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魔法の壺  作者: 鏑木恵梨
Magi Farm
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04.夏休みの課題

『苅野は、古来より都と山陰地方を結ぶ交通の要所であった。そのため、昔から多くの旅人がこの地を訪れ、去っていった。他の土地との往来が激しいため、よそより災厄がもたらされることも多い、と考えた人々は、魔よけとして神社を設けて、外からの災厄が苅野を襲わないようにしたのである。……(以下略)』


 苅野市の歴史について調べる。

 なんて夏休みの課題を出された瞬間、教室にブーイングが響きわたった。

 五、六人ぐらいで班をつくってレポート用紙十枚以上という過酷な課題は、今夏最大の難題だった。


 私、天宮はるこのグループの精鋭を紹介しよう。

 おしゃべり友達の高梨せりと渡辺かのん、委員長白河あきなり、委員長の心の友(?)鹿嶋たくみ、そして魔法少年藤生皆という、異端な雰囲気がぬぐえないメンバーだ。

 内心、いい男子をゲットしたとほくそ笑んでいた。白河&鹿嶋コンビがやってくれる。……そう、最初は私もやる気なしだったのだ。鹿嶋くんが課題のネタを提案するまでは。


 放課後の図書室。

 あまり人気はなく、貸し出しカウンターに返却督促を受けた生徒が延長願いを書いている。このへんうちの学校は厳しい。半月遅れると図書館から各担任に連絡がいって内申書に響く。なんてまことしやかにささやかれていた。

 私たちメンバーは日当たりのいい席を陣取って、対策会議をはじめた。


「苅野市の魔よけ?」

「ずいぶんあやしいネタで攻めるんやねえ」


 せりとかのんが同時に顔をしかめた。


「実は、姉貴が大学にだしたレポートの内容のパクリなんやけど」


 鹿嶋くんはずりおちたメガネをあげながらいった。


「感神社ゆう名前のついた神社が市内には六カ所あって、それが古来より魔よけ的な役割を果たしていたらしいんや」

「苅野は、京都から中国山陰への交通の要所やったらしいな」


 白河くんが口をはさんだ。


「京の都や江戸もよく風水を考慮して数々の怨霊から町を守る設計がされてた、っていうオカルトな話があるわな。苅野も同じってことか」

「昔、だいたい平安時代くらいからやな。それぞれの方角に禍神がいるって信じられてて、日常生活でも方角を気にしてたし、人の集まるところには近所に寺を建てたりして特に気を使ってた。そういった信仰と、昔の交通事情と、白河のいう都の建設をからめるのもええな」


 私は興味津々だった。

 藤生氏のおかげで魔法とか呪とか聞いたり見たりしているからだろう。あやしげな話題は大歓迎だ。


「そんな感じで一般論を書いて、神社の写真と地図でも資料につけときゃ、レポート用紙五枚は軽く消化できる。あとは神社の来歴とかを書いとく。こーゆー路線でみんなええ?」


 つまり、鹿嶋くんのお姉さんのレポート内容を簡単にアレンジして終わり。

 みんなが手を抜ける提案だった。

 みんな一斉にうなずいた。


「じゃ、おれと白河とで適当に写真とっとくから」


 相談タイムはこれで終わった。

 一斉に立ち上がり、帰り支度をはじめた。かのんは部活に行くし、せりは好きにしてって感じで、今後の進め方などは頭にないようだ。

 私たちはなにも手を出さないから、よろしくね。という感じ。

 それでいいのかな……。


 私はその夜、鹿嶋くんに電話した。


「今日の話、私たちなんもすることないやんか。悪いなーとちょっと思って」


 電話の向こうで鹿嶋くんは笑った。


「天宮さん、結構、乗り気ちゃうのん」

「うん。実は結構、乗り気」

「ほかの女の子は適当にやっといてーて感じやったけど、天宮さんだけなんか楽しそーに聞いてたよな」

「そうやった?」

「明らかに。白河も藤生も笑ってたで」


 藤生氏が笑う、というのがなぜか意外に思えた。


「白河と藤生って、教室で見るよか実際は仲ええねんで」

「そうなん?」

「なんか小学校のころからのつき合いっぽい」


 へー、それは貴重な情報。それ聞いただけでも電話したかいがあるってもんだ。

 とりあえず。


「日曜日午後十時に、キャナルタウン中央駅東改札口、ケーブルテレビのモニター前集合。やね」


 と復唱してから電話を置いた。

 日曜日は男子精鋭三名全員来るんだって。その三人の中で藤生氏がどうふるまうのか、非常に興味深い夏休みの研究課題やわ。笑う藤生氏、見られるかもだよね。

 日曜日、めっちゃ楽しみ!

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