太郎と道子
その日は夏の暑い日だった。太陽が宇宙から直接太郎にむけ、狙い打っているかの様だ。
太郎の背丈を超える草は、これほどまでの灼熱にもびくともせず、ただ微風に揺られながら、さらさらと音を立てていた。
歩き続けた太郎は何か煙の臭いを嗅ぎつけた。
「いったいなんで煙くせえんだ?」
太郎はすうーっと小走りで匂いのする方に向かっていった、その向こうには、女がいた。
身長約百七十センチに、浴衣を着て、
髪型はまるっきり江戸時代の舞子の様だ。
目はキリッとしていて整った鼻をしておりとても美人だ。
そして、右手にはパイプタバコをくわえ、小僧がその女と目が合うと、女はふぅー、っと一息はいた。
どうやら女は一人らしく、そこの一隊だけ、円状に草が刈られており、その真ん中にはたき火があった。
煙はこの焚火から出ていた。
こんな灼熱の中、女は何故か平気な顔をしていた。
女は丸い椅子に座っていた。
椅子は全部で三つあり、女は真ん中の赤い椅子に座って少し前かがみで足を組んでいた。
そして、女の右側に黄色い椅子、女の左側に青い椅子。と言う光景であった。
「・・・・なんだい坊や?あたしに何か要かい?」
小僧はそれを聞いて、暑さで吹き出ていた汗が一瞬で止まった。
おっ、俺、女には興味ないやい。俺ツチノコを探しているのさ。・・・
そう言うと小僧は体をゆらゆらさせながら、女の左側の青い椅子に座った。
「ちょっくら、椅子を借りるよ。何せ、ここまで二時間位か、手探りで歩いてきたんでよ。いや、女、よくこんな暑いところで耐えてられるな?」
「小僧、口のきき方に気をつけな。いったいお前いくつだい?」
「俺、今一七才だ。」
「へぇ、そうかい・・小僧だな。
それとさ、その椅子からどいてくんないかい?」
「えへへっ、悪いなっ女、でもよちょっと疲れてんだ。休ましておくんな。」
「いいからどいてくれ。あたしにゃ分かるんだい。あんたは私の夫になる器じゃないね。」
女は太郎を見下すようにいった。
「夫?こんな所で夫探しかい?めでたいね。」
「小僧・・口のきき方に気を付けねえと、肝っ玉抜いちまうよ?それと、椅子からどけってんだい!」
「ひいぇいい・・わるいな・・」
小僧は立ち上がり、足を震わせ女を見た。
「俺太郎って言うんだ。姉さんは?名前は何て言うんだい?」
すると女は小僧を見上げるようにしていった。
「あたしの事なら道子でいい。」