『黒歴史ノート』 ~花子の章~ 其の八
勢いよく減っていった香奈ちゃんのHPゲージは残り1%を残して止まった。
先程、直哉さんが使ったアイテムの効果なんでしょうね。
『死に至るダメージを受けた場合、1%のHPが残る。』
そんなアイテムが存在していたとは・・・私もまだまだですねぇ。
しかし、まだ窮地には変わりわない。
HP1%の香奈ちゃんを守りつつ、回復を行えるのは私だけ。
「回復は私にお任せくださいな〜」
「華音様と香織ちゃんは詠唱の終わってる魔法を!」
それだけ言うと、香奈ちゃんに駆け寄る。
「『ハイ・ヒーリング』」
私の持っている最大の回復魔法だ。
攻撃特化の多いこのパーティーでは、これを上回る回復魔法は無い。
じわり・・・じわり・・・とHPゲージが回復する。が、全快までは暫くかかりそうだ。
「『エクリプス』」
「『クリムゾン・ノヴァ』!」
一方、華音様と香織さんは、極大魔法を放つ。
それにより、巨大な砲塔は破壊された。
巨大砲塔を失った『コマンダーベータ『キャノン』』は、金色から、銀色へとその色を変化させる。
そして、要塞とも思えるその巨体が展開し、中から別の『ベータ』が現れた。
『コマンダーベータ『ブレイド』』
巨大な剣を構え、大きさ的には『サイクロベータ』位の銀色に輝く『ベータ』
今度は近接タイプの様ですね・・・でも、防御の要である香奈ちゃんの回復には、まだ時間がかかる。
「香奈ちゃんの回復には、まだ時間がかかるわ〜」
「暫く3人で持たせてくださいな。」
ここは、何とか3人で持たせてもらうしかない。
「簡単に言ってくれるっ」
直哉さんは『コマンダーベータ『ブレイド』』の大剣を『パリィ』する。
「っと、おいおい・・・『パリィ』しても、HP削られるぜ?」
「『シャドウバインド』」
華音様は、魔法で動きを止める・・・が、其れも一瞬だった。
強引に引きちぎり、目標が華音様へと変わった。
ブゥゥゥゥゥン
風切り音を上げ、振り下ろされる大剣。
華音様は、回避用スキル『ミラージュエスケープ』で回避。
「こやつ、直接的な攻撃魔法でなくてもヘイトが上がるようだな。」
「後衛にとっては厄介ね・・・」
つまり、魔法で攻撃をする度にヘイトがあがり、ターゲットが魔法を打った者に移る。
そしてそれは、ダメージを与える魔法以外にも適応されるよう。
ターゲットにされた者に、高速で接近し斬撃を繰り出す。
単純だけど、華音様も香織ちゃんも、一撃でも攻撃を受けたら即死だと思う。
「こっちを向きやがれ!!『プロヴォーグ』!!」
直哉さんがヘイトを集めるスキルを放つと方向を変え直哉さんに攻撃を加える。
「しかし、逆に言えば”攻撃を加えない限り攻撃は来ない”という事でもあるな。」
「お兄ちゃ〜ん♪ お・と・り・・・よろしくね♪」
「無茶言うんじゃねーーーー!!」
言いながらも、囮に徹する直哉さん。
回避重視の立ち回りだが、『パリィ』をしてもHPが減るので、じわりじわりと追い込まれていく。
「必殺必中っ『ホーミング・レイ』!!」
香織ちゃんの魔法が炸裂する。
お得意の炎系ではなく、無属性『エネルギーボルト』の上位にあたり、必中効果のある魔法だ。
「動き回る敵には、こっちの方が確実なのよね!」
ヘイトは香織ちゃんに向くが、華音様の魔法も完成する。
「我が手に全てを斬り裂く漆黒の刃を!『シャドウ・ブレイド』」
華音様は漆黒の剣を生み出し、斬り込んだ。
近接攻撃用に魔法で生み出された剣は、切りつけた場所に漆黒の闇を生み、炸裂させる。
「『漆黒』・・・暫く変わろう。」
「回復しつつ、攻撃の準備を・・・」
HPが減ってきた直哉さんの代わりに、華音様が近接・・・囮役を買って出た様。
確かに、華音様も近接戦闘自体は出来ない事も無い・・・ですけど・・・回避は『ミラージュエスケープ』のみ。
クールタイムがある以上連発は出来ず、受ける事も出来ない。
避けながら何とか、ヘイトを稼ぐのが精一杯の様だった。
・・・こんな綱渡りの様な戦いが5分程続いた。
・・・よし、香奈ちゃんのHPは全快っ!!
「香奈ちゃんっ! 前は任せますよ!?」
「・・・了解ですっ!花子さん!!」
香奈ちゃんは勢いよく駆け出す。
そのままの勢いで・・・・
「回復完了・・・お待たせしましたっ『シールドバッシュ』」
盾を構えたまま体当たりをする。
ブォォォォン
振り下ろされる大剣の攻撃も、盾スキルで完全に防御する。
「『フラワーアレンジメント』はまだ使えませんが、単調な攻撃ばかりの様なので、大丈夫です。」
「皆さんは攻撃に専念してください。」
『コマンダーベータ『ブレイド』』の攻撃を完全に無効化できる香奈が加わると、状況は一変した。
攻撃を連続で加えた後、香奈がヘイトを取り攻撃を無効化。そしてまた、攻撃を連続で加える。
何回か繰り返すと、『コマンダーベータ『ブレイド』』は動きを止めた。
銀色だった色が赤銅へと変わり・・・展開する。
中から現れたのは・・・
・・・人型。
背丈は1m80cm程だろうか、おおよそ人と変わらぬ姿の『ベータ』が現れる。
『コマンダーベータ』
人の姿の『ベータ』は、人と同じ言葉を発した。
「我らは、過去にこの星を出て、新たな星を目指した者。」
「だが、我らの新天地は見つからず、数千年の時を経て、この星へと帰還した。」
「我らの文明は既に滅び、新たな生態系の元に再生した我らが星。」
「我らが故郷を返してもらおう。」
『ベータ』とは、元々はこの星・・・『アース』に住む人間だったのであった。




