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かもめとちどり

作者:

ほのぼのとしすぎて目的があまりなく、かなり普通な小説ですので、暇つぶしとして読んで頂いた方が最善かと思います。

「もう明日は夏休みです。が、ここで宿題を追加しようと思っています」

 もちろん

「えぇーっ!?」なる音声が教室中に響きわたる。だが、他の生徒が驚いていても、一人の男子生徒、千鳥は驚かない。

 特に千鳥はクールな生徒ではないが、驚かない理由は存在した。

「いつでもいいので夏休みの間、近くの公園などでバードウォッチングをして、観察記録を作ってきてください。一日だけでも充分です」

 ため息が漏れる。あまりにも予想通りだったので、むしろ呆れる理由も存在している様だった。

 このクラスの担任は異常と言っていい程に、鳥好き。暗く言えば鳥オタクである。だから、こんな宿題を提案したのだろう。それ以前に相当な量の宿題があるというのに。

 ただめんどくさいだけで、そんなに難しいことではない。簡単にそう思った。


 そして翌日になってみれば、千鳥は双眼鏡と大学ノートとその他一式を持って、公園に向かう。

 たしかにめんどくさいが、別にめんどくさがりではない。千鳥はそういう事を早めに終わらせるタイプなのだ。

 それにしても暑い。皮膚から汗がだくだくと流れ出てくる。夏とは、絶対に涼しくならない季節なのだろうか。なんらかの手違いで雪でも降ってくれないものか。なんて思ってると、公園に着いていた。

 ここは意外と広い。噴水がある程に広い。と曖昧に言えば、理解できるのか?いや、実際に噴水はあるが。とにかく広い。


 広くても、千鳥の汗はぽたぽたと落ちるだけだった。違うか。広いからこそ落ちるだけなのか。

 三十分間ほど大きな木を見て回ったが、何もいやしない。鳥の鳴き声なんて聴こえない。聴こえる音は、風で木々がざわざわと揺れる音だけ。

 そりゃあそうだ。こんなに暑い世の中なんだから、鳥でも巣に籠もりたくなる。

「………」

 瞬時に思った。鳥に同情してどうするんだ、と。

 帰ろうとした時、奇妙な声が聴こえた。

「……〜〜♪」

 段々とその声が明らかになってくる。

「…〜…〜……〜♪」

 女性の声。声と言うか、これは言葉か。

「わったしはぁ〜、こーどねーむ、か・も・めぇ〜〜♪」

 奇妙な歌らしい歌を歌う少女が公園内に入ってくる。あれは、見覚えがあるけど、……誰だったか。

 そういえば、手には自分のと同じ種類の大学ノートを持っている。もしかしたら…と考えていると、その少女と視線が合ってしまった。

「……あれー?」

 少女は、トコトコと小さな足取りで、千鳥に近づいた。

「…チドリ、くん?」

 少女は首を傾げて、千鳥に問いかける。

 確定した。この少女は同じクラスの女子だ。…こんなに小さいのに。身体的にも、精神的にも。

「…いかにも、千鳥」

「わあっ!チドリくんもトリさんを観察しに来てたんだー!」


 随分と色々なところが幼く、ぽわぽわとした気力を発している少女は、海野鴎(うみのかもめ)

 彼女もやはり、千鳥と同じ目的だった。が、それはあくまでも過去形になり得る。

「お前さ、ノートだけ持ってきて何をしに来たんだ?木陰で扇いで休むだけか?」

「え?ノートだけ?」

 両手に持つ大学ノートを見つめながら

「うーん?」とか唸っている。いまいち意味がわかっていないらしい。呆れてため息さえ出てしまう。

「あ!これ数学のノートだった!」

 真性の馬鹿って本当にいるんだな。しみじみとそう感じた。


 という訳で…いや…何が

「という訳で」なのか。と言いたいのは正しくも自分なのだが、状況を整理する。


 結局、千鳥が説明して、やっと理解した鴎であった。

「そうだよね、エンピツとか双眼鏡とか持ってこないと意味ないよねー。あはははは」

 朗らかに笑う鴎。笑う場か?

