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魔法の壺  作者: 鏑木恵梨
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23/168

04.4月6日(水)

送信者:藤生 皆

宛先:Aki.Sirakawa

Cc:

Bcc:

件名:依頼


父親に会ってくる。

どうも攻撃の対象はおれだけじゃなくなってきたから。

会えばなんとかなると思う。

それまでは、よろしく頼む。



  *  *  *



 俺が藤生君を責めたのは、感情の赴くままでしかなかった。

 ずっと冷静に一定の距離をおいてつきあってきたつもりだった。お互いの傷口に触れないようにと。なぜ前後の見境なく、藤生君に怒りをぶつけてしまったのだろう。

 さらにショックだったのは、藤生君が決意したこと。その事実そのものだ。

 動機は、俺の言葉。

 そしてなにより、天宮はるこの存在。


「なら久瀬くん、復活させよう結界。今より良くはなるっしょ」


 天宮はるこが自信満々に言ってのける。

 一体、その自信はどこから来るのだろう。結界を復活が及ぼす影響もわからないのに、良くなるって……そんなことは誰も保証していない。猪突猛進なのか、知識のなさがなせる技なのか。

 しかし今ではそれがうらやましい。それが藤生君に『他人のためになにかをする』気にさせたのだから。

 彼女は偉大な人だ。

 歴史に残るべくもないけど。

 それでも、俺は彼女ってすごいよな、と思う。


「そのノリが藤生くんをまるくしたんやな」

「は?」

「なんでもない。じゃ水面に投げとくれ」


 しかも彼女は自分の影響力を自覚していない。

 そんな彼女ののんきさに俺はほっと、息をつける気がした。

 本当は息が詰まるほど怖い。

 今から俺は、サナリを裏切る。

 サナリへの裏切り……サナリの言うとおりにするなぞ、俺自身は生まれてこの方約束したことはないのだが……はギャンブルだ。成功確率すら分からない。もっとも俺は、契約内容を正確に把握していない。なにが契約に反し、そして裏切りになるのかも分からないのだ。

 全てが暗中模索。それでもなんとかなるのでは。

 そんな楽天的な考えが脳裏をよぎる。俺も『天宮はるこ』のノリが伝染したのかもしれない。

 だがこれは確実に言える。


 変わるなら、今しかない。


 藤生君を呼び覚ましさえすれば変わるに違いない――そんな自分の賭けに天宮はるこを巻き込んだことは、罪の意識を感じてはいる。

 だが信じたい、いや、もっと言えば正当化した上で『すがりたい』のだ。成功の鍵は彼女が握っている、巻き込んだからこそ成功に近づくのだと。そんな証拠たる材料はなにひとつなく、ただ勘でしかないというのに。

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