『花の城の音姫』 ~海魔の章~ 其の四
うちらは『祠』の前へとやって来た。
扉には錠前が付いており、扉は閉ざされている。
一見見、うちらや夜魅なんかのチカラがあるモノなら壊せる程度の扉にも見えるが・・・
・・・うん、なんか特殊なチカラが使われとるね。
恐らくは、『桜』の巫女さんのチカラやね。
そして、この鍵でしか扉は開けられん。
(ほんなら、いくで?)
「はい。」
うちは香奈の返事を聞くと、懐から『鍵』を取り出し、それを錠前に差し込む。
かちり。
錠前は簡単に外れた。
扉を開けると、奥には地下へと続く階段が見える。
この感じ・・・
(この下に・・・おる。華音様の気配を感じる。)
(この先は、香奈だけにした方がええ。この先は・・・『この世』じゃない。)
恐らく香奈は大丈夫や、でも、それ以外のお嬢ちゃん達は・・・
「・・・分かりました。」
「ちょ、ちょっと!香奈だって危険なんじゃないの!?この世じゃないってどういう事よ!?」
(言葉通りの意味や。この下はこの世じゃない。この世に華音様の瘴気が溢れたらこの地は滅ぶで?)
(あんたらが行ったら・・・死ぬわ。)
「それは、香奈さんも同じじゃないんですか?」
「そうだよ!もっかなだって・・・」
「・・・大丈夫だよ、皆。私・・・多分だけど、『この世のモノ』じゃない何かを持ってるから。」
「多分って・・・」
「うん、何でか分かるの、そう・・・懐かしいっていうかな?そんな感じすらするの。」
(そうやね。多分香奈は華音様の”特別”なんよ。)
そう、香奈は特別な子。
香奈からは、華音様と同じ種の何かを感じる時がある。
ほんと、不思議な子やわ。
・・・
・・・
・・・
「・・・そう、分かったわ。」
「かおりん!?」「香織さん!?」
「クラーケンさん。香奈をよろしくお願いします。」
(はいよ。まかされたわ。)
うちと香奈は扉をくぐり、地下へと降りる。
壁はうっすらと光っていて、足元を照らす。
・・・何か、巫女さんの技でこんなんあったなぁ?『光導』やったかな??
(光があるとは言え、足元、気を付き。)と、一応香奈に注意を促す。
暫く降りると、光が漏れた・・・部屋やろか?らしき物が確認できる。
どうやら、ここの様やね。
うちらは中へと入る。
・・・
・・・
・・・
中は広い空洞になっており、奥は一段上がっている。
そして、その上には・・・
「・・・久しぶりだな、香奈。そしてクラーケン。」
黒い大きな獣。
かつてこの地で恐れられ、『桜』に封印された夜魅
魔狼を彷彿とさせるその姿、そのチカラを持つその名は・・・
『黒狼叉音』
華音様の真なる御姿。
うちは膝をつき、傅く。
香奈は最初こそ戸惑っている様に見えたが、「はい。華音さん。」と、本当の華音様と理解できたよう。
そして、香奈は思いの丈をぶつけるかのように叫んだ。
「華音さん!!」
「私は華音さんに言わなければならない事がたくさんあります。」
「私自身がどうとか、華音さんが何者かなんて関係ありません。」
「私達は・・・そう、友達なんですから。」
其処まで言うと、香奈は言葉を詰まらせた。
代わりに華音様が話し出す。
「香奈。だが私は、香奈に知って欲しい。」
「私の事、そして・・・それには香奈の事も関わってくる。」
「私の事も?」
「香奈が『この世のモノ』じゃないモノを見たり、私の事を忘れなかったという事だな。」
「少し長くなるが・・・昔話をしよう。」
「が、その前に・・・クラーケン。」
華音様は、イキナリ話を此方に振る。
まだ少し、迷っているのかも知れんね。
(はい。華音様。)
「お前が戻ったという事は、『楔』は全て破壊できた・・・という事だな?」
(はい、途中邪魔が入りましたが、全て破壊してまいりました。)
「そうか、そちらにも手が及んだか・・・私の方に全て引き付けられると思っていたのだが・・・」
「・・・すまなかった。」
(い、いえ、勿体ないお言葉にございます。)
大河童。元の姿に戻れる海の中でなかったら・・・もっと苦戦をしていたやも知れん。
「これで、夜魅の王も動けまい。」
「・・・結局は振りだしなんだがな。」
何にしても、『楔』は全て破壊した。
華音様の方も首尾よく敵幹部を討てたという事なら、暫くは心配いらんね。
「さて・・・昔話だ。」
「私にとって、これはあまり思い出したくは無い話だ。でも、香奈には知って欲しい。聞いてくれるか?」
「うん。」
「私達・・・友達だもん。」
華音様は香奈に確認を取ると、ゆっくりと話し始めた。




