第0話 落ちこぼれ
初めまして、綾織吟と申します。
この作品は「落ちこぼれを最強にする事が出来る落ちこぼれが強くなりたいと願った」末に展開される物語です。「願う」だけで主人公が強くなることは設定上あり得ません。しかし足掻きます。
心具、その者の心を武器へと具現化させた物である。
心具使いを養成するハーレント学院、その学院では数年前から黒い制服を着た生徒の下で訓練した落ちこぼれの生徒は必ず心具の極限、神器を発現させるという伝説がある。
神器を発現された者は帝都の学院に転校することが義務づけられており、ハーレント学院は毎年連続して神器使いを帝都に輩出させており、毎年話題となっていた。
フェルト帝国の心具使い養成する学舎では制服でランクが別れており、上から白、青、赤、緑、黒の五段階に分かれており、黒服が神器使いを導いたという事もあってハーレント学院の伝説は半ば冗談として見られている。
ハーレント学院から帝都学院に転校した神器使いは口を揃えて「黒服の指導の下で神器を発現させた」と言っている。しかし、フェルト帝国において黒服という存在は何処の学舎を見てもほぼ存在しない。
心具という物はそもそも自身の心の形が武器として顕現している物あり、武器という形以外で顕現する事はまず無いのだ。心具使いとしての最低ライン、底辺は心具を顕現させることが出来るという事であり、黒服は心具を発現させることだけが出来き、武器として機能していない者達を指す。しかし、武器を顕現させた時点で戦うことが出来る訳であって、基本的には緑服以降の生徒となる。
「……まあ、これで良いだろう」
ハーレント学園、明日から新学期が始まるという時、誰もが長期休暇最終日を楽しんでいる時、黒い制服を身に纏った男子生徒が職員室にいた。
男子生徒の前には分厚いレポートを片手に深いため息をついている教師が居た。
「はぁ、よかった」
ハーレント学院唯一の黒服ジル・マスティス。彼は安堵して胸をなで下ろした。
帝国では珍しい黒い瞳に黒髪という外見で、そして目の下には絵の具で塗ったかのような大きな隈ができていた。
「マスティス……君の心具の特性は良く理解しているつもりだ。理解しているつもりなんだが……もう少し頑張れんか」
「無理ですね、もう限界です」
「レポートも良く出来ている。非常にできが良い。頭だけなら、帝都大図書館の司書になるのも簡単だろうな……だが、必修の実技でなぜこんな大量のレポートを見なければならん。しかも毎年」
「……勘弁してください。マジで無理っす」
「別に責めているわけでは無い、責めているわけでは無いのだが……一応私は心具、心具の実技を教えているのだがな」
「マジすみません」
明日から高等部三年となり、毎年落ちこぼれを神器が発現させるようにして帝都へ送り出している黒服は毎年留年の危機に陥っている本物の落ちこぼれであった。