02.無罪証明〔1〕
ある昼下がり。
私とかのん、せりちゃんの集まりは卒業以来だった。
関西では有名なカリスマ・パティシエがプロデュースしたカフェが、苅野グラスタウンにできたっていうから、
「そこで集まろう」
ということになったのだ。
パラソルのもと、三人の女子高生はかしましい。
本音いえば、店内に居座りたかったんだけどね。涼しいから。
でも席がとれなかったんで、店内の黒と赤のアヴァンギャルドな装飾は夏にはふさわしくない! と強がってみせたりして。
私はフォカッチャをほおばった。それから冷たいカフェラテをのどに流しこみ、また食べた。
食欲の大魔神と化し、友人のトークも耳に入らない。
そもそも困った話だった。
私の口をはさむところなど、ありゃしない。
私どもは『お年頃の』『女子高生』である。
そういう人種がもっとも熱く、深く、談義できる話とは。いわずもがな、恋愛談義である。
「あきらめんでもいいやん」
かのんはストローを勢いよく回して力説する。
かたや、せりちゃんはカプチーノの泡をなで付けながらうつむく。
「でも……自信失った」
「それ気ぃ早ない? すでにカップルってわけちゃうねんから」
自分のぶんのフォカッチャがなくなってしまった。
「でも……」
手持ち無沙汰だ。
そろそろ会話に参加せにゃならんかな。
「その人って、同じ学校の子なん?」
かのんとせりちゃんはそろって私の顔を見た。
いや。見たというよりは、別世界から来た人のように眺めた、と表現したほうが正しい。
そして、大きく息を吐くようにかのんが答える。
「ぜんぜん、身に覚えなし?」
身に覚え。
ますます分からない。頭の上で『?』が大量に舞い踊っている。
「なんて? かのんさん」
「せやからさぁ」
「かのん!」
せりちゃんが立ち上がってかのんの発言をさえぎった。
私もかのんも目を丸くして、彼女の次の動きを待つ。
「あかんよ……ダメな気がする。絶対」
せりちゃんは今にも涙をこぼしそうだった。
私には意味が分からなかった。
だがなんとなく、状況は分かった。
せりちゃんは好きな人がいる。ホントに好きらしい。相手は別に彼女がいるわけでもない。でも努力してもその人は振り向いてくれるだろうか……だめなんじゃないか。そんなジレンマ、絶望に近い想いを抱えている。
かのんは相手がだれか知っているみたいだけど、私には教えてくれない。
私も知っている人か。
となれば数は知れている。
「はるもそこまでアホちゃうよ」
アホで悪かったな。
「かのんに、まかせる」
せりちゃんはお手洗いに行って来る、と言ってから、くちびるをかたく結ぶと、席を立った。彼女の長い髪が揺れ、花のような香りが微かに残る。
かのんと私はしばらく黙っていた。
……これだれの曲やろ、いい声してんなあ。
重い空気に耐えかね、店に流れている音楽をサカナにそう口走ろうかと思った矢先、
「ハル、ライブのチケットありがと」
おもむろにかのんはきりだした。
「よかった?」
「すごいよかった。鹿嶋久瀬ええよね。ビジュアルもいけてる方やし偏差値高いし。惜しいっ。中学んときゲットしときゃよかったっ」
「おいおいなに言うか彼氏持ちが」
「『Pot de magie』てバンド名なんやって。名前だけやとコミック系みたいやけど、やってたのは『転石苔むさず』」
「ローリング・ストーンズかね」
知的なのかどあほうなのか分からんボケだ。
「ヴォーカルの人がめっちゃかっこええの! 歌はねちっこかったけど」
「ミック・ジャガーも微妙にシツコイけど、マイナス評価にはならんよ」
「顔が美しいんだわ!」
「君は音聴いてたか顔拝んでたか、どっちやのん」
「せり、花を渡しててん。ヴォーカルの彼に」
私はツッコミを止めた。
「彼は花を受け取らんかってん。そんで、天宮はるこが好きなんやって」
「は?」
「タチバナ・モトイってゆう子やけど」
だれやねん。それ。
「ハル、だまってたわけちゃうよね」
私は横に大きく頭をふって、あぜんとしつつ、答えた。
「寝耳に水なんですけど」