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太郎と道子2

 「道子の姉さんはどの位ここで旦那さん探しをしてるんだい?」

 

 「・・・・そうさね・・・三年位。」


 「そんなに待ってんのかい?

 しかしよ、今までそんなめぼしい男に会ったことはあるのかい?」


女は、それを聞くと何かを回想するかの様に空を見上げた。

 

 「一度だげあるよ。ここに来る前の事、もう昔の話さ。

その男には一目惚れしてね、その男が人生一生を共にする旦那だと、その時確信した位だったさ。とんでもなくいい男さ。

あたしが、まだ暴走族やってた時でさ、ある晩に、あたし達が真夜中に幹線道路を暴走してると、あたしたちの目の前にその男がぷらぷら幹線道路を横断してきやがったのさ。

 あたしはその時、さすがに息が詰まりそうになったよ。」


 「姉さん、そのお話、もっと聞かせておくれよ?」

 

 「・・・小僧、そんなに興味あんのかい?」


女は太郎の目を凝視して太郎の目をうかがった。


 「・・・そうかい・・なら聞かせてやるよ。」


女がそう切り出した時、何か草の中で蠢くものがいた。

「…がさ…がさ…」


太郎はそれを聞いて女の話を聞こうか、その物音の方へ歩み寄ろうかと考えた。

・・しかし、今さっき道子の話を聞きたいと言った小僧は道子の話を聞いていた。

  (ちぇっ・・もしかして、あれはツチノコの音だったのかもしれねえな・・・)


…あれは、ツチノコだったのか、誰も知らない。


 「小僧になんか、こんな話は控えたいんだけどねぇ・・

 あたしは男運がないのさ。

 あの男は、あたしと結婚する気なんて、さらさら無くってね、

ただあたしと一夜を過ごした後、その朝あたしの前から行方をくらましたのさ。」


女はこの話はもう自分でも話飽きたと言わんばかりに、ため息をついて話を続けた。


 「そのあと、その男を探して、祇園へ行ったり、宇治川に行ったりして、必死だったさ。

 あの男の顔に唾の一つや二つかましてやろうかと思ったよ。・・・・」

 

「でもね・・・それから、1年程後に、その男に会ったのさ。

 その男は、あたしの高校の母校の前にいたのさ。」


 「ドついてやろうかと思ったけど、どうしてもできなかった。

 ・・あいつ、一つも悪気のない顔してたからさ。」


 「そのあとはあたしの体からすぅーっと、力が抜けたよ。

 毎日毎日、飲んだくれて、気が付いたら、ここに座ってたのさ。」


 「そうか・・・・いや、大変なお話だった。」


小僧は、ろくな感想も持たず、女が話をしながらただ絶望し、俯きになるのをそっと覗いていた。

 

 「しかし、道子の姉さんは、ずっとここにいるのか?

こんな所に居ても、誰も来ねえだろ?」


 「小僧、そう言われてもね、あたしは身ごもってんのさ。

 だから、今は自由に動けやしないのさ。」


道子のお腹は身ごもっているとは思えない程に痩せていた。

しかし、本人は確かに身ごもっている筈だ。と主張した。

 

 「身ごもってるって?それはその男との子かい?」


 「そうさ。この3年間、ずっと身ごもってんのさ。

 だから、ろくに働けもしないよ。」


「お姉さんよぉ、とんでもない位の事かもしれねえけどよ、

その、身ごもった身のまんまで、ずっとここに座ってても、誰も来やしないもんだぜ?

来たとしても、僕みたいな小僧位のもんだろ?

 …だから、僕と一緒に夫を探そうじゃないか?」


すると女は、たき火を見つめたまま、少しの間ボーっとしていた。


 「・・・・もうすぐ、焼きあがるよ」


女は呟いた。

するとたき火の中からお肉のやさしい焼けた香りが漂い始めた。


 「何が焼きあがるんだい?」


たき火の中には、さっきまで無かったはずのものがたくさん出てきていた。

焼き芋、トウモロコシ、チキン、ニンニク、乾燥シイタケ

 

 「小僧、食べたきゃ食べればいいさ。

あたしは、火が怖いからさ、自分で手を突っ込んで食べな。」


小僧はそれを聞いて大いに喜んだ。

朝から何も食べていないからだった。

それから、小僧はたき火の中から、うまい具合にトウモロコシ、チキン

を取って、うまそうにむしゃむしゃ食い始め、泣き出した。


 「・・・おっおおっ・・・こんなうまいもんは、今まで食べたことがねえよ。

 うまい・・うまい・・」


 「そうかい・・それは良かった。

 でも泣くんじゃないよ?こっちまで泣けてくんじゃないかい?」


 「それでもうまい。このニンニクも、シイタケも、うまい。」


小僧はしばらく一人で泣きながら、チキンは骨の髄までしゃぶって食べ、トウモロコシも、一粒残らずたいらげた。


そして、焼き芋だけは、女に渡した。


 姉さん、俺全部食べるわけにはいかないからさ。この焼き芋食べなよ?


すると、女はすぅーっと腕を伸ばし、震える手で、焼き芋を手に取った。

女の手は、ジューッと音がし、掌の皮膚の1枚目が爛れていくのが分かった。


 「小僧、ありがとう。でもね、これは取っておくよ。あたしは食欲がないのさ。」


道子は酷く無気力でさらには本当に空腹では無い様に思われた。


 「小僧、そこまで食べたら、のどが渇いただろう?

 生憎、ここには水がないのさ。

 だから・・」


女は少し黙ったままだった。


 「だから、何なんだ?」


 「・・しかたないね、ここから北西に3里ほどの所に、川があるはずだよ。

 ついてきな。あたしは早歩きだからね。遅れても、面倒はみないよ?」


道子はそう言って立ち上がると、足早に草むらの中へと歩いて行った。

まるで自発的に行っている様であった。


道子の左側の黄色い椅子に関しては、太郎は何か異様な雰囲気を感じ取っていた。

しかし、それを太郎は尋ねようとはせず、ましてや、できるだけ見ないようにしていた。


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