『黒歴史ノート』 ~花子の章~ 其の九
『ベータ』の正体は、数千年前に『アース』から旅立った人間。
過去に繁栄を極めた『ベータ』達の文明は滅び、その時に『アース』を捨て、新天地へと旅立ったが・・・
・・・恐らくは、適合する惑星が見つからず、再び『アース』に戻った・・・と言った所でしょうかねぇ。
私が、考えに耽っていると既に戦闘は始まっていたよう。
『コマンダーベータ』が手を振りかざすと、無数の光球が生まれ、まるで意志を持ったかの様に向かってくる。
「あれは・・・エネルギーボルト!?」
私は、とっさに槍スキル『受け流し』で防御する。
『受け流し』は完全に成功したはずなのに、HPゲージが3割程減少した。
「エネルギーボルトの威力じゃないですよぉ〜」
「『受け流し』たはずなのに、HP3割持ってかれてますよぉ〜」
見ると、『パリィ』を使った直哉さんもHPを削られたみたいだ。
香奈ちゃんは・・・無傷。
流石は、伝説級の盾『アイギス』を使いこなしているだけはありますねぇ。
なおもエネルギーボルトを放つ『コマンダーベータ』
私は『受け流し』では無く、ステップでの回避に切り替える。
誘導性の高い光球は、一度ステップで回避しても、曲線を描き戻ってくる。
「物凄く、誘導性が高いです!」
「皆さん、光球を私に誘導してください!」
香奈ちゃんの声に、私は光球を引き付けて、香奈ちゃんの正面から駆け抜ける。
同じ様に他の3人も香奈ちゃんの後ろに回る。
「『ゾーンシールド』」
広範囲に『シールド』を展開する盾スキルだ。
全ての光球は、『シールド』にぶつかり消滅する。
「洒落にならないな。」
「私や華音さんは、直撃したら終わりね・・・」
またも手を振りかざすと、今度は漆黒の槍が生まれた。
「シャドウランスか」
「『アルティメットシールド』!!」
香奈ちゃんは、盾スキルの中で最も耐久力のある『アルティメットシールド』を展開した。
漆黒の槍は、『シールド』を抜けずに消滅。
「・・・シールド耐久値が残り20%まで削られた!?」
「威力的には、『ガーディアンベータ』のレーザーの2倍!?」
「防御に回ったら、ジリ貧だ。」
再び手を振りかざそうとする『コマンダーベータ』に、私は遠距離用の槍スキルを叩き込む!
「させないですよぉ〜『セイクリッド・スキュア』」
私の放った光の槍は、手を振りかざした『コマンダーベータ』に直撃・・・
・・・してはいない。
どうやら、『シールド』の様な物を展開したようだ。
「恐らく、ポイントガードです。」
盾使いの香奈ちゃんが、いち早くそのスキルを見抜く。
それと同時には、直哉さんが駆け出していた。
「これならどうだぁぁぁぁ!!『グランドクロス』!!」
横斬りから縦斬りに繋ぐ大剣の中級スキル。
出が早く、直哉さんが多様するスキルだ。
しかしこれも、もう片方の手で『ハードシールド』を展開。弾き返されてしまう。
「お兄ちゃんっ離れて!」
香織ちゃんの声が聞こえた時には、直哉さんは既に距離を取っている。
「『ヴォルケーノ』!」
香織ちゃんの得意な火属性魔法。
広範囲魔法も『ゾーンシールド』を張られ防がれる。
「『エクリプス』」
続けざまに華音様が、闇属性魔法を放つ。
全てを包み込む闇は、『アルティメットシールド』に阻まれた。
「『シールドソーサー』!」
さらに追撃する香奈ちゃん。
盾を投げるスキルなのだが、これが『コマンダーベータ』にダメージを与えた。
「・・・なるほど、そういう事かな?」
「どうしたの?香奈??」
香奈ちゃんは、何かに気が付いたようだ。
「うん、多分だけど、アイツにもクールタイムがあると思うよ。」
「そして、多重展開は出来ないし、クールタイムも私達より長い。」
「私なら、あのタイミングで『ポイントガード』のクールタイム終わってるもん。」
「つまり・・・アイツも無敵ではないって事だな!」
全員でスキル、魔法で連続攻撃を仕掛ければ何発かは通る。
つまりは、そういう事ですね?
ならば、私が一番乗りをし・・・
その間に、『コマンダーベータ』は攻撃に転じた。
『コマンダーベータ』が両手を掲げると、巨大な炎球が生まれる。
「まずいっインフェルノよ・・・いえ、ノヴァかも!?」
「皆さん、後ろに!『アルティメットシールド』!」
炸裂する炎球・・・だが、『シールド』に阻まれ炎の柱は上がらない。
「駄目・・・持たない・・・」
「・・・重ねて、『ゾーンシールド』」
クールタイムの戻った『フラワーアレンジメント』により、多重に展開される『シールド』
大爆発は起こったが、『シールド』で爆炎を防ぎきった。
「・・・今です!」
香奈ちゃんの合図に、私は素早く飛び出した。
私の仕事は・・・
「攻撃回数に物を言わせるっ『スピアー・レイン』」
槍による超々連続突き!!
超スピードで繰り出される突きは100発にも及ぶ。
故に・・・攻撃時間が長い!!
これで・・・華音様、香織ちゃんの詠唱時間を稼ぐ!!
そしてあわよくば・・・
『コマンダーベータ』は、私の”狙い通り”に『アルティメットシールド』を展開する。
「ちぃっ抜けないかぁ〜華音様!」
抜けないのは、想定内!
香奈ちゃんを除けば、私の攻撃力が一番低い。
私の攻撃で、最強の盾スキルである『アルティメットシールド』を出させれば、それだけ攻撃が通りやすくなるっ!!
