04.さぐりあい〔2〕
最近、あるお菓子がお気に入りでコンビニに通っている。
誤解のないように断っておく。決して、コンビニの魔物さんに会いに行くわけではない。
「サナリさん」
カップラーメンの棚を整理し終わった銀縁メガネ青年は、ダンボールをつぶしていた。
以前のようにカッコいいオーラはない。
似合わない銀縁メガネのせいだ。故意、だろう。アイテムで美青年レベルを下げる、という術を編み出したらしい。
私はパウチ入りのお菓子を握りしめている。クルミにカラメルをかけてゴマを散らし、軽く焼いたもの。軽い口ざわりと香ばしさ、くどくならずに広がるカラメルの甘さ。これがほかのコンビニには売っていない。私が買い続けるから、ここでだけ入荷されているのかもしれない。
レジに戻る彼の後ろをついて行く。
「サナリさんは、藤生氏と連絡をとることはないんですか」
「基本的に、私からは出来ません」
「基本的に? も少し詳しく教えていただけますか」
「はい。上主様の命令を私は受ける義務があります。でも、私にはあの方に申し上げる権利は基本的にはない。行使するとすれば禁……法律を破るのと同じです」
「手段としてはあるけど、やっちゃいけないってことですか」
「そういうことです」
沈黙。バーコードリーダーの電子音が耳につく。
うつむいたサナリさんの顔は少し、寂しげに見える。
「じゃあ、知りませんかね。藤生氏と久瀬くんて、結構連絡とってるかどうか」
サナリさんは顔を上げた。
そして、思いを巡らすような眼差し。銀縁の奥の瞳が光る。
「考えたことがなかったな……いや、存じ上げはしませんが」
彼はなにを思索したのだろうか。
私の質問は、意外と盲点をついていたのかも。
私にはなにが盲点となっているかすら、分からないが。
「旧知の友人と連絡をとりあうことはあるでしょう。彼らはいわゆる『幼なじみ』ですし」
「そうかな」
「なにか、ひっかかる話があるんですか」
反対にサナリさんが私に問いかける。
「ちょっと思っただけ。私も連絡してみたいなーなどと思ってみたり」
言えやしない。『夢でメール送ってました』なんて。
「そうですか。じゃあ探っておきます。今度のバンドの練習に参加してみて」
「へ?」
バンド?
「バンドって」
「アキナリがバンドをやっているんですが」
「久瀬くんの……メンバーなんですかっ!」
寝耳に水だ。仰天動地で目の玉ぽろんと飛び出そう。
「もしやサナリさんが『タチバナ・モトイ』やないっすよね」
「『タチバナ・モトイ』をご存知でしたか」
「話には聞いてますが。久瀬くんが彼には気をつけなさい、と」
サナリさんは嘘はつかない。
ただし『嘘はつかない』イコール『真実だけを話す』でないのがミソ。だが、何らかの情報が得られればそれでいい。
どうも、久瀬発言で不安が頭をもたげてきている。
「彼がどういう人間なのかを知りたいのですね」
私は何度もうなずいた。
「実際に顔をつきあわせるのが一番でしょう」
「やはり同じこと言うし!」
「アキナリも同じことを言いましたか」サナリさんがレジ袋を差し出して微笑む、「ここはぜひ、あなたの印象をぜひ聞かせてほしいものです」
私は返事に困り……今日のお会計一五七円ちょうどを財布から取り出した。