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魔法の壺  作者: 鏑木恵梨
Magi Farm
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03.通り魔事件

 ある日、といってもつい一週間前のこと。

 帰りが遅くなった私は、東谷公園という大きな緑地公園を通っていた。そのほうが弱冠近道、と聞いていたからだ。

 ただ、あとから聞いた話では、学校は、


『公園を通って帰るのはやめましょう』


 というお達しを出していたそうだ。

 私が転校してくる前に、この公園で「通り魔事件」が何件か起こったというのがその理由。犯人は捕まっていなかった。

 ただ、ここ数ヶ月音沙汰がなかった。数ヶ月もすればみんなの関心は薄まるもの。だから、私は通り魔事件があったことは知らないし、うわさにものぼらないし、公園通るべからずのお達しも先生方から聞いてなかった。

 知らないことは往々にして不幸を招く。私は近道を開拓するわくわく気分で、夜だってのになんの警戒もなしに歩いていた。そこを通り魔に襲撃されたわけである。


 ヤツは三十前後のくたびれた感じの男で、メガネをかけてやせ形。モスグリーンのジャンパーにGパン、風貌はそれくらいしか覚えていない。

 やたら印象に残ってるのは、そのごついけど色白な手に握っていたアーミーナイフ。

 襲われたのは背後からだった。寸前、気づいて身をひるがえした。

 けどすっ転んだ。

 やばい。早く立ち上がって、逃げないと。

 ……無理?

 怖くて、立てない。

 と、通り魔の背後からなにか固体が飛んできた。

 見事、通り魔の頭に命中。それは派手に割れ、破片が飛び散った。その破片からして陶器かなにかの割れ物みたいだった。

 なんだかわかんないけど……私、助かるかも?

 正義のヒーロー参上、悪い敵を一網打尽!

 みたいな感じの淡い期待はナナメ上な妄想でしかなく、現実は正義のヒーローの名乗りなんてない。でもあの割れ物はなんだったの?

 かたやアーミーナイフ男は一瞬ひるんだだけ。吠えるような異様なうなり声とともに、またすぐ襲いかかってきた。

 腰が抜けちゃった。

 ああ、もうダメ。

 なんて頭の中が真っ白になりかけた、そのときだ。

 男の背後に同じ中学校の制服が、目に飛びこんだ。

 藤生氏?

 彼に違いない。確信するや突如、アーミーナイフ男は煙のように目の前から姿を消した。


「……なに?」


 藤生氏が近付いてくる。

 敵は一網打尽にされてる。となるとこれはどうやら、助かったのではなかろうか。

 とだけ、まず理解。目の前でなにが起こったのかはいまだ理解の範疇外のこと。私は彼に説明を求めた。


「なにがおこったん?」

「呪で魔の世界の門を開いた」


 彼はしゃがみこんで割れた陶器片をひとつ拾っては眺め、ため息をついた。


「自分が行くつもりで前々からちょうどこの場所で魔法陣準備しとったのに……ためた呪も陣も全部なくなった」


 私には不幸中のすごくピンポイントな幸いが訪れ、藤生氏には人生最大の希望を棒にふるレベルの不幸がおこったわけか。そりゃあ、説明がグチにしかならないほど、ショックでへこむわ。


「この破片、呪をためてた花瓶」

「そう」

「破片を私がさわっても大丈夫?」

「おう」


 質問をするうち、私はようやく立ち上がれるようになったので、割れた花瓶の片づけを手伝うことにした。破片を拾い集めながらも質問は続ける。


「あの消えたおっさんは、魔の世界に行ったってこと?」

「そう」

「魔の世界てどんなとこ」

「知らん」

「魔の世界へ行ってしもたらどうなるん?」

「おれは向こうへとばしただけで、あとはのたれ死のうが自力で戻ろうが知ったこっちゃない」


 ひどい話だ。いいんだろうか。倫理的に。

 ……いいのかな。自力で戻ろうがって言ってるってことは、たぶん魔の世界とやらからこの世界に戻る手段があるんだろう。当然どうしたら戻れるかは知らんけど。


「助けてくれて、ありがと。……あと、ごめんね、呪を使わせちゃって」

「しゃあないやろ」

「ま、いいか。また、集めりゃええっしょ」


 おまえが言うな。彼はそんな不機嫌そうな顔で、私を見上げた。

 いつもどおりの藤生氏。私は安心した。


 以上が私・天宮が通り魔に襲撃されて藤生氏に助けられた件のてん末。

 とっても不思議な同級生・藤生皆がお気に入りになったのは、この事件がきっかけになる。魔の世界とやらを目指してるという、今後の彼がどうなっていくのか。期待しつつこれからもウォッチしていこうと思ってる。

 ひとまず、このお話はここまで。

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