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聖なる龍達の伝説 -The Legend of Saint Dragon's-  作者: 四十茶
第1幕:誰が為に彼らは征く
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第5話:再臨


《大型で強い台風8号は今夜からあす明け方の頃、小笠原諸島を通過する見込み―――》


積み下ろし作業が夜にもつれ込んだ途端にこの緊急事態だ。

この台風、どうやら突然発生したらしく、しかもかなり速いらしいとのこと。


台風に備えるため、作業は中断。

掘っ立て小屋みたいな簡易テントなど吹き飛ばされてしまうためできるだけ固定する作業を大急ぎで執り行っている。


「こりゃあかなり遅れそうになるなぁ・・・・」


ウェイトにダイヤロープを縛りながら角田が愚痴を零したがユリアのことや白昼夢、作業で手一杯な稲葉は角田の愚痴など無視していた。


「・・・・・反応プリーズ!」


「あ?なんか言った?」


「ひでぇ」


こんな感じの会話がこれで5回目である。

稲葉はともかく、角田は学んではいるが寂しいのかちょっかいをかけてくる。

それすらもスルーなのだからいよいよ角田も我慢の限界を見せる。


「どーしたんだ!なんか突っ込んで欲しかったんだけど俺が突っ込むぞ!!どーしたんだ!?」


「・・・・・んー」


「だめだこりゃ」




        聖なる龍達の伝説 -The Legend of Saint Dragon's-


                  第1幕

           

                第5話:再臨



台風によって生み出される暴風の中を巨大な影が横切る。

暗くてよくわからないが、それは『鳥』にも見える。


だが鳥というには、影があまりにも大きかった。


その『鳥』は稲葉たち調査団がいる無人島にまっすぐ飛んでいく。



これより時間の針を反転させる。


突然発生した台風8号に運悪く巻き込まれた漁船があった。

排水量50トンほどの2級船であったが、波風に煽られ、翻弄されていく。


「くそ・・・・なんで―――!」


暴風と煽られたときの音で喧騒となる船橋で漁船の船長は脂汗を流しながら不幸を呪った。

海象は気まぐれだが、今日は落ち着いた気候で絶好の日和だった。

だが、ほんの数十分前に突然巨大な雲が頭上で異様な速度で発達し、あっという間に台風となったのだ。


「船長・・・舵が―――!!」


「なに!?」


絶望的な表情で全て言われなくても船長は把握していた。

舵が壊れた。いや、この波で壊れる舵など欠陥品で審査を通過できないだろう。

ならば、追波で舵が効かなくなってしまったのだろう。

船乗りとして避けなければならないのがこの追波だ。

小型の高速船に多く、ブローチングとも呼ばれ、最悪転覆を招く。


「できるだけ荷と船員を船の後ろに集中させろ!船尾にトリムを取らせるんだ!!」


混乱しかかっている船橋で船長は出来うる限りの改善策を取る。


「舵動かすなよ!ひっくり返りたくなければ――――」


と未だどうにもならない舵に取り付く船員に怒鳴った直後である。



突然彼らの耳に異質な音が飛び込んだ。


腹から響く、低く、されど美しい『声』。


ついで、蒼白い閃光が窓から指す。


「せ、船長―――!!」





風が吹き付け、轟音を伝えるテントの中で稲葉と角田は就寝に掛かっていたがどうにも寝れる気にならなかった。


「おいぃ早く寝ろよー」と角田にうるさく言われたがどうにも寝れない。


どんなところでもすぐに寝れるのが稲葉のささやかな自慢であるが、何故か寝れない。


(昼間寝たせいか・・・・)


まだ雨は降っていない。


「・・・・外に出るか」



外は雲ひとつ無い快晴。風があるだけで、月齢も満月なのでかなり明るい。


「うっ・・・・・」


だが暴風でまともに目を開けるのが難しい。

磯の香りが暴風に乗ってくるが意識は風がもたらす冷却に持っていかれる。


だが、心地よい。

なんだかモヤモヤした気分が風に払われていく感覚である。


「・・・・ユリア、か」


唐突に稲葉の脳裏に夕刻に再開したユリアと名乗る女性の顔が浮かんだ。

一目惚れという奴であろうか?

とはいえ、あれだけ綺麗だと声をかけたら10人中10人が振り返りそうで、その美しさに『憧れ』に近い意識でも芽生えたのであろうか?


冷静に自分の心境を悶々と考察していた時であった。


一瞬、月光が何かに遮られて影が稲葉を覆った。


「――ん?」


咄嗟に真上を見上げた時である。

上空から何かが急降下してくる。


「・・・・鳥?」


影を見て稲葉は思ったが次に可笑しいと感じた。

鳥があんなに大きいわけない。


それが急速に巨大化していく。

いや、こっちに距離を詰めてきている?


それが分かったとき、稲葉は暗くて判別が付きにくかった『鳥』の顔を見た。


身体に見合った口を持ち、それがこちらに向かって大きく開いているのだ。


「ッ!!?」


悟った。


く、喰われる!!


