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聖なる龍達の伝説 -The Legend of Saint Dragon's-  作者: 四十茶
第1幕:誰が為に彼らは征く
3/7

第2話:揺り籠

「うー、遅いなぁ・・・」


頭を丸刈りにした男が腕時計を見ながら呟く。

彼が居るのは東京港の一角にある桟橋。

そこにはかなり大型の分類に入る調査船が停泊していた。


“やしま”と船首に塗られた船名と四角い船橋、そこに起立するマストが特徴だ。

昨年就役したばかりの最新鋭観測船。当然政府が所有する物だ。

今回の遺跡調査は政府も一枚噛んでいるようである。


ふいに後ろを眺めた丸刈りの男――角田清和は観測船やしまの概要が頭に飛来するがすぐに(彼にとって)重要な要件に押し流された。


「まっずいわぁ~こりゃ船出ちまうぞ」


当初は角田も余裕があったが出港20分前にしてやってこないのは流石に不安材料が大きくなってくる。


「あー、後10分ぐらいか・・・・寝坊したんじゃねぇかアイツ」


なんだかんだで几帳面な顔も持つアイツには有り得ない話だが。

公共交通もそれほど混乱はない、筈だ。


徐々に焦りと苛立ちが立ち始めようとした頃合であった。


「うぉおああああああああああん!」


訳の分からない叫び声が聞こえた。

結構大きな荷物を抱えた青年が桟橋に向かって走ってくる。


「待ち人来たり・・・おっせぇぞ光輝!もう出港しちまうぞ!!」



         聖なる龍達の伝説 -The Legend of Saint Dragon's-


                  第1幕


                第2話:揺り籠


なにやらやきもきしていたのか、角田は少し稲葉に愚痴を零した後、そそくさと乗船してしまった。


「っておい、荷物どーすんだよ!」


どうやら宛てがわれた部屋に持っていくしかないようだ。

着替えなどをガンガン突っ込んだ為、結構重い。肩は鈍い痛みを出している。


仕方がないので乗船しようと荷物を持ち上げた直後であった。


「――――?」


一瞬だが、影が自分の隣を横切った気がした。

眼を負わせると一瞬だけ船に乗る女性の人影らしき物が見えた。


「・・・・・幽霊?」


少しだけ船に乗るのを躊躇ったが突っ立っている稲葉に気付いた係員が声を掛けてきてしまった。

結局、人影の正体が分からずじまいのまま彼を乗せたやしまは桟橋から離れ、新しい遺跡が発見された小島へと進み始めた。



2日ほどかけて船は目的地の小島へと到着した。

小笠原諸島の中に潜んでいた無人島で、原生林が大量に広がっており如何にも何かが居るという雰囲気を出している。

島の中央部は小さい山が聳えている・・・アレは確か死火山だった筈だ。


「うわー、こりゃ何かあるという臭いがプンスカするな」


上陸用に用意されたホバークラフトから降りた角田は同じく上陸した稲葉へ楽しげに語りかけた。


「う、嬉しいような嬉しくないような」


今更ながら稲葉はここへ来たことに後悔した。

何を思っても遅いのだが。


「ようようよう!ここまで来たんだから毒を食わばら皿までってな!」


「・・・・誰のせいだよ」


陽気に語る角田を見て稲葉は頭を抱えたくなる。


目的地は生い茂るジャングルの真っただ中に有る。

調査隊は機材の運搬が完了し、遺跡への移動を開始する。


その後も順調とは言えない旅路となった。

泥濘ぬかるみにハマって動けなくなる者が続出し、深い植物が行く手を遮っていた。

歩いても歩いても目的地は見えず、3時間近く経過した頃にようやく遺跡の入口が見えた。


「・・・・まるで揺り籠だな」


内部入った稲葉が最初に思ったのはこれである。

何もないが作りは非常に良いものだらけだ。

しかし稲葉にはそれが神殿にはどうしても見えなかった。

これにはさすがの角田も意味を解するのに時間が掛かってしまう。


「揺り籠・・・とな?」


「んー。ある意味“神殿”なんだろうけどさ」


稲葉が何を言いたいかが何となく分かった。

しかし、それは余りにも突拍子もない事であろう。


「つまりあれか?“コンヴィクター”はここに眠っていた、とか言いたいのか?」


「――――あぁそうそう!」


手をバッチンと叩いて稲葉は大きな声を上げてしまう。

一斉に他の作業をしていた人がこちらに振り向かれ、なんだか気まずい空気が出来上がってしまった。

なんだか申し訳ないので作業を手伝うことにした。



中は意外と涼しく、湿気もそれほど多いというほどでもない。

作業を程々なところで終えた二人はようやく遺跡の奥へと進む。


「しかし、何にもないところだなぁ・・・拍子抜けちまったぜ」


角田がそういうのも無理はない。

これほど大規模な物なのに壁画、装飾といった物が一切ない。

盗掘された形跡も無いのに、だ。

つまり、最初からそれらは無かった事になる。

ただ簡素に作り上げられたかそれとも≪装飾を造る暇もない程の突貫作業≫で作り上げたか・・・・・。

延々と二人で考察し合いながらしばらく歩くと、一筋の光が差し込む大広間と思われる場所に出た。


「・・・あれ、先に行った連中はまだ来てねぇのか?」


誰もいない広大な空間を見て角田は思わず先行したグループの安否が気にかかってしまう。


「まあ何か迷路っぽい作りだったしなぁ」


と稲葉が呟きながらふと天井を見上げる。

瞬間、まるで金縛りにあったかのように硬直する。


「?どったぁ光輝――――」


角田も釣られて天井を見上げると絶句。


「お、お、おお・・・よ、ようやくまともなもん見れた、な」


天井には六角形の陣の角と中央部に八体の龍が描かれていた。


ひとつは火炎をまき散らす者


その真反対側には荒れ狂う海を背景に展開する者


海の左側には暴風を身に受け、まるで弾丸の用に駆け昇る者


風の上側には灼熱を盛り上げ大地を広げる者


海の右には凍結した海を背景に冷気を優雅に振るう者


氷の上には雷雲を生み、雷鳴と稲妻を轟かせる者


その六体の龍の中心部には白い龍ともう一つの龍があった。

白い龍は抽象的に描かれてはいるが、コンヴィクターと酷似していた。


一方はちょうど天井が欠け、その姿を捉える事は出来ない。


「な、んだ・・・こりゃ」


その天井画を見た稲葉は思わず感嘆の声を上げしばし見とれていた。





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