『花の城の音姫』 ~海魔の章~ 其の六
「私に出来る事なら、何でもするよ。」と、香奈は即答する。
「ありがとう。香奈。それで何だが・・・」
「・・・黒猫を探して欲しい。」
「え?黒猫??」
ああ、あの黒猫やね。
「華音さん。なんで猫探しなんですか?」
「あーその・・・なんだ・・・」
「うむ。やはりこの事も話すか・・・」
(華音様。往生際が悪いですよ?)
(香奈の事も話さないと、その猫探しは成立せんですよ?)
「本当じゃぞ、姫よ。」
「覚悟を決めい。」
うちと狐は、華音様に香奈の事を話すように促す。
正直、うちにも香奈の事はよーわからん。気になって無いといったら嘘になる。
多分、香奈には華音様に通じる何かがあって、それが猫探しに通じる筈・・・や。
「え?私の事??」
「・・・私が華音さんを覚えている理由ですね?」
香奈がはっとした表情になる。華音様の過去の話を聞いて、自分の事はすっかり忘れていたようやね。
「そうだ。」
「もう・・・単刀直入に言う。」
「香奈は・・・私の生まれ変わりだ。」
え?香奈が、華音様の生まれ変わりやて!?
うちも内心動揺する。狐も・・・知らなかったみたいやね。
香奈はと言うと・・・
「え、えーーと・・・どういう事なんですか?」
・・・正直ピンとこないみたいや。
「正確には、体の生まれ変わりって事になる。」
「魂の方は・・・私がまだ存在しているから、輪廻の輪には入っていないが、体は喰われてしまったのでな。」
「つまり・・・体だけ輪廻転生??して、それが私という事ですか??」
「まあ、そういう事だ。」
「だから、私の事も忘れていない。私の瘴気に対しても耐性がある。」
「夜魅が見えたりするのも、私の体にその資質があったのだろう・・・私は強大な夜魅になったのだからな。」
香奈が華音様を忘れんかったのは、体の記憶があったから。という事。
「ああ〜分かっている。まだ猫探しの理由にならないな。」
「私は近々再封印される。その前に新たな憑代が必要だ。しかし、適合する人形はもう無い。」
「・・・本来ならば、香奈を憑代にするのが一番だ。なんたって私の転生体だからな。」
「勿論、それは却下。親友の体を乗っ取ってまで現世にいようとは思わん。そこでだ・・・」
香奈が夜魅に襲われた事があったという事も、華音様の憑代になりうるなら、納得がいく。
つまりは・・・
「そこで、黒猫の『かのん』だ。あやつはそもそも生物じゃない。」
「私の瘴気で生み出した使い魔の様なモノだ。故に・・・私のチカラの一部・・・まあ、記憶と僅かばかりの能力・・・と言った所か・・・位なら移せる。」
「それではれて私も現世に戻れると言う訳だ。」
その代わりが黒猫。
華音様は、己が完全な状態で『この世』にとどまる事より、猫の体になって親友である香奈と過ごせることを選んだ。
・・・華音様らしいのかね?
「それで、心当たりは?」
「アイツは時々ふらっと居なくなるからなぁ・・」
「でも、てうしから出る事は無い。店の辺りか・・・学校・・・漁港辺りも怪しい。」
「つまり、分からないって事じゃろ?姫。」
「扉も開いた事じゃ、儂も手伝おう。」
(勿論、うちも手伝うよ?香奈。)
「ありがとうございます。桜井さん。クラーケンさん。」
「それでは行ってきます。華音さん。」
『祠』を出ると、辺りは暗くなり始めている。
夜は夜魅が活動する時間。実際、この街に張ったと言う結界のチカラは、ほとんど失われている。
あの”華音様”が『この世』から消えた所為や。
「うーん。暗くなってくるし、本格的な捜索は明日になるかな。」
「明日の9時に学校前に集合でどうかな?」
「おっけー」「らじゃ。」「わかりました。」「了承なのじゃ。」(うちもそれでええわ。)
「まあ、その前に儂と海魔は、猫の気配を探ってみよう。」
(そうやね。華音様が生み出したのなら、華音様に似た気配がしてると思うわ。)
「それで見つかれば、良し。じゃ。」
狐の提案にうちも乗る。
多分、猫を探しながら・・・夜の内に夜魅がいたら倒しておく。そういう事やと思う。
香奈達と別れ、うちと狐は猫探しに向かった。