「じゃっ、いい機会だね。一緒に観察しよー?」

「はあ?」

「わたしがチドリくんの、エンピツとノートの紙を借りて、観察するの。二人の方が楽しいでしょ?」

 そう言って、鴎は千鳥に、ずいっと手を差し出してくる。やっぱり理解してないみたいだ。

「…いや、何かが根本的におかしいと感じる」

 いつまで経っても千鳥が貸さないので、鴎はやや強引に、千鳥が持ってた筆記用具を奪い取り、大学ノートの白紙も三枚ほど破り取った。

「よーし。完了ー!」

 …そして、千鳥を置いて楽しそうにスキップする鴎であった。


「あー、そうだそうだ。チドリくん、わたしのことは、かもめって呼んでね」

「…はあ」

 なぜか

「はい」にならないで

「はあ」とため息混じりの返事になる。もう疲れが実ってきたんだろう。

「こーどねーむ、かもめだからね」

「…コードネームの意味わかってるのか?しかも、かもめってそのまんまだし…」

 しまった。あまりの馬鹿馬鹿しさに呆れてツッコんでしまった。

 当然の如く、鴎は急に険しい顔になった。

「むうー……わ、わかってるよ、それくらい………」

 唇を尖らせて、少し潤んだ瞳で千鳥を見る。一瞬だけネズミとかリスとかの小動物に見えた。

「とっ、とりあえず!ほら、かもめって呼んでみてよ!」

「…かもめ」

「…なんかつまらないなあ……かもめちゃんって呼んでみて」

「…かもめちゃん」

「…迫力っていうか…うーん…かもめ殿って呼んでみて」

「…かもめ殿」

「…かもめさまって」

「…かもめ様」

「…かもりんって」

「…かもりん」

「…かもめ軍曹」

「却下。かもめでいいだろ…」

「ええー、だってぇ……」

 そうして結局かもめに決定した。凄い無駄な時間を過ごしたと思う。


「……ね、まだぁー?」

「…まだ」

 既に二十分は経過している。

 今の今までずっと、鴎に命令されて、双眼鏡で周りの木の茂を見ていた。でも、鳥は一向に見つからない。脱水症状になりそうなくらいに汗が流れている。実際、もう死にそうだ。

「…かもめ、休憩しないか?」

 んーと少しの間考えていたが、返事はそう遅くはなかった。

「そうだね。休憩しよっか!」


 そして千鳥はベンチに座り、鴎はお金を持ってきてたらしくて

「飲み物買ってくるね!」と言い、元気に走り去っていった。

 暑いけど、妙に平和だと感じる。鴎がいないせいなのか。

 そういえばあいつ、あんな奴だったっけ?頭の中で昔の情景を再生する。


 入学してきた頃から、いや、あの幼さは生まれてきた頃からだろうな。ともかく明るい奴だった、あんまり話したことないけど。


 ………たぶん、それだけ。特にあいつが気になったりはしなかったし、そもそも、あんまり接点がなかった訳だし。

「やっほー。買ってきたよー!」

 そんなことを考えてたら、鴎が戻ってきた。手には二つの飲み物が入ったビニール袋。

「ああ、サンキュ。金は、次会った時に必ず返す」

「いいよ、これくらい」

 いや、ちゃんと返すよ。千鳥がそう返事をする前に、鴎は袋の中の缶を取り出して、それを千鳥に渡した。

「はい、どーぞ!」

 …まあいいか。と心の中で思いながら、缶を受け取った。


 予想してたのは冷感だと誰もが思うはず。でも違った、手のひらに感じるのは温感だった。

「んあっ!?」

 何事かと思って受け取った缶を見てみると、

「…なんだこれは」

「チドリくんは見た目的に、コーヒーが好きなのかなって思って。……もしかして嫌いだった?」

 別に嫌いではない。が、この暑さの中では麦茶の方が飲みたかったと言いたい。まあ、どっちにしろ我慢できる。けど問題点はそこじゃない。

「……むしろ、今は温かい飲み物自体が嫌いだ…」

 …なぜにHOTを選んできたのかと。季節感という意識が足りない…無いのか?

