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魔法の壺  作者: 鏑木恵梨
Upon The Star
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01.そう、修学旅行である

5月後半くらいのお話です。

「星は待つんやなく、呼べばいい」


 彼は漆黒の闇に染まる空を見上げた。

 その言葉を、私は心の中でくりかえした。



  *  *  *



 配られた行程表を目にしたクラスの面々から、文句の声が次々あがる。


「民泊〜?」

「えー嫌や」

「ふつう南の島てホテルとかちゃうん」

「修学旅行や。リゾート満喫♪癒し旅ちゃうぞ〜」


 対する担任・青ジャージ下崎の反論も至極ごもっともなものであった。

 そう、修学旅行である。学校生活の一大イベント! 行き先は沖縄!

 てな流れで浮かれた雰囲気を盛り下げるべく、下崎が問いかける。


「クラスの行動規範はなんやったかな? 山名」


 委員長山名くん即答。


「『学びは孤高たれ』」

「その意味を考えながら、このLHR(ロングホームルーム)の時間中に、飛行機とバスの席順、行動学習の班、部屋割は、君ら自身で決めてくれ。班割りの紙は明日のHRに出してな。

 世話役はいつもの山名、中林、久瀬で進めてくれ。私は職員室行ってるから、なにか起こったり、知りたいことあったら職員室に呼びにきて」


 世話役すなわち仕切り役を名指しして、後は丸投げの担任なのであった。毎度のことで非難はない。

 そして指名された順に委員長・副委員長・生徒副会長の三名は、ひな壇に陣取った。


「じゃあいまから班ぎめします。どうやって分けるか案のあるひとー」

「好きなもんどうしでえぇやん」


 てな感じで、フリーダムな議論になるのも、うちのクラスらしいとこだ。

 ところで。正直なとこ、好きな子どうしで班決めって、いろいろ不安にならへん?

 クラスの人間関係、勢力図が赤裸々に暴かれる瞬間というか。なにより、ぶっちゃけ分ける人数にあぶれたらどうしよかという、漠然たる不安……私って、小学校のときに転校何回か経験してて異邦人な立場が多かったから、そのへん敏感になってしまうのだ。

 その点、久瀬生徒副会長のお裁きはいつも不満が少なかった。仕切りもうまいもので、


「じゃあ、体験学習のやりたいもんのグループで集まる案を採用しよか」

「なんでー」

「班で分かれてからやること決めたら、自分が本当に興味ある体験学習ができんようになる」


 下崎いわく『学びは孤高たれ』――他の人に引きずられないで自分の意見を述べよ。

 まずやりたいことから決めてくってのは納得。結果的に好きな子どうしグループで固まったとしてもね?


「人数調整はトレードで決めよう」

「そんじゃ漁業にロマン感じるやつ、俺んとこに名前書いて」

「農家いきたい子〜」


 みんな立ち上がりだしてぞろぞろ移動をはじめる。

 かのんが早速、声をかけてきた。


「はるこどうする?」

「料理教室と磯釣りを」

「なにその取り合わせ」


 お料理教室は女の子ばっかりだ。

 かのんは海相手でもシュノーケルをやるとのこと。二人そろって漁師さんちを志望。ただ、釣り体験希望の女子はいない。男子ばかりだ。紅一点だぜ!

 しかも久瀬くんがいたのも意外っちゃ意外。


「君らに意外とか言われたない」


 と本人は心外な様子。

 続いて彼からは、グループ分けの極意のタネ明かしをレクチャーされた。


「グループ固まりたい連中には、できるだけ農家とか店にいってくれ、て根回ししててん」

「そんなん聞いてへん」

「天宮さんはやりたいこと無視して固まりたい人とちゃうやろ」

「ん、かなぁ」

「僕は人数合わせ要員やから」


 かくして、漁師さんの民宿にはクラスのマイウェイな人たちが集ったらしい。

 私もはなはだ心外だ。



  *  *  *



 一日目。

 修学旅行は伊丹空港に集合し、那覇空港に到着、ひめゆりの塔とか糸数壕とか見学して黙祷して、ホテルの大広間で沖縄戦の話を聞いて。

 バス移動と列をなして歩く、ツアーらしい旅行であった。

 夜はホテルのファミリールームに5人くらいが雑魚寝。明日の出発までに、島にもってく荷物と、本島に置いとく荷物を分けなきゃいけない。かのんと荷物シェアしよう。ドライヤーは持参するかな。

 ……かのん、どこ行ったんやろ。別のクラスのせりちゃんに会いに行ったのかもしれない。

 私もひさしぶりにせりちゃんに会うか、と廊下を出た矢先。


「久瀬しらね?」


 と顔見知りの男子に呼び止められた。

 鹿嶋くんだ。


「知らんけど私に聞くのなんで?」

「3組の女子に呼び出されたとかゆってたんで、知らへんかなって」


 うわあ。うわさに聞く『修旅で告られ』ですか。対象者が身近に現れるとは!

 もしかして聞けばさらに情報が得られるか?


「3組のだれに?」

「浅賀さん」


 情報ゲット!

 3組っていったらせりちゃんのクラス。あとで裏情報仕入れよっと。

 しかし鹿嶋くんには厳重注意だよね。


「聞いといてアレやけど、聞かれて即答やめたほうがええと思う」

「うん」


 うなずく鹿島くん。

 だけど、うーんとうなって首をかしげる。納得ならない様子。ひっかかる理由が分からない。が、説得は彼らなりになんかあるだろうから差し控えよう。

 私の祝辞を鹿嶋くんから伝えてもらうよう、頼むことにした。


「久瀬くんついに彼女できるかぁ。めっちゃ頭いいし、めがねくんでもサッカー部と競り合いしちゃえるし、ギター弾き語りさせると渋かっこよいし、彼女いてておかしくないわな。『おめでとう ばい・あまみや』って、伝えといて」

「めでたくないやろ、たぶん断るやろし」

「なんで? 浅賀さんめっちゃモテ子さんですよ」

「そういうの疎いんで」

「浅賀さんは呼び出しただけとして、ほかの仲いい子らも全員かわいい子やん」

「出てくときマジ勘弁って顔しとった」


 浅賀さんかそのご学友、かわいそすぎる。

 久瀬くんて人畜無害な笑顔キープしてるようでいて、実は男子だけの時は正直者なのだね。だけど、こういうデリケートなネタで正直なのは、アウトだろう。

 あとで苦情を申し立てておこう。

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