『千重の桜』 ~妖狐の章~ 終
辺りは静かになった。扉を開けようと試みるも・・・やはり開かない。
階段を下りる他は無いようだ。
儂は慎重に階段を下りる。苔の様な物だろうか?それがぼぅっと光って足元を照らす。
どのくらい降りたろう?社から『桜』までの階段程だろうか?暫くすると大きめの広間に出た。
「狐。」
姫の声が聞こえた。
「姫。無事だったか。」
儂の問いに・・・
「いや、無事では無い。」
「あの人形は消滅してしまった。夜叉姫を道連れにしてな。」
答えたのは、姫の声で話す大きな黒い獣。昔、儂が怯えて逃げ出した大きな獣だった。
だが、あの時のように瘴気を出し、理性を失っているという事は無い。
「そう・・・だったの。姫は、此方が本当の姫・・・だったの。」
姫は頷く。
「なんとか、夜叉姫の念を追い、夜魅の王の場所は特定が出来そうだ。」
「だが・・・」
姫には此処から出る為の体が無い。
それに姫の話では、現世において『霧島華音』とこの場にいる為か、儂の存在が無かった事に改変されたらしい。
そうなると、チカラを与えていた花子のチカラも弱くなり、此処に入る事もかなわない。
花子が居なければ、儂が姫の新しい体(人形)を探す事も出来ない。
「ならば、待つしかあるまい。」
「ここを開けてくれるモノをな。」
多分それが、桃井香奈なんだろうと儂は思う。あの少女は”普通”では無い。何かがある。
きっと姫もそう信じているだろう。
儂がそう考えていると、姫は手をおいでおいでと振り、ちょいちょいと自分の隣を差す。
儂は、狐の姿になり、姫の横に座る。
「狐。」
「待っている間、話でもしようか。」
「そうだの、昔みたいに。」




