下人のその後
羅生門はなんかの経緯があり、結末が変えられたのはご存知でしょうか。
最初の下人は京で強盗してたんですよ。あの後。
まぁ正直結構適当なので
まともな作品を読みたい方はネット上で探すべし!です。
下人は、京に居た。
先日、下人は「善人」で居るための一線を越えてしまった。と思っていた。
だが、下人は後悔していない。
そうでないと、下人自身が生きていけないからだ。
下人はこの後もそうやって生きていく心積もりで居た。
京には貴族などの金持ちがたくさん居る。
だがその代わり、自分のような乞食のような人間もたくさん居た。
昔、京は煌びやかだったはずだ。
その活気は今は無い。それが不思議で仕方なかった。
下人はとある現場に居合わせた。
人が人を殺す現場だった。その後、金目のものを奪っていく。
所謂強盗という行為だった。
下人は気分が悪くなった。
下人は元来、正義感の強い人間である。
極限の状態で、正義感よりエゴを選ぶというある種の人間らしさはあるが、人殺しという行為を見逃せるほどの人間ではない。
「善人」であるための一線を越えてしまった下人は、その事実に身震いした。
最近、自分の感覚…所謂良心がすごく鈍くなった気がするのだ。
中々のことがないと良心は痛まない、気がする。
「生きるためには仕方ない」と、自分を言い聞かせていたからだ。
目の前の強盗はどうだろう。
彼もまた、身なりからして下賎の身だ。
おそらく彼もまた、自分と同じく「生きるため」に強盗を働いたのだろう。
そんな彼を「外道」だと自分が憤って良いとは思えなかったし、他人事ではない気がする。
良心が限りなくなくなった成れの果てだと下人は思った。
その予想が外れていることを、下人は知るはすもなかった。
そういえば、と下人は思う。
この前、自分が善人ではなくなったあの件で会った老人は、
「自分は女の罪を許すから女もまた自分の罪を許してくれるだろう」
そんな事を言っていたような気がする
あの時の自分はその理論を鼻で笑いながら、逆にその理論を利用したが。
あの老人はそうやって良心を鈍らせていたのだろうと思う。そうでないと罪悪感に苛まれてしまうからだ。
あの老人は人を殺したりはしていなかったのだ、だから自分も問題ないと自分に言い聞かせようとして。
その保障はあるのか、と下人は思った。
生きていくための手段がなくなるまでは人を殺さないだろう。
でも、本当になくなったとき、自分はどうなるのか。下人は自分が自分で分からなかった。
そう思っていると検非違使たちがやって来た。
羅生門周辺より剣非違使は機能しているらしい。
検非違使が下人に声をかける。
「オイ、大丈夫か?」
茫然としながらそんな事を考えていた自分に、そう声をかけた。
場所からして下人は彼を殺せない。武器も持っていない。だからこそ検非違使はほぼ無警戒で声をかけたのだろう。
「ああ。大丈夫だ」
下人はそういう。
「犯人を見ていないか?」
下人は言おうか迷った。多分、自分が探せば、下手人はすぐに見つかるだろう。
でも、あれは下人のありうる末路のひとつだと思った下人は、言葉を濁すことにした。
人殺しは許されることではないが、それでもそれを正義感で片付けられるほど出来た人間でもなかった。
「……身長は被害者と同じくらいだったと思う。悪いが顔は思い出せない。突然のことに茫然としてな
思い出したらまた言う。」
「協力感謝する」
そういうと検非違使は去っていった。
下人は偶然にも、強盗に遭遇した。
「…なんで俺の事を言わなかった」
強盗はそう声をかけてきた。
「こちらも似たようなことをしてきた手前、他人事とは思えなかっただけだ」
強盗は泣きそうになりながら下人をキッとにらんで言う。
「オレは、捕まりたかったんだ、早く死にたかったんだ。どうしてその場に居たのに言わなかったんだっ!なんで……」
「どうして……?」
下人は気づくと聞いていた。
「どうして、死にたいんだ」
死ぬのが怖くないのか、と。そう聞いた。
自分は死んでしまうのが怖いからこんな風になったというのに。
自分とは違うのか、と思った。
「俺は3年前から死んだも同然なんだよ」
そう強盗は言う。
「3年前、ここらで火事…放火が起こったのは知っているか」
下人は首を振る。
3年前、あまり情勢にも詳しくなかった。
火事なんて、1年に何回も起きる。どの件を指しているのかは分からない
「悪いが知らない。というか分からない。」
「―――被害を受けたのはとある中流貴族だ。出来たお方だった。俺はその方に仕えていた。」
強盗は唇をかみ締める。
「あのお方は…死んだ……俺の所為で…」
強盗があまりにも泣きそうに言うから、下人は言葉が出なかった。
「『幸せに生きなさい。あなたはまだ若いのだから』あの人はそう言って、俺を庇ったばかりに…
あの人はまだ生きていなくてはいけなかったのに…死んだんだ。皆を残して。
あの方が居ないこの世界に俺が生き残っても意味がない…だから」
死にたかった。
そう強盗は消え入りそうに言った。
死にたかったけれど、放火するのは怖い。火を直視することが出来ない。あの事件の影響だ。
「犯人を殺そうと何度も考えた!!だってあの場に火の気はなかった。放火でもしない限り火事など起きるはずがない!」
でも、事故として処理された。検非違使によって。
「それでやっと見つけた……アイツは、俺の敵の一人なんだ。アイツは殺されて当然の人間なんだっ!!!」
強盗は涙を流していた。
下人は殺された人を思い出した。そして、自分の主に使えていた時、聞いた会話も思い出した。
「復讐を達成した俺に、もう生きる目的はない」
「なぁ」
下人は遮って強盗に言う。
「……室様に使えていらしたのではないか?貴方は」
強盗は目を見開いて下人を見た。
「何故それを……」
「…それの主犯格が俺の元主のところに来てな。
『ちょろいもんだぜアイツ。屋敷に火を放ってやったら勝手に使用人庇って死にやがった』
と、俺に自慢げに言っていたからな、胸糞悪い」
眉をひそめた。
「あ……そいつは俺と同じ身長くらいのこの辺にいるいい年の男だ」
容姿をできるだけ詳しく教えてやった。
それを強盗が望むならそれでもいいと思った。
下人は数日後、強盗が捕まったのを聞いた。どうやら、主犯格を殺したようだった。
あまりいい気はしなかった。
そういえばこの前、下人が窃盗…掏りを働いた人間はどうやら解雇されたらしい。それが原因で心労がたたって死んだ、とも。
下人は何故か酷く心が痛んだ。
出来れば自分が窃盗をしなくて済むような太平な時代を望みながらも、下人にそれを叶えることはできなかった。
下人が盗人から抜け出すことが出来たのか、それは誰も知らない。
ごめんなさい。
個人的にですけど下人ってエゴイズム丸出しだけどそこまで酷い人じゃないと思います。
彼のエゴイズムは人間の本能みたいな何かだと思うし仕方ない様な気もします。
同族を殺すって言うのは生物本能的にも禁忌なので、たぶんこの下人は人を殺せないと思うのは私だけでしょうか。
多分彼が誰かを殺すにはその本能以上の理由が居るんだろうなと思ったので
下人は結局窃盗だけの罪にしてもらいました。
でもこの下人も多分太平の世を望んでるよ!きっと!(願望
そしたら自分がエゴイズムに走る事もなかっただろうから。