞれの場所に戻る。せやけど、華音様から受けた恩。いや・・・多分、うちが勝手に思うとるだけかも知れんけど・・・
・・・友達である華音様の為に、困っていたら直ぐに駆けつける。
たとえ・・・どんな所でも、何年、何十年たっていようとも。
・・・
・・・
・・・
其処は深い闇の中。
海よりも、地よりも深く暗い。
富士の地下深く封印されしものは呟く。
「ふん、猫一匹殺せんとは・・・」
『夜魅の王』
手勢は失われ、なおも低級な夜魅を使役し、黒猫・・・『かのん』を殺そうとした。
『かのん』が、『黒狼叉音』の元に届けられた今、打つ手は無い。
「お互いに、手札を使い切ったようだな。」
その目は遠く、てうしの地を見据えている様にも見える。
黒狼叉音は、現世に分身を置いて、有利になったつもりかも知れないが、所詮は猫一匹。
手勢さえ、整えば何とでもなる。
富士の封印を解き、『常世』を『現世』に具現させるには、『黒狼叉音』の喰らう他には無い。
「何にせよ・・・暫くは、様子を見る事になりそうだな・・・お互いにな。」
深い闇の中、一つの影が揺らめいた。
其処にはもう、影は居なかった。




