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『霧島華音・転』 ~『不思議』の『何でも屋』~  作者: hermina
第7章 『花の城の音姫』 ~海魔の章~
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『花の城の音姫』 ~海魔の章~ 其の五

昔、この地にひとつの国があった。

その国は、季節ごとに花が咲き乱れ、その国の花の城とまで呼ばれていた。

その国に、器量はあったが少し怠け者で、でも、父様と母様・・・そして、女中の華が大好きな姫がいた。

平和な毎日を過ごしていた姫だったが、ある時、隣国が一匹の物の怪によって滅ぼされ、戦火は姫の国にも及んだ。

物の怪のチカラは強く、人のチカラでは到底かなわなかった。城は落とされ、城下は火に包まれ・・・

・・・城よりなんとか逃げ出した姫と女中の華も物の怪に見つり殺されてしまった。


殺された姫は、闇に落ちる。暗く、何も無い闇の中。

そんな中で、姫の中にどす黒いモノが生まれた。

真っ白な姫の心に生まれたどす黒いモノは、瞬く間に姫を黒く染め上げる。

黒い姫は呪う。自分を・・・父様を母様を華を・・・民を惨殺した物の怪を呪う。

3日3晩にわたり呪いの言葉を吐きつづけ・・・

・・・姫は物の怪と同じ夜魅やみとなった。

夜魅となった姫・・・のちに『黒狼叉音こくろうさね』と呼ばれる黒い獣は、物の怪と対峙する。

余りに強いチカラを持ってしまった姫は、物の怪を一撃でねじ伏せ、その物の怪すらも喰らい更なるチカラを付けた。


「喰い足りぬ。餌は何処じゃ?」


港の方に僅かながらの明かりが見えた。姫は其処に向かうとと餌にかぶりつこうとする。


「待ってください。物の怪様。」

「私をお食べ下さい。そして、この子・・・この子だけはどうかお助け下さい。」


姫の瘴気を浴び、息も絶え絶えに餌が懇願する。

違う。

あれは・・・人だ。

このままでは物の怪と同じでは無いか。

現にあの・・・親子も儂を物の怪としか、見ていない。


「警告するのじゃ・・・儂はあの山に居る。何人たりとも、あの山に近づくでないぞ?よいな??」


「え・・・?そのお声は・・・姫様??」


姫は身を翻すと再び山に登り、里には下りず。ただ・・・ただ・・・己の中のどす黒いモノと戦っていた。


それから、ひと月ほど過ぎた。

何人たりとも近づくなと言った山に、一人の巫女が登った。

名は『柏木千重かしわぎちえ

この地方を守る陰陽師の一族の者だ。


「闇に落ちた姫よ。貴女の瘴気はやがてこの地を滅ぼすでしょう。」


「巫女よ。ならば儂を殺してくれるのか?儂はもう、死にたい。」


「私に・・・いえ、私達のチカラでは姫を殺せません。ですが、封じる事は出来ましょう。」

「しかし、その封印すらも数百年に一度は、解け再び封印せねばなりません。」


「儂を封印したとして、数百年後に封印が解けてしまったら元もこうもあるまい。」


「ええ。ですから・・・私も同じ時を生きましょう。」

「姫を封印し、私も眠りにつく。姫の封印が解ける時、私はまた目覚め封印を施すのです。」


姫は、巫女を思い止めたが、巫女の体ももう、先の戦いで長くは持たないのであった。

姫は、巫女の提案を受け入れ、この地に封印される事となった。

それでもなお、強力な姫のチカラは3つに分けられる事となる。

一つは『桜』の下に、一つは海の『犬岩』になった。

そしてもう一つは・・・人形の体に・・・

その人形の体からは瘴気が漏れず、自由に動き回れる体。

巫女のチカラで生み出された姫そのものだった。

巫女は全ての封印を行うと『桜』を憑代に眠りについた。

それ以降、この『桜』は『千重の桜』と呼ばれるようになった。

物の怪になっても人を殺めなかった姫は『黒狼叉音』と呼ばれ、人々に恐れられながらも段々と土地神として崇められる様になった。



「それが、『花の城の音姫』の真実なんですね・・・」香奈はつぶやく。

そして、華音様の全てを受け入れ、それでも友であろうと決意に満ちた目。


「ああ、私は千重のお蔭で、人と再び触れ合う事が出来るようになった。」

「だから私は、少しでも人の役に立とうと、『何でも屋』を始めたんだ。」


これが華音様の過去。そして後には、その『何でも屋』稼業で、うちら一族も助けて貰った。

もう・・・何百年前になるだろうかね。


「それで・・・だ。香奈。」

「香奈に頼みがある。」


華音様は、香奈に頼みがあると切り出す。

恐らくは香奈にしか出来ん願いやと思う。うちも、出来る限りは協力しようと思う。

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