だが恐怖で腰が砕けることはなかった。

一気に横に向かって駆けた。


「う、おおおおああああ!!」


口が自分のすぐ横を薙いだ。

ついで、ソニックブームで稲葉の身体は大きく吹き飛ばされる。

台風とは比べ物にならない突風が吹き荒れ、テントは弾け飛ぶ。


何度も転がりながら草むらに突っ込んでなんとか稲葉の身体は止まった。


「くそ・・・耳が」


曇った感覚が起きたがそれよりも稲葉は空を見上げる。

またも鳥が急降下を行っていた。


延長線上を見ると数人の作業員が混乱し、固まっている。


「バカ!逃げ――――!!」


稲葉が声を上げる途中で鳥は通過し、あとには何も残っていない。


ゾワリ、と全身から脂汗が溢れかえった。


直後ドサリ、と上から何かが降って来る。

稲葉はゆっくりと視線を向けると、顔があった。


損傷が激しく、暗いこともあって判別できないが、恐怖で歪んでいることだけは辛うじて分かった。


胃の中のものが逆流しそうにはならなかったが後ずさりし、木にぶつかる。

思わず振り返るがただの木に驚く自分に苦笑いを浮かび上げるが事態はひどくなっていく。


テントがある方から怒号と悲鳴が沸く。


先ほどの情景を見たほかの連中がパニックを起こしたのだ。

むしろ起こさない方が可笑しい。

パニックを通り越し、呆然とも言える状態の稲葉は淡々と考えていたが再び襲いかかったソニックブームで目が覚める。


「ってアイツテントの中に寝てたんじゃ!」


ようやく角田のことを思い当たったようだ。


「くっそー何なんだよ一体・・・・」


茂みの奥から聴き馴染みのある声が響く。


「―――どんだけ運がいいんだよコイツ」


「は?って光輝、なんでお前こんなところに居るん!?」


茂みから出てきたのは何と角田清和であった。悪友、悪運も強し。


「・・・大体お前と一緒のいきさつだ」


「てか、何が起こったんだよ・・・あっちこっちぶつけて痛いんだが」


角田が愚痴た瞬間、あの巨大な怪鳥がやしまの船上に降り立った。

凄まじい音を立ててやしまは火花を散らし、火災を起こす。

轟音を立てて船体が悲鳴を上げる。

船上に湧いてくる人を、まるで待ちわびたかのように。


「――――」


貪る。


その光景に角田は唖然とした。


「・・・・悪夢だ。出来すぎた悪夢だ」


「夢だったらいいんだがね、これが」


しばらく、鳥は船員を食ったのち、顔を上げ、咆哮を上げる。



まるで勝利の凱歌だ。

ムカつくことこの上ない。


だが稲葉たちに出来ることはない。

そして咆哮が終わった直後、稲葉たちに視線を向ける。


ゾクリ、と悪寒が走った。


再び不気味な咆哮を上げて鳥は稲葉たちに目掛けて飛び立つ。


「マズイ、バレた!逃げるぞ!!」


固まる角田の頭を叩いて稲葉はジャングルの奥へ逃げようとする。

だが、そう経たないうちに追いつかれた。

飛行と歩行では圧倒的に前者が速い。ジャングルを使えば逃げれるかと思ったがそう甘くはなかった。


ジャングルの木々をなぎ倒しながら鳥は巨大な顎をあけながら稲葉たちを喰らおうと迫った。


「や、やべぇ逃げきれない!」


絶望を滲ませる声を角田は上げ咄嗟に稲葉は考えつく。


「俺が引き付ける!角田はサッサと逃げろ!!」


「はぁ!?何かっこいいこと言ってんだコイツ!!アホじゃねぇか!!」


「イイからお前はそっちに逃げろってんだよッ!」


なんやかんやで義理堅い角田は当然それが自己犠牲というモノに気づいている。

どうせ遅かれ早かれ食われちまうんだったら変わりはしない。


不意に後ろを見た瞬間、巨大な口が迫ってた。


や、ばい。


二人の脳裏に『死』という単語が浮かんだ。


走馬灯というのはこういうことか。

人生の記憶が掘り起こされる。

名案などない。

このまま訳も分からずこの怪鳥の餌となるのだ。


くそ―――死にたくねぇ!


直後、彼の足はもつれた。

何かが足に引っ掛かったのだ。


運命って残酷だ――――。


悪態を吐こうがもう無理だ、逃げられない。

あとは口に放られて咀嚼されて、餌になるだけ。


そう腹をくくった時であった。


突然、閃光が横殴りで怪鳥に襲いかかった。


まぶしさに怪鳥は目を一時的に潰され、捕食を諦めて急速に上空へ駆け上がった。


地面に転けたあとも来るはずだった衝撃が来ないことに稲葉は不思議に思い、目を開けると光が差し込んだ。


それは上空からだった。


視線を上に移すと、まばゆい光源が映った。


「んな―――」


それは自分が何度も『あの時』から続いた資料の中で見てきた姿であった。

一対の純白の翼からまばゆい閃光を放ちながら、怒れる鳥と対峙するその姿は―――。






「コン・・・ヴィクター・・・・」






それは『彼女』に与えられた仮初の名前。


【裁きを下す者】、とはその眩く美しい姿に稲葉たちは呆然とその光景を眺めた。



そして、『彼女』は咆哮を上げて怪鳥に挑んだ。



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