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宿屋での吐露


結局のところ、ジェイドくんは隣の席から動く気は無いらしく。

二人で肩をぶつけ合いながら今夜泊まる宿屋までの道のりを馬車の中で過ごした。


窓の外に見えるのは、鮮やかな緑色の屋根の家だ。

どうやら今日はここに泊まるらしく、ジェイドくんは先に降りて段差に気尾付けるよう注意しながら入口までエスコートしてくれた。

…これが王子様かぁ…と半ばぼうっとしていると。

さっさと受付を済ましたジェイドくんが帰って来て、荷物を持つとそのまま部屋へ向かった。


「……ひ、広すぎませんかね…。」


「そうか?」


部屋の隅に荷物を置きながら、ジェイドくんは首を傾げる。


「俺達の居た家の三倍くらいしか無いぞ?」


「十分大きいと思うんだけど。」


唖然としてそう言うと、不思議そうに首を傾げられてしまった。

…同じ部屋に泊まる事は全然…て言うかむしろ新しく二部屋を取るんならお金が高くなるだろうなと思って一部屋で良いと言ったのだが、まさかこんなに大きな部屋になるとは思っていなかった。


部屋の中央に置かれた多くな二つのベッドを見て、なんとなく寝ころんだ。

ふっかふかのマットレスとふわっふわの毛布が私を包んでくれる。


「…良く眠れそう?」


「うん、すっごく気持ちいい。」


枕もふわふわで、なんだか気分までふわふわして来た。


「ごめんなコユキさん、慣れない馬車で疲れただろう」


「えっ、どうしてジェイドくんが謝るの?」


びっくりして顔を上げると、苦笑したジェイドくんが近くの椅子に腰を下ろした。


「いや…なんか、やっぱ来たばっかで体力も追い付いてないだろうに、馬車って座ってばっかだろ?」


しゅんとした様子に思わずぶんぶんと首を振って「そんな事ないよ!」とジェイドくんの手を取った。


「ジェイドくんは気遣ってくれてるかもだけど、私思ってる以上に頑丈だから!!

それに、ある意味ではおばあちゃんより健康だし、今まで風邪引いた事あんまりないし、大丈夫!」


「……無理してるんじゃ」


「す……す、する事も、あるけど」


「今は?」


「ん、んー……してないよ!今はしてないよ!!」


ジト目で見てくるジェイドくんに「じゃあどうすれば心配させなくて済むの?」と問い掛けた。


「……しんどいと思った時は俺に言う。

あと、何かして欲しい事があるとかも、何も無い時も、俺の事頼って」


「……頼ってるつもりだけどな」


「んんー?」


にこりと笑顔を取り戻したジェイドくんは、私の手を包み込むようにすると「全然足らないから」と笑う。


「多分甘え慣れてないって言うのが強いのかな、コユキは俺に対して距離がある」


「え」


「まあ、信じてくれてるって言うのは全身で感じてるから良いんだけど、もっと力を抜いて良いんだよ?」


柔らかく微笑んで、私はふと考えた。


今まで、そう言えば私は誰かに甘えた事なんてあっただろうか?

人を信じ過ぎない事を良しとして来た私だ、確かに言われてみたら……甘えた事なんて、無い。


人に依存すると良くないと思う気持ちの表れなのか、私は誰に対しても良い子を演じる八方美人だった。

人からその面をからかわれたり、嫌がられたりともあったが……それはそれとして適当に渡って来た。

面白みがない、自分を必要とされる人に依存していたかもしれない。

それが、私が「色の無い日々」と思っていた世界の全てだったのだろうか。


「……コユキ?」


「あ、ごめんなさい」


堰を切ったように涙が溢れる。

慌てているジェイドくんには悪いが、なぜ私が泣いているのか、どうしてこんなに涙が溢れるのか私自身も理解が追い付かないのだ。


「ごめん、俺の言い方キツかったか?」


「違う、違うよ、全然、ジェイドくんが悪いとかじゃなくて」


私が。


私が真剣に向き合って来なかったから。


逃げ場所として、私は見ていたのかもしれない。

おばあちゃんの語る夢物語の様な世界に。

私は逃げたくて、その話しを聞いていたのかも、見ていたのかも。

そう思うとこんな綺麗な世界に申し訳なくて、エチカさんに申し訳なくて、おばあちゃんに申し訳なくて、ぼろぼろと後から涙が溢れるのだ。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


ただ謝る私の頭を優しく撫でながら、ジェイドさんは頷いて「良いよ」と呟く。


「良いよ、俺が許すよ。コユキは自分を責めなくて良いよ」


「でも、私……」


「大丈夫、色々頭の中で考えてる事は、俺にも分かる。

でもさ、それが全部コユキが悪いんじゃないよ。

だから泣かないでくれ」


指で優しく私の涙を拭うと「綺麗で大きな目が溢れる」と笑った。


「大丈夫、俺は何があってもコユキさんを信じるし、助けるし、守るから。

心配しなくて良いよ、だから泣かないでよ」


「……うん」


素直に頷いて、私は撫でてくれるのが心地良くて身を任せた。


気が付けばベッドに腰掛けて抱き込まれる体勢になっていたが、拒む理由も無くただ黙り込む。


「……あのね」


「うん?」


そう言えばと私は思わず呟く。


「あのね、私……誰かに甘えた事なんて無いの。

だからその……変だったら言ってね?迷惑だったら言ってね?」


「言わないよ?」


「え?」


にこりと微笑み、ジェイドくんは私の頬に手をやる。


「悪いけど、その初めて全部俺が貰うつもりだし、分からないながらも模索してるコユキは可愛いし、俺は……そんなコユキが好きだから、何されても良いよ」


「それはどうかなっ!?」


ふにふにと頬を突くその指に、緊張から身を強張らせる。


「コユキ、コユキ、リラックス」


「む、無理無理無理、意識したら無理」


「大丈夫大丈夫」


けらけら笑うジェイドくんが恨めしくて、私は頬を膨らませてベッドに倒れ込んだ。


するとすぐに私の隣に転がって、端正な顔立ちがすぐ近くにあって心拍数が上がる。


「……ずっとこうやって、コユキと笑って過ごしたい」


「ジェイドくん」


しみじみと呟かれた言葉に、私はただ素直に頷くのだった。

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