Interlude 12.
わたし、あおいが急いで向かった先は神社の階段の下。
パトカーと救急車の赤い光の中。鹿嶋さんが立ちつくし、久瀬さんはうずくまっていた。
見おろしているのは、おばさん。武崎さんのお母さまだった。
「また娘を殺そうとしたのね」
メガネのおじさんが彼女をとりおさえる。
「かまっている場合じゃないだろう」
「なんとか言いなさい!」
ヒステリックにおばさんががなりたてた。
その横で、なつきさんは白いブランケットにくるまれ、救急車に収容されていった。ほら行くぞ、とおじさんが無理におばさんをひっぱっていく。
鹿嶋さんはその様子を見送り、久瀬さんをふりかえる。
「久瀬、これか。武崎さんとどういう知り合いか話さんかった理由」
久瀬さんは立ち上がり、力なくうなずいた。
救急車は派手にサイレン音と、タイヤと砂利がこすれる音をたて、走り去った。
真夜中の丑三つ時、そして階段下の境内でよかったと、わたしは思った。やじ馬がほとんどいないから。
「きみたち、少し話を聞かせてほしいんやけど」
警察の人、口調は有無をいわさずっぽい。
でも久瀬さんは、
「明日にしてもらえませんか。もう疲れましたから」
「親御さんと連絡が取れるまでの間やから」
「だから何度もお話したやないですか! 武崎さんからのメールでここやと分かったから来て、見つけたんですって!」
鹿嶋さんがいらついた口調で言い返す。
久瀬さんの方は疲れきった笑顔だった。
「それとも、僕らがいかがわしいことをしていたとでも思ってるんですか」
警官はぐっとなにかを飲みこんでから、
「分かったから。とりあえず車の中で待っていなさい」
鹿嶋さんは警官をにらみつけてから、久瀬さんは目をそらしつつ、パトカーに乗り込んだ。パトカーの外ではもう一人の警官が連絡を取っていた。
「武崎菜月はさっき搬送した……ああ、高校生や。身柄を確保している。苅野北英高一年、鹿嶋匠海。久瀬暁哉……」
鹿嶋さんが低い声でたずねる。
「『白河』の名前出したのな」
「やっかいごと嫌いの秘書がうまく対応して、警察もとっとと解放してくれる、と踏んだんやけど」
「武崎さんの親がここに来たんが見事に誤算か」
「病院に直行してると思って」
久瀬さんは後部席のドアに手をかけた。カギは閉まっていた。まるきり犯罪者扱いや、と言いながら鹿嶋さんが前の席のシートを蹴りつけた。
「鹿嶋、僕、逃げるわ」
「なに言うとんねん!」
「神社の上に戻る。こんなとこで油売ってられるか」
「完全に疑われるやろ。武崎さんが証言しても、あの親が無茶苦茶言うかもしれん。いや絶対言うやろ! それで久瀬……おまえ今もあんな、いきなり殴られて、決めつけた言われ方されて、なのに黙って弁解もせんで」
「なに言われても別にええ。結果さえ良ければ」
久瀬さんは運転席を注意深くうかがった。
「さっき自分で天宮さんやったら大丈夫やと、断言したやろが。根拠レスに。それは判断した結果やないのか」
「根拠なかろうが大丈夫や。でも」
「でも?」
「不安でこっちが潰れそうになる」
「おまえってさ……」
鹿嶋さんが言いよどむ。
「なに?」
「いや……苦労症も大概やぞ」
久瀬さんが運転席に身を乗り出しかけた、けど、すばやくもとどおり座りなおした。ふたりの警官が前の席に乗りこんできたからだった。
「連絡がついたから送るわ」助手席側の警官が告げた、「久瀬君。きみは、お父さんのほうの神戸の家まで送り届けるから」
冗談やろ、と鹿嶋さんがつぶやいた。
久瀬さんは額に手をあてたまま、黙ってうつむいていた。