「んく…んく……っはあ、回復した!やっぱり夏は冷えた飲み物だよねー!」

 呆ける千鳥を無視して、鴎はノンキにスポーツ飲料を飲んでいた。言ってる事とやってる事が矛盾してますよ、そこのお馬鹿さん。とは言わなかった。馬鹿に言っても無駄か。と考え直したから。


 好意で買ってきてくれたのだから、飲まない訳にもいかず、少し冷ましてから一気飲みした。そしてゴミ箱に放り込む。…非常に体が火照ってしまった為、汗の量が二倍くらいになってしまった。そのうち塩臭くなるな。

「さーて、休憩終了!再開しようか」

「……」

 ただ普通に、千鳥は頷く。…なんだか、自分が何をしに来てるのか、どんどんわからなくなってきた。


 …と歩き回るものの、鳥なんて全然いない。

 千鳥はほぼ諦めかけていた。暑いし。

「…かもめ、代わってくれないか?暑くて暑くてもう……」

 振り向いても、後ろにいたはずの鴎はいなかった。

 どこにいるんだと辺りを見回してみたら、簡単に見つかった。…ブランコで遊んでいる…。

「きゃっほーう!きーもちーいなあー!」

「………」

 もういい加減疲れたので、千鳥もブランコに座ることにした。


 そしていつの間にやら太陽が落ちる時刻になっていた。

「楽しかった!ね、チドリくん?」

「………そうですね」

 本当に何をしに来たのかと。…遊びに来ました。

 千鳥はずっとそんな自問自答を繰り返していた。嬉しそうに笑顔を作る少女の隣で。


 鬱になりながらも、また翌朝になれば、千鳥は外に出かける。

 今度は、少し遠めの公園へ。持ち物は昨日と同じ。

 やはり今日も暑い。というか昨日より暑い。

 まあ鴎はいないだろうから、安心して観察できる。…鳥さえいれば、の話だが。


 公園に着いた途端、家に帰りたくなった。

「かーもめーはきょーうもーゆーくのーですー♪」

「………なんでだよ」

 いや、もう帰ろう。うん。そう思って公園を出ようとした直後

「あっ、チドリくーん!」

 いっそ引きこもって他の宿題でもするか。と考えた。




 そして何日も何日も何日も色んな公園にバードウォッチングをしに行けば、あいつが必ずいた。

「わたしたち、何かの糸で結ばれてるのかなー?えへへへ…」

 思い当たる節は『鳥』だろう、たぶん。

 担任を恨む、呪う、絶対に。




おまけ


「これは、ひょっとして、らぶこめでぃーな展開かー!?チドリくん、そこら辺はどうなんだいっ!!?」

「……ラブコメ云々以前に、この物語は終了してるぞ」

「…うん?終了って?」

「……文字通り」

「は、初めて知ったよ、そんなの」

「……かける言葉も見つからん」

「…終了したのに、おまけとか必要あるのー…?」

「……すねるなって。…おまけがあるのは、あまりにも普通に終了してしまったから、物足りなさを感じる読者が多いはず。つまり」

「読者のみなさんが楽しめるように。って理由で作ったんだね」

「一応はそういうことだ」

「会話文だけで進んでるけど…?」

「それは、今は気にしなくてもいい」

「そう?」

「そう」

「で、何をするの?」

「…そうだな、まずは【鳥居学が担任じゃなかったら】か」

「え、え?どういうこと?とりーまなぶって誰?」

「前者は見てればわかる。後者は前言撤回した方がいい」

「?」



【シーン1】


 明日は遂に夏休み。

 宿題は大量にあるが、それでも、純粋に楽しみだ。

 夏祭り、海水浴、etc…。イベントだって沢山ある。

 ……もしかしたら、彼女とかできるかもしれない。

 そんな期待を胸に納めて、

「ばんざい、夏休み。ってか」

 千鳥は心を躍らせながら、眠りについた。



「…これだけなのー?」

「……鳥居がいなくなることで、物語が一気に地味になるからな。かもめと会える確率も少なくなる訳だ」

「とりーって、せんせーのことだったんだ」

「そう」

「せんせーがキーキャラクターだったんだね…」

「…認めたくないものだな…鳥居学の…鳥オタク故に生み出せる鍵というものを…」

「…?どーゆーこと?」

「…いや、なんでもない。さて次は【海野鴎生活記録】」

「わわっ!なにこれぇ!?恥ずかしいよー!」

「安心しろ、破廉恥な記録ではないから」



