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『霧島華音・転』 ~『不思議』の『何でも屋』~  作者: hermina
第6章 『千重の桜』 ~妖狐の章~
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『千重の桜』 ~妖狐の章~ 其の一

『今』より『昔』の物語。


『桜』さんのいる小さな山。山と言うほどの高さがある訳でも無いが、周りにそれ程高い山がある訳ではないので山と言われているのだろう。

僕は今日も、この山に登る。『桜』さんの所まで続く山道を通り、やがて小さな社にたどり着く。『桜』さんの所に行くには、この後ろの階段をさらにのぼらなければならない。

僕が社の裏手に回ろうとすると、何時もの様に声を掛けられた。


「何じゃ、また『桜』に行くのか?子狐。」


カカカと笑うこの人は、『音姫』。何故かこの社に毎日いる人だ。

こんな山の中には似つかわしくない立派な着物を着て、社にある縁台の端にちょこんと座っている。

身寄りのない僕にとっては、数少ない話し相手だ。・・・まあ、それは姫にしてもそうみたいだけど。


「こんにちは、姫。」

「そうだね。僕は『桜』さんが大好きなんだ。毎日会いたい位にね。」


僕は何時も通りの挨拶染みた会話をし、『桜』さんの元に向かう。

後ろから、「口をすっぱくして言うが、『祠』には決して入るんじゃないぞ。」と、何時もの様に声がかかった。

僕は「分かっているよ姫。」と答えて階段を上る。

『桜』さんに向かう途中に『祠』がある。

姫が決して入ってはいけないと言う『祠』。実際問題、入ろうとしても僕では扉を開けることすら出来ない訳だけど。

そんな『祠』をすり抜けて漸く『桜』さんの元にたどり着いた。


「こんにちは『桜』さん。今日は暑いですね。」


何時もの様に僕は、一方的に話しかける。主な内容は姫との会話なんだけどね。


ふわり。


新緑の季節の風がやさしく木々を揺らした。まるで『桜』さんが返事をしているように・・・


帰り際、これまた何時もの様に姫に呼び止められる。

手をおいでおいでと振り、自分の隣・・・縁台をちょんちょんと指差す。

僕は縁台にぴょんっと乗る。


「『桜』はどうだった?」


「うん、何時も通り。今日も綺麗だったよ。」


何時も通り。

前に姫から聞いたんだけど、『桜』さんは春になっても咲かないらしい。

実際僕も、春に咲いていなかったのを見ている。蕾はあるが開花する事は無い。葉が茂っていても、葉が落ちても、蕾はそのまま。

咲く事は無い。それでいて・・・凄く綺麗な『桜』さん。

その所為か、姫は毎日「『桜』はどうだった?」と様子を聞いてくる。そして僕も、何時も通りに答えるのだ。


「そういえば、子狐。」

「何故、雌なのに雄のような言葉を使うのじゃ?」


「え?何故って、僕はこの方が楽だから・・・かなぁ?」


「駄目じゃぞ?儂の様にかわゆく話さないとな♪」


そういってカカカっと笑う。

何時もの他愛のない会話。僕と姫はこんな風に夕方まで話をしている。

そして・・・


「また明日。」


「ああ、また明日なのじゃ。」


と言って別れるのだ。

そんな毎日がもう、1年近く続いている。

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