Interlude 01.
ゆっくり丘を降りる。
ただ無言で、ひたすら歩く。
そのまましばし時が流れた。
しびれを切らしたのは少女のほうだった。口をむずむずさせ腕を振り回したかと思うと、やにわ切り出した。
「カイ。あなたはなに人? なにしてる人?」
少女は上半身を傾けて、少年をのぞき込んだ。
藤生氏は氷の表情のまま、さらりと答える。
「日本人の留学生」
「大学生? そうは見えないわ」
クスクスと少女は笑った。
そして、自分と同じ『家出少年』と思ってた、と付け加える。
藤生氏は前を向いたまま言う。
「家出少年と大差ないよ」
「どうしてこの港町に?」
「調べたい事があって」
いぶかしげに少女は藤生氏を見返した。
「駅で会って丘に登って海を眺めて……あなたは今日、何を調べていたというの?」
「下調べ名目の観光かな。宿は用意してるし、ゆっくりと」
少女は無言で目を伏せた。
藤生氏はその反応の理由を知っている。
「行くところ無いなら泊まる?」
少女は耳を紅に染めた。
もともと純朴さをあらわすように頬は赤みを帯びていたが、そのときは全身にまで熱が回ったように見えた。
同年代の異性、しかも今日初めて会った男に『泊まるか』と言われて、平然としているほど擦れてもいない。だが、相手が少し年上とわかったら、背伸びをしてでも大人に見られたい。
「いいわね。泊めてもらえる?」
少女、渾身の虚勢を張る。
その機微を知るや知らざるや。
藤生氏は『いいよ』と軽く答えたまま、鉄面皮を崩さない。