Winner's Goal
そのゴールのあと。
ゲームは、守備がちの流れとなっていた。
敵のほうが攻撃に形ができている。右サイドからのカウンター攻撃がうまい。
というわけで私は右サイド、敵からすると左サイドを動き回っていた。当然、ボールができるだけ来ないところにポジショニングしてるわけ。
それでも、さっきのゴールで一人、厳しいプレスがついている。
「そんなことしたって無駄。私はゲームに参加してません」
と主張をしたいのだが、偶然であれ実績は、実力より雄弁である。
審判がボードをあげた。
ロスタイムは一分。
一対〇で勝ち越している。
攻め込まれてはいるけど、なんとか守りきればいい。
体内時計がカウント開始した、そのときだった。
笛の音がフィールドに鳴りわたった。
「ああ!」
タカ君は思わず頭をかかえた。
味方のゴールキーパーが四秒以上ボールを持っていたため、ファウルを取られたのだ。守りのための時間稼ぎが過ぎた結果だった。敵にはフリーキックが与えられる。
タカ君はすまなさそうに私を見た。
「天宮さん、ゴメン」
真意がわかった。
フリーキックといえば守備側が行うのは『ゴール前の壁』。
「私も?」
「無理せんでいいから」
タカ君は口ではそう言っていた。でも少しばかりの期待を抱いてもいる。
私も中途半端にひき受けながら逃げ出すのかと悩ましい。
もとはといえば。
私の心の叫びはひとつだった。
…………あほー!!
「このへんおればええ?」
私はとぼとぼと歩いて、丸刈り君の横に陣取った。
タカ君はさっと表情を明るくすると、壁の真ん中に入った。
とほほ。
おのれの人の良さ、無謀さには時々自分でも腹がたつ。
さて、気持ちを切り替えよう。
ボールはほぼこの壁のどこかに来る。覚悟はできた。
でも、
「顔だけには来てくれるな」
と、私は切に願った。
男の人が壁になっているとき、某急所を手でガードするじゃない? 一番当たるとつらい(と思われる)し、困るところだから。でも顔は手でガードはできない。腕にボールが当たったらファウルになる。
どうしよう。この手のゆくえ。みんなの真似したらアホだし。二番目に大事な胸なんか、ガードしてみたりして。意味ないか。ぺたんこやし。
つまらんことで私が途方に暮れていると、横で抑揚のない低い声がした。
「俺に任しとき」
丸刈り君だ。
かっこいい。
こんな頼もしい言葉、今までの人生で男の子から聞いたことがない。
「丸刈り君」
というのは失礼なんで、私は小さくうなずいて前を見すえた。
笛が聞こえた。
ボールが宙を駆けた。
私めがけてやってくる。
丸刈り君が私を軽く押して、跳んだ。
私は、前へ走った。
丸刈り君がボールをヘディングでクリア。
フリーの私の前へ落ちるボール。
それはまさしく、奇跡のよう……。
私は思い切って、蹴り上げた。
ボールは遠くへ舞い、ラインを割ってゆく。
そして、終了を告げる音が高らかに響いた。
「はるこ!」
かのんが羽のようにふわりと、飛びついてきた。
「はるこ、すごいすごいっ!」
「こら、かのん。勝利をたたえるのは彼氏にやりたまえ」
「だって、すごいやんっ」
興奮で言語中枢がいかれたか。かのんのボキャブラリは皆無になっていた。すごい、かっこいい、すごい。と、彼女は同じ言葉をひたすら彼氏に訴え続けていた。
そんな「なんだかなあ」な光景を眺めていると、丸刈り君が私のそばへやって来た。拳を顔の横で固めている。
「サンキュ」
彼はそう言った。
それに答えるかわりに、私は彼の拳に自分の拳を軽くあててみせた。
彼は、微笑でそれに応じた。
少しつり目だ。目元がどこか藤生氏に似ている気がする。
私は藤生氏の顔を思いうかべた。
ほかのメンバーも次々と私の元に寄ってきた。剣を交える騎士のように、私たちはその儀式を交わしていった。
ふと、左手首の熱さに気づく。
アームレットだ。それは熱を帯び、手首に絡みついてくるようだった。
(もしかしたら助けてくれたのかも……藤生氏)
今ごろ私は、勝利の喜びをかみしめはじめていた。