『学校の七不思議』 ~華音の章~ 其の二
夜。
私は学校の前で、香奈達を待つ。
最初に来たのは双子。次に香織。遅れて香奈も到着する。
「皆、集まったようだな。」
「さぁ〜〜て、何処から行こう??」
「うむ、其れなのだが・・・」
双子の赤い方の問いに私は答える。
此処が重要だ。
正解は3つある。
特に『桜』は危険を伴う・・・可能性がある。
これを避けさせ、且つ他の所の3つを正解と思わせる・・・もしくは、『桜』が正解だが、確認には行かない。と言う流れを作るようにしなければならない。
「先ずは、体育館、音楽室、衣装室と特別教室棟を回った後、旧校舎に向かうのが効率がよかろう。」
「正し、『桜』に行く事は許可出来ない。」
「何で?」
「何でも何も、山道を登らなければ『桜』には行けない。」
「暗闇で山道を歩いて、怪我でもされたら問題だ。」
「ま、理にはかなっているわね。」
「それに、『桜』以外を行くのならば、『桜』に行ったのと変わらないわ。」
「それで、本当かどうか分かるしね。」と香織。
「むむむ・・・確かに『桜』まで行けないかも?」
「でも、華音さんが外したって事は、それは正解じゃないって事だよね?」
「そうですね。」
と、双子達も納得したよう。
香奈はと言うと、難しい顔をしていたが、結局は私の提案通りとなった。
「こういうのってドキドキするわね。」
こうして、肝試しは始まる。
--------体育館--------
・誰もいない体育館でボールの音がする。
夜の校庭は、シーンと静まり返っている。
私達は、渡廊下を歩いた先の体育館に向かう。
普段出入りしている扉は、夜なので当然閉まっている。
私達は、体育館の隅にある扉から中に入る。
入った場所は体育倉庫で、そこを通過して舞台袖を通り中へ入る事が出来る。
「夜の体育館って怖いですね・・・」
「わ、私は、へ、平気だし・・・」
とても平気そうに見えない。
さて、少し驚かしてやる事としようか。
・・・一応、名目上は肝試しって事らしいからな。
私は一人、体育倉庫に戻ると、バスケットボールを2つ取ってくる。
「先ずは、体育館でボールの音だったな。」
「う、うん。」
「私の聞いた話だと、遅くまで部活で残った帰りに扉が閉まってて、真っ暗な体育館からボールの音が・・・」
ターン・・・タンタンタン・・・
私はバスケットボールを一つ床に落とす。
「ひょわわわわわわわ〜〜〜〜〜〜」「きゃ」「・・・」
双子の赤い方の声の方がびっくりした。
青い方はすっかり固まっている。
タン、タン、タン
今度は、ドリブルをする。
「とまあ、こんな感じにだな・・・」
「ここは構造上、戸締りをしたら体育倉庫を通って表に出なければならない。」
「多分、戸締りをした先生が、倉庫の中のボールを落としたんだ。」
「体育館の音はよく響くからな。」
「華音さ〜〜〜んっほんとぉぉぉぉぉに怖かったよぉぉぉぉ」
「・・・」
「ほんと、人が悪いわ。」
「ん?だってこれ肝試しなんだろう?」
「脅かす役がいないとな♪」
まあ、香奈は私が体育倉庫に戻ったのに気が付いていたようだがな。
「じゃあ、これは違う!」
「次行こう、次!」
「・・・」
立ち直った双子の赤い方に急かされ、次の場所・・・音楽室へと向かう。
・・・双子の青い方は、まだ固まっていた。
カチリ。
扉に鍵を掛け、体育館を後にする。
ターン・・・タンタンタン・・・・
・・・
・・・
・・・
--------音楽室--------
・音楽室の肖像画の目が動く。
渡り廊下を戻り、特別教室棟へと入る。
夜の校内は、窓から入る月明かりに照らされ別の世界にも思える。
音楽室は3階。階段を上り、音楽室の前に立つ。
鍵を開け、中に入る。
音楽室の壁には、音楽家の肖像画がズラリと並んでいる。
暗闇に浮かび上がる肖像画は、それだけで恐怖を与える事だろう。
「よ、夜に見る肖像画ってすごく怖いんですけど・・・」
「・・・」
「そうね、カナリ怖い。」
パチリ
「ひょうわっ」「っと」「・・・」「あ。」
私は音楽室の電気を付ける。
「も、もう華音さん、ビックリしたよ!」
こくこく
双子の青い方はまだ復活していない。
「此れならば、怖くないだろう?」
「人は視覚情報を断たれると”不安”になる。」
「ある種の恐怖を感じたり・・・まあ、気分の良いものではないな。」
「そういった時に、今動いた気がしたっとか思ったんだろう。」
疑心暗鬼。
疑いの心を持っていると、いもしない暗闇の亡霊が目に浮かんでくる。
「えっと、つまり気のせい?」
そう、殆どは気のせいなのだ。
「つ、次に行きましょう、まだ2つ目ですし・・・」
漸く復活の兆しが見られる青い方に促され、次の場所・・・衣装室へと向かう。
パチリ
電気を消す。
そう、殆どは気のせいなのだ。
--------衣装室--------
・衣装室の大鏡に姿が映らない。
音楽室の近くにある衣装室。
被服室の準備室と兼用の部屋で、演劇部が部活で使う衣装なんかが収められている。
一般生徒は入る機会はほとんど無い。入るのは演劇部の生徒・・・もしくは文化祭の時期に劇をやるクラスくらいだろう。
鍵を開け、中に入る。
パチリ
直ぐに電気を点ける。
流石に皆も2度目はビックリしなかったようだ。
「結構、衣装ってあるのね。」
「昔はうちの演劇部、結構有名だったんだぞ?」
「あ、そうなんだ?」
「初めて聞きました。」
「これが、その大鏡だろう。」
布が被った大きな鏡。
衣装をあわせる時に使う全身が映る鏡だ。
「えっと・・・布とっちゃっていいですか?」
「構わんよ。」
香奈は鏡にかけられた布を取る。
それを見た、双子達と香織が鏡を覗き込む。
「ま、まあ、映らなかったら鏡じゃないもんね。」
当然、3人の姿が映ったようだ。
「鏡と言うものは、何かしらのチカラがあると考えられてきたんだ。」
「ありのままの姿を映す・・・それが真実を映すとなり、姿が見えない物が映ったり、または死んでいるものは映らない等の話が出来たと言われている」
「そういう話から、姿が映らないって『七不思議』が出来たんじゃないかと思う。」
「へーそういうものなんだ〜」
「勉強になります。」
「なんか、華音さんの怪談講座みたいになってきたわね。」
「じゃあ、次に行きましょうか。」
「香奈、布を掛けておいてくれ。」
香奈は大鏡に布を掛け、衣装室を出る。
見えないものが映ったり、死んだ人は映らない。
そんな鏡の話は、ごまんとある。
そして、その多くは・・・普通の鏡。問題があるのは、映り込む”モノ”の方にある。
世の中に『不思議』な事は結構ある。
そんな『不思議』が鏡の前に現れる事も・・・
「ほら、香奈行くわよ。」
「あ、うん・・・」
そして・・・次の場所、旧校舎のトイレへ向かう。




