01.ふとした契機
メールでカンタンに告げられた、別れの言葉。
神戸三宮、花時計前。
待ちぼうけのあたしは、ひとりぼっちのあたし。
* * *
「すみません。買い物付き合ってくれませんか?」
かのんが顔を上げると、目の前にいるのは男。
ユナイテッドアローズのジャケットと、ビンテージ色のジーンズを着こなした、シンプルな印象の青年。
かのんはまず思った。
(新手のナンパ?)
青年は丁寧な口調で続ける。
「スカーフが欲しいんですが、なにをどう選んだらいいのかが分からなくて」
「ヘルプ・ミー! てカンジですか」
「そうです」
次にかのんが思ったのはこうだった。
(顔は合格点かも)
彼はかのんが迷っていると思ったのだろう。小声で申し訳に付け加える。
「見ず知らずですし、突然のこととは分かっています。嫌ならどうぞ遠慮なく断ってください」
「ええよ。約束キャンセルされたとこやし」
かのんは軽く同意した。青年の表情はぱっと明るくなる。
「本当ですか!」
「ちょうど気分悪かったし。買い物してるとこ見て、気分転換でもさせてもらう」
青年が表情を曇らせる。分かりやすい人だ。
「お加減悪いんですか」
かのんはそっけなく、答える。
「カレと、別れたとこ」
「え!」
かのんは虚をつかれた。青年の思いのほかの狼狽ぶり。さらには、予想をはるかに超える恐縮ぶりを見せて、
「申し訳ないことをしました」
「はい?」
「悪いことを言わせてしまったと思いまして」
「別に、勝手にあたしがしゃべっただけやん。むしろ、ハケグチがほしかったんよね」
青年は無言のまま、かのんの次の言葉を待った。
「買い物付き合うけど。先にあたしのグチ聞いてくれへん?」




