黒い物体
太陽は、いまだに彼らに降り注ぎ続いていた。
道子はそれほどでもなかったが、小僧は2キロ程歩いた所で、ヘトヘトになっていた。
「姉さん・・・もう、3キロは歩いているんじゃないのかい?
これじゃ、一層に喉が乾いてしまうよ?」
「小僧男だろ?我慢しな。もうこの辺りに来れば、どのみち川へと着く筈だよ。」
しかし、それから半時間程歩いてみたが、川が見えて来るような気配はなかった。
そして、また数分ほど歩いた時の事だった。
さっきと同じような、カサッ・・・カサッ・・っという音が、草むらの中から聞こえてきた。
小僧はたちまち目が覚めたように目を充血させ、その音のなる方へと駆けって行った。
そこでは風鈴の音がした。
「リーン・・・リーン」
一体何だ?
すると、草むらの中の一脇に、またミステリーサークルの様に草が刈られている所があり、
そこには、首に鈴を垂らした、真っ黒のキツネか狸の様な物体がいた。
(・・・こいつは?何て醜い生き物だ・・・)
太郎は円の中に入るとすぐに、その黒い物体の方へと駆け寄った。
太郎「もし?・・・・もし?・・・」
道子「聞こえているかい?」
道子も恐る恐る黒い物体の方へと歩み寄り、目を吊り上げたまましばらく凝視していた。
「おい?言葉は分かるのかい?君はいったい何者なんだい?」
するとその黒い物体は黄色く光った目を2回瞬きした。
「どうやら、言葉がわかるのかもしれないよ?
君は?あの、実は・・僕たちは、何か飲み物を探しているのさ、
どこかに、川があるみたいだけど、知らないかい?」
すると、黒い物体はまた黄色く光った目を2度瞬きし、首に飾った鈴を「リーン・・リーン・・」
と鳴らした後、草むらの中に歩いて行った。
二人はその黒い物体について行った。
すると、その直ぐの所には、生い茂っていたはずの草むらがなくなり、
目の見える範囲一面には、小麦が生えていた。
「ここは・・・どうやら、近くに誰かが住んでいるようだね。」
小麦畑の向こうにはかすかに木造の小屋が見えていた。
黒い物体は、首を震わせ、汗を振り切るようにプルプルと勢いよく身震いし、
そうした直ぐ後、小麦を勢いよく食べ始め、そのまま人一人が歩く程度の速さで、道を切り開き始めた。
「・・・この子は、飼い主の所に行くのさ。きっとね。」
「そうかもしれないな、とにかく、ついて行こう、もうのどがカラカラさ。飼い主の人にお水をもらおう。」
「さっさとしなよ。おいてくよ」
太郎はへとへとになりながらも黒い物体を追っていた。
黒い物体は強靭な顎をまるで草刈り機のようにガブガブ動かし、首をぶんぶん振り回しながら、小麦を根こそぎもぎ取って食べ続けていた。
「見なよ、あの子、なんか体の色が変わってきたよ。
なんか、小麦色の様だ。」
「小僧、この子はどうやら犬の様だよ。」
「確かに、そうかもしれないな、毛並や耳の形にしても、しっぽが「の」の字に曲がっていることに関しても。
この子は柴犬みたいだよ。」
「あたしは、犬は嫌いだよ。子供の頃、家で飼っていたときは、家じゅうがフンだらけで、衣類やカーペット、家具から、何まで、家じゅうがその犬のにおいがすんのさ。」
道子はその犬のふりふりした尻の肛門を見つめながら、呟いていた。
「・・・僕は、もしかしてこの犬の事を知っているかもしれないな。
記憶の中で、買っていた覚えはないけど、なぜか知っている気がすんのさ。」
小僧は何かノスタルジックな思い出にかられた。
すると、次の瞬間、前方の方から真っ黒のSLが走ってきた。
「あれは!こっちにくるよ!
ものすごい煙だ!汽笛もなってるよ!おーい!おーい!」
小僧は、力いっぱい腕をふって真っ黒のSLに手をふって叫んだ。
ものすごい握力を感じるわ。それに風があのSLからやってきているようね。
するとその直後、彼らはその真っ黒のSLの運んできた風に勢いよくぶち当たった。
「ブゥーーー・・・ブゥーーーーー」
ゴゴゴゴゴゴッ・・
その真っ黒のSLは彼らのすぐ右側を何とも強力な勢いでかけて行った。
速さはそれほどではなかったが、その分強力な迫力を彼らに与えた。
日はくれそうになっていたが、いまだに昼間の暑さが残る時の事だった。
「誰かが、あのSLから手を振っていたようだね?」
「あたしも見たよ。青色の帽子をかぶって、白髪で髪の長い、陽気なおじさんに見えた。」
「とても明るい笑顔で僕らを見ていた。
きっと鉄鋼を運んで行ったんだろうね。通り過ぎる時に、鉄のにおいがしたよ。」
「そうかい?あれはもしかして、あのSLそのものの匂いがしたんだよ。小僧は初めてなんだろうね。あれはきっと、ワインを運んでいたのさ。
木製の車両の側面に何かローマ字が書いていたのを見れば、確かにそうさ。」
二人はSLが過ぎると、少し元気を取り戻したようだった。
あのSLはとてつもない勢いとともに何かすさまじい力を彼らに与えたようだった。