神様の食堂
太郎は授業を終え食堂で夕食を食べていた。今晩の食堂のメニューはナンと、カレーだった。
「うまいな、ここの料理は本当にうまい。」
太郎は言った。
太郎は、食堂で、有子先生と向い合せになって食べていた。
「ここの食堂は、食の神様が経営しておられるので、料理はすべて、一流のものばかりなんですよ。」
洋子先生は、答えた。
日が暮れてきたころだった。太郎はかすかに食堂の隅から誰かが歩いてくるのを見た。
それは、透けて見えており、まるで、人間よりも少し大きいぐらいのニンジンが歩いてくるようだった。
「あっ、太郎君に言うの忘れてましたけど、夕方になると、ここでは神様が食事に現れるのです。
別に恐れることはございません。普通の人だと思って、話しかけてみても大丈夫ですよ。」
洋子先生は、食堂にくる神様とは全員と仲が良いらしく、神様も洋子先生を見ると、続々と、ナンとカレーをトレーに乗せて、彼女のテーブルの周りを囲み始めた。
すると、さっきのニンジンの様な神様が洋子先生のとなりに座った。
「洋子先生こんばんは。」
ニンジンの様な神様は言った。
「こんばんは。こちらは太郎君です。
太郎君、こちらは、モミノミコト様です。太郎君、皆優しいですから、怖がらないでくださいね。」
太郎ほ、ナンを口にくわえたまま汗が噴き出てきて、顎が痙攣を起こし、歯が、カリカリ音を立てていた。
「こ・・こんばんは、モミシダケノミコト様?」
太郎は少々狼狽しながらそう言った。
「太郎君だね。これからよろしくね。ここの連中は大食いばかりだから、早めに来ないと、なくなっちゃうから、気を付けてね。」
モミノミコトはそういって、他にもマイタケモミジという植物が、建物の横に生えており、夜4時ごろ建物中にその植物の歯ぎしりがうるさいだの、私たちは、壁をすり抜けて、ここに入ってきたが、トウフノモメンという神様だけが、毎晩壁をすり抜けることができず、建物の壁で、今頃うずくまって泣いているだのと、太郎にここの習慣を聞かされたのだった。
「太郎君、今君は、何歳かね?」
「僕は17歳です。」
「そうか、あと3年後に20才か、洋子先生、太郎君はいつ受講を終了する予定なんだい?」
「2年後です。太郎君なら、確実に2年後の卒業試験には間に合うと思います。
なんせ、飲み込みが非常に早い子なのです。」
「20才になると、何かあるんですか?」
「いや、ただお酒が飲めるだけだよ。我々と一緒にお酒が飲めるようになったら、またここに来なさよ。楽しいからね。」
太郎は神様と一緒にお酒を飲むなんて、とんでもないことだと思った。さらに神様の宴会に参加するには、神様でなければならないらしかった。
「僕は、神様になんかなれませんよ。」
「太郎君、あなたは下界の神様に会ったことは、あるかしら?」
「いいえ、僕は神様に会うのも、モミシダケノミコト様が初めてです。」
「そうかい、僕の事は、モミシダケと呼んでくれるといいよ。」
太郎は、少し狼狽し、分かりました。と言った。
「太郎君、神様になるには、下界の神様に会ってごらんよ。そうすれば、何か方法を教えてくれるかもしれないよ。」
「下界の神様って?」
「さっきも言った、空豆池におられる神様です。下界の神様はこの建物を作った、
いわば、ここの社長さんの様な存在です。」
洋子先生はいった。どうやら、空豆池とは、いわば、下界の一番神聖な場所で、そこには「タオライ人」しか、行くことができないらしかった。
「太郎君が、黄色のリンゴの実をたべて、タオライ人に変身したのも、おそらく、意図的なもののようだね。」
太郎は、はっと思い出した。
「そういえば、ここに来るときに、あった柴犬、何か見覚えがあったような気がするんです。
でも、モミシダケ様はなぜそれを知っておられるのですか?」
「私は、下界では煩悩の神様なんでね。常に下界の人間を観察しているのさ。
きみがここに来るまでを思い出そうと思えば、すぐに思い出せるよ。
太郎君には少し、たちの悪い煩悩があることも、手に取るように分かる。」
モミシダケ様は、太郎に「たちの悪い煩悩」が残っていることを教えた。
「僕の煩悩っていったいなんですか?」
「君の煩悩は矛盾だよ。」
「矛盾?」
「そう、太郎君、君には自分の中に矛盾が潜んでいる。
君は、確か、ツチノコを探しているんだよね?」
「そうです。僕は、ツチノコを探しに幹線道路の横にある草むらに居ました。」
「君は本当はツチノコを探しているわけではないよ。」
モミシダケ様は自信満々にそう言った。太郎はそれをきいて、少しためらいはしたが、少しの沈黙の後また口を開いた。
「そういえば、僕はツチノコを探しているつもりでしたが、実は自分でも本当になにを探しているのか、分からないのです。」
「そうだね。君の中に潜む矛盾が、君をいつの間にかそうさせたんだよ。」
「僕の中の矛盾・・・・」
「太郎君、まだ時間はあるから、自分の中の矛盾を取り除けるように努力してみなさい。2年間この建物で過ごしていれば、きっと何か手がかりがつかめるよ。」
モミシダケ様は、そういうと、ナンとカレーライスをまるで、水を飲むかのように平らげ、食堂から、とぼとぼ歩いて出て行った。
「僕は、どうすればいいんだろう・・・」
困っている太郎に洋子先生が言った。
「太郎君は目の前にあることを一生懸命すればいいのよ。だからまず、アブチョウラ語を一生懸命勉強しましょう。」
「太郎君は、29番室が自部屋になっているから、今日からはそこで、寝泊りしてくださいね。シャワーや、ベットなども完備されているから、安心してね。」
そう言って、洋子先生は掛けていたメガネをぴゅいっとかけなおした後、残っていたナンを半分ポケットにしまって、食堂を後にした。