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Plorogue ; a spiral stairway.
太陽は傾いていた。
潮の香りを全身に受けながら、歩く。
丘を登る。空が迎えてくれる。少年と少女は歩を止めた。
街からの風景とは異なる、海。広くまっすぐに伸びてゆく。
誘われるように彼らは丘のはしへと歩みを進めた。高揚する心を持て余すかのように、少女は大きく息を吸い込む。
海面が太陽に染まりだす。
紅とも紫ともつかぬ色。未だかつて知らない自然の彩りに、陸も少しずつ染められていく。
「ね? きれいでしょ」
無邪気に少女は紅顔をさらに紅に染めて、亜麻色の髪をかき上げた。
少年はなんの感情も見せず、ただ‘Ja’と音をもらす。
「私はここが大好きなの」
穏やかな波。行きかう船。海に記された小さな波形。
それは遥かな空の下のひととき。
そこは北海の大洋に面する港町。
だが……私はこんな場所を知らない。
だけどひとつだけ、知っている事がある。
その少女に時折目を向けながらも、丘にたたずむ少年。
無造作にはねた黒い髪をそのままに、薄い茶色の眼を海に向けている少年。
それは、少し大人になった藤生氏の姿だった。