第6話:八宝石龍
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呆然とする光輝の目の前で、美しい声を張り上げて白い閃光を放つ龍は『怪鳥』に襲いかかった。
その強烈なスピードに怪鳥は対応しきれず、アッサリと首根っこを掴まれる。
短い悲鳴を上げる怪鳥であるが黙ってやられるほど哀れでも弱くもない。
フリーになっている足の爪を突きたて、【コンヴィクター】の脇腹に叩き込んだ。
「や、やばい!」
思わず光輝は声を上げてしまった。
その爪は非装甲だとは言え、合金製の船の壁を貫くほどの硬く鋭いものなのだ。
まともに当たればひとたまりもない。
≪当たればの話ではあるが≫。
突然、形容し難い甲高い音が響く。
「ん、な・・・!?」
光輝は目を疑った。
怪鳥の爪はコンヴィクターへ突き刺さる前に防がれていた。
爪の先に白い細波が立ち、壁に突き刺さったかのように爪は止まっていた。
(ば、バリアー!?)
ついでアクションを起こしたのはコンヴィクターである。
首根っこを掴む力をさらに強くし、力任せにシマノ内陸にある丘に放り投げる。
奇声をあげながら怪鳥は丘に叩きつけられた。
苦痛に苛まれながら怪鳥は反撃に出る。
口を大きく開けて咆哮でも上げるのかと思いきや、突然怪鳥の口はオレンジ色に輝いた。
それは数千度の熱を持った一閃となってコンヴィクター目掛けて走った。
(こ、今度はビームだって!?)
まるで特撮怪獣映画みたいな展開に光輝は唯々、圧倒された。
超熱波の光のメスはアバウトすぎる照準であったのか、割とアッサリとよけられてしまった。
そしてコンヴィクターも口を開け、そこから白い閃光を解き放った。
怪鳥は避けることもできず、腹に直撃した。
大量の肉片が消し炭となって飛び散る。その肉片も空中でバラバラになって霧散する。
腹をごっそりと削られた怪鳥は断末魔に近い声を絶叫した。
だが、コンヴィクターの攻撃はこれで終わらなかった。
見ると翼の輝きが一段と増している。エネルギーが収束しているのがひと目でわかった。
そして美しい声を響かせながらコンヴィクターは翼を羽ばたかせると、二条の太い閃光が翼から放たれた。
それは真っ直ぐに怪鳥へ殺到し、命中した。
途端に島全体を揺るがす大爆発が弾ける。
煙すら出ず、一固まりの光が輝いている。
おそらく、怪鳥は肉片残らず消滅したのであろう。
戦いの勝者はコンヴィクターであった。
聖なる龍達の伝説 -The Legend of Saint Dragon's-
第1幕
第6話:八宝石龍
光が収まり、動く者の気配がなくなるとコンヴィクターは翼の緊張を緩めた。
静寂が場を支配する。
夜だからこそ映える光がコンヴィクターの姿をより一層美しいものに変えていた。
「お、おい・・・あれってよ」
戻ってきた角田は上空で滞空する光源を見て光輝に疑問を投げかけた。
「・・・・【コンヴィクター】だよ・・・・きっと」
角田の声により地を戻した光輝は興奮が見え隠れする口調で静かに言った。
「ま、まさかぁ・・・・アレって結局200年前から出現してなくて死亡説もあったのに?」
確かにコンヴィクターは西暦2020年のフューリーサウルスの大災害からずっと姿を見せていなかった。
この為、ここ一世紀で死亡説が上がり、それが主流となっておりコンヴィクターを追いかける研究者は徐々にその数を減らしていったのだ。
しかし、その定説は覆った。
記録映像よりもハッキリと見えるその姿はまさに【コンヴィクター】である。何度もその姿を小さい頃から焼き付けてきた光輝は確信していた。
「と、とりあえず、他の連中がどうなってるのか見てこようぜ」
何となく予想はついているが、光輝を現実に戻すため角田は提案する。
確かにこのままほうけていても埒があかない、と光輝も考え、キャンプ地点まで戻ることにした。
しかし、やっぱり自分が追いかけていた存在として気になった光輝は再びコンヴィクターの方を向いた。
するとどうであろうか、光輝く龍は光輝の方を【見た】。
そして、微かであるが微笑をたたえたのである。
「・・・・え?」
その表情をつい最近どこかでみた覚えがある、と光輝は感じた。
どうしてそう思ったか、分からなかったが。
思考にふけた瞬間にコンヴィクターは表情を消して、強風が吹く方角へ飛んでゆく。
あっという間に閃光ははるか水平線へと沈んでいった。
キャンプ地点に戻ってきた二人はまず広がっている惨状に目を覆いたくなった。
自分たちのを含むテントは吹き飛ばされ、一部は照明器具の熱で引火し、火が風に煽られている。
しかし、思ったより生存者は多かったのは不幸中の幸いであろう。
コンヴィクターの出現が早かったのが要因であろうか。
とはいえ、楽観は全くできない。
自分たちの足であった『やしま』は大破炎上し、その醜態を海岸に晒していた。
救難要請は奇跡的に残っていた通信機があった物の、救助隊は台風が過ぎるまで動くことができない。
まとまった物資が運べる船もかなりの日数を掛けなければならず一週間ぐらいはサバイバル生活を覚悟しなければならなかった。
それよりも目の前の危機としてはこれから吹き荒れる嵐をどう乗り切るかである。
「こうもテントがボロボロだと修理してる暇もねぇ・・・」
一人の男が忌々しげにテントの残骸を見ながら呟いた。
ウェイトもそれを縛る物も何もかもが足りない。
「・・・・遺跡なら問題は無いんじゃないか?」
それを聞いた光輝が咄嗟に思いついたことを言う。
「あー、確かにあの遺跡はガッチリとした造りだし全員分を収容できる十分なスペースもあるな」
それを聞いた角田も同意の意見を述べた。
「けど、あそこの周りには昼間みたいなもんが出てくるかもしれないだろ・・・!」
誰かが反対の声を上げた。
「たしかにそうだけどよ。だったら野ざらしのまま嵐を凌ぐんか?さっきの怪物だって別の奴がまた出てくるかもしれないのにか?」
その言葉に誰もが押し黙った。
「それに、遺跡の中にはなにも出てこないっぽいし、蜘蛛の巣一つも見当たらねんだ。他に手段はないだろ」
「・・・無いよりマシ、か!」
とりあえず目的は決まった。
残骸から通信機等、使えるものをできるだけ取り出して急いで遺跡へと向かった。
嵐は雷鳴と稲光を弾けさせながら徐々に光輝たちのいる島へ迫ってきていた。
吹き荒れる暴風と豪雨が闇に包まれている海を掻き立てる。
その上空を白い閃光を放つコンヴィクターが翔ぶ。
雨風をバリアーで凌ぎつつ『彼女』は嵐の中心部へ向かっていた。