【シーン2】


 それは平日の出来事。

 鴎はうにゅうにゅと口を動かしながら、目を擦り、起きる。

「……あふぅ…」

 起きたらまず、時計を見る。

「……」

 だが、寝ぼけている為、時計の短い針が8を指してようとも、寝てしまう。

「…んにゃすみ〜…」

 こうしていつも通りに、学校に遅れる訳だ。


「…また遅刻ですか…」

「…ご、ごめんなさい…」

 周りから笑い声が漏れる。

 鴎の顔は、みるみると朱色に染まっていく。

「…恥ずかしいなぁ…」

 誰にも聴こえない様な声で、そう呟いた。


「…くー…くー…」

 もはや授業中に寝るのは日常茶飯事。

「………」

 そして、教師のこめかみの青筋がぴくぴくと動いているのにも気づかずに、教科書のカドで叩かれる運命に逢う。がつん、と。

「うがぁぅ!?」

 すっごい奇怪な声で跳ね起きれば、やっぱり周りは大笑いしていた。


 放課後は、ふらふらと寄り道をしながら帰宅する。

 商店街に入って、ぬいぐるみなどが売っている老舗を見るのが鴎のマイブーム。というか、中のぬいぐるみを見て回るのが本業。

「か…かわいい…♪」

 買いはしない。見るだけで満足。それに学生だし学校帰りだからとの理由もある。


 鴎は意外にも夜更かしタイプである。特にやることも無いのだけど、なんとなく起きているという。

「…んー…」

 でも最近になって考えごとをする様になった。

 火星人は本当にいるのか、とか、火星人はタコみたいな形をしているのか、とか、火星人がいるなら月星人やら水星人やら木星人やらがいるのではないか、とか。

「うーん…やっぱりわかんないなー」

 それで結論にたどり着かないままで終わるのだ。

「…ふああ………もう寝よー…」

 これにて海野鴎の一日は終了する。



「……実にくだらない」

「………う……も、もういいよ。おまけなんて、おまけなんて」

「…わかった、ごめん」

「…ぐす」

「それにしても、かもめも怒られてたのか」

「かもめも?」

「ああ、鳥居とその他教師にだ」

「ってことは?」

「…怒られる生徒、その中の一人が千鳥だったりするのである」

「へー、そうだったんだ。チドリくんは優秀なんだと思ってたけど」

「…嫌味か?」

「違うよ。ほんとに思ってたよ」

「…そうか。……じゃ、次で最後」

「もう最後なんだね」

「そんなに長引かせる訳にもいかないからな。…タイトルは【???】…?なんだこりゃ」

「チドリくんも知らないの?」

「予定外だ。とりあえず、見てみるか」



【シーン3】


 そこは夜の公園。いるのは、千鳥と鴎だけ。

 ベンチに座る二人は、月に照らされ実に秀麗な姿だった。

 千鳥は鴎を見つめ、鴎は千鳥を見つめる。つまり、二人は互いを見つめ合っている。

「かもめ…」

「チドリくん…」

 背景は闇の中で輝く月の光。

 唇と唇を重ね、また何度も何度も重ね合う。そのうち呼吸音が激しくなり、時が経つと、二人の唇は離れないでいた。

 互いの舌が絡み合い、唾液が外に溢れるが、二人はそんなことも気にせずに、卑猥な水音を立て続



「わ………え…えっちだね…これ…ま、まだ続きあるよ」

「待て待て待て待て待て待て待て。やめろ、お子さまは見るんじゃない」

「…見ないの?」

「…見たいのか」

「そ、そういう訳じゃないよ!」

「……まったく違うジャンルになるから、終わりだ」

「もうちょっとだけ……見たかったなあ……」

「………という訳で、おまけ終了、と」

「…やっぱり、足りないんじゃないかな」

「…できる限りの事はやった」

「そうかなぁ…」

「…そうだ」

「じゃあ…みなさん!いつかまた…どこかでお会いしましょー!」

「…古いと思った」

「うっ……」

「とりあえず…ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました」

「…ございましたー!」

「では、さようなら」

「さよーならー!」


   了

小説なのにおまけなんて入れて大丈夫なのだろうか…と心配してますが、それでも楽しんで頂けたら光栄です。

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