06.4月10日(土)
宛先:白河たかなり
Cc:
Bcc:
件名:ご報告・契約について
母との件について、すぐに同意していただけるとは
正直言って予想していなかったので、驚いています。
今はすっかり落ち着きましたので、ご報告します。
さて、既存の「契約」に関しては先日申した通り、
思うところがあり、ご迷惑のかかることがないよう
処理させて頂きました。
要するに、すべて「夢の出来事」であったと理解して
頂ければ結構です。後顧の憂いもございません。
今後も仕事に邁進下さいますよう、お祈り申し上げます。
以上
* * *
送ったメールに返信など無いことくらい、自分も予想している。邪魔であるとさえ思われているだろう。それくらいはいいかげん認識している。
それが分かっていても意地になって送りつける、その不毛さに自分自身、呆れ返ってはいる。
こんなのは自己満足。逃げ場が欲しいだけ。
そう表現してしまえば、終わってしまう。
たとえ現実逃避でも、止めてはならない……そんな気がしていたのだ。
そんな時、一通のメールが届いた。
無題で、HTML形式。いつもならごみ箱に捨てている。
たまたま今日はプレビューウインドウを開いてしまっていた。
送信者:白河隆哉
宛先:久瀬暁哉
Cc:
Bcc:
件名:
これまで返事の一つも出さなかったことをお許し下さい。
さて、例の件については君の言う通り「夢の出来事」と考えることにします。これは私の償いようのない罪です。しかし、礼や侘びの言葉、美辞麗句等をどれだけ重ねたとしても君には届かないでしょうし、私も空虚です。今は敢えてこれ以上何も書かないこととします。
ただ、いずれは君にかけることの出来る言葉が見つかると信じています。我が儘な願いですがそれまで待って下さい。
父
俺は、パソコンの前で、しばらく動けなかった。
「今頃……」
呟きは、ディスプレイの光に紛れていった。
俺は突然、散り際の夜桜を眺めたくて、窓を開けた。
自分が、何かに呼び醒まされるような感覚に包まれながら。
生温い風を全身に感じながら。
ただ、闇を見つめた。
Timeshare 終了です。
次は、藤生氏の仕事人ぶりをご紹介する小話を予定しています。