「『メ・ギド』」
華音様の魔法は『エネルギーボルト』の闇版と言った感じ。
華音様も威力では無く、複数の・・・そして、誘導性のある魔法に切り替えたようだ。
・・・恐らくは、後の二人の攻撃を考慮して。
『コマンダーベータ』は『ハードシールド』を展開する。
『ハードシールド』は効果範囲がそこまで広いものでは無い。数に対しては割と対応できないのだ。
華音様の魔法は、何発かがヒットしダメージを与える。
「直哉頼む。」
「おうっ 行くぜ!『オーバー・エンド』」
一撃の威力を重視した大剣スキル。
その攻撃力は、この世界において最強クラスである。
しかし、『コマンダーベータ』が選択したのは『ポイントガード』。盾の初級スキルである。
私と華音様の狙い通りの形になる。
『ゾーンシールド』は、物凄くクールタイムが長い。
さらに、香奈ちゃんの話によると、『コマンダーベータ』の盾スキルのクールタイムは通常より長い・・・らしい。
『コマンダーベータ』は、『ポイントガード』以外の選択が出来なかったのだ。
当然、最強の攻撃力を誇る大剣スキルを『ポイントガード』で防ぎきる事は不可能。
『コマンダーベータ』のHPゲージは大きく減少した。
「まだ、『ゾーンシールド』のクールタイムが終わっていないみたいだよ!」
香奈ちゃんは、この隙にスキルを放とうとするが、
「香奈っ『シールド』をお願い!」
香織ちゃんに制止される。
「へ?香織ちゃん??」
真打登場である。
多分、華音様はこの魔法の詠唱に気が付いて、魔法を切り替えた。
その魔法は・・・
「究極魔法を発動するわ!」
「『フレア』!!」
究極魔法『フレア』
炎属性の魔法を極めた者だけが習得できる『最強の炎属性魔法』
最強故に、使い所が物凄く難しい。
凄く長い詠唱時間、そして・・・
「え?えぇぇ〜『ゾーンシールド』!!」
最初は小さな光。
その光が『コマンダーベータ』に触れると、膨張。
それは凄まじい熱量を生み、すべてを飲み込む光となって弾ける。
「なんなんですかーーー」
「太陽で起こる爆発が『フレア』だ。」
「威力は水素爆弾1億個と同等で、数千万度の熱が・・・」
「まあ、ゲームなので、そんな威力ありませんけどねぇ」
「でも、周りにも被害が出る禁呪的魔法なんですよぉ〜」
「・・・うっかり使うと、パーティ崩壊するからな。」
「洒落になってませんってーーーー」
そして、周りの・・・パーティ自身にも甚大な被害をもたらす。
熱風は数秒で収まり、香奈の『シールド』も消える。
熱風によるスリップダメージだけで済んだのは、香奈ちゃんの盾スキルによる所が大きい。
最強の大剣スキル、最強の炎属性魔法、これを持ってしても『コマンダーベータ』は倒れない。
しかし、そのHPを残り10%にまで減少していた。
「お兄ちゃん!」
「おうっ!」
「これで、終わりにしようぜ?『ライトニング・バースト・ストーム』!!」
これも『オーバー・エンド』と並ぶ大剣の最強スキルの一つ。
一撃の『オーバー・エンド』に対して、こちらは乱舞系・・・つまり、連続攻撃を叩き込むスキル。
大剣をまるで片手剣の様な速度で繰り出す。
唐竹、袈裟斬り、逆袈裟・・・さまざまな連撃が『コマンダーベータ』のHPを削る。
5%・・・4%・・・3%・・・2%・・・1%・・・
これで、勝負が決まる。
しかし、直哉さんはトドメの大上段を寸前で止めた。
「何故、止めをささない?」
愛用の大剣、覇皇龍斬剣”皇”を首元にピタリと止める。
「・・・お前達も、同じ人間だからだ。」
直哉さんは静かに語りだした。
「ここは、俺達の世界だ。そして、お前達の故郷でもある。」
「この世界に対する思いは同じ・・・だと思う。」
「ならば、武力による解決ではなく、対話による解決の道もある筈だ。」
「・・・偽善者め。」
「私は、この世界が好きよ。」
「そして、プレイヤー・・・いえ、この世界の住人全てがこの世界が好きだと思う。」
「その世界を戦火の炎で焼く事は、みんな望んではいないよ。」
香織ちゃんも続く。
「私、始めたばかりだけど、この世界が大好きになりました。」
「当然、私もですよぉ〜」
「うむ」
私達も其れに続いた。
そして『ウインドチャット』で、他の場所にいる面々も次々と思いを語った。
・・・
・・・
・・・
暫しの沈黙。
「・・・やはり、揃いも揃って偽善者ばかりのようだな。」
『コマンダーベータ』は、すっと立ち上がると背を向ける。
「・・・全軍。撤退」
「以降、指示のあるまで待機せよ。」
「・・・我らも、お前等も祖先は同じ。」
「そういう未来もあるかも知れんな・・・」
言うと、『コマンダーベータ』は光と共に消えた。
(コングラッチュレーション! 『ベータ大侵略作戦』クリア!)
(『ファンタジースターオンライン』における全てのコンテンツをクリアしました。)
「・・・終わったの?」
「ああ、終わったな。」
「これから、この世界はどうなるんでしょう?」
「それは・・・きっとこの世界の住人が決めることだろう。」
「だが、願わくば、争いの無い平和な世界になって欲しいものだ。」
「・・・そうですね、華音様」
夕焼けの空に、ゆっくりとスタッフロールが流れていた。




