04.4月6日(水)
送信者:藤生 皆
宛先:Aki.Sirakawa
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件名:依頼
父親に会ってくる。
どうも攻撃の対象はおれだけじゃなくなってきたから。
会えばなんとかなると思う。
それまでは、よろしく頼む。
* * *
俺が藤生君を責めたのは、感情の赴くままでしかなかった。
ずっと冷静に一定の距離をおいてつきあってきたつもりだった。お互いの傷口に触れないようにと。なぜ前後の見境なく、藤生君に怒りをぶつけてしまったのだろう。
さらにショックだったのは、藤生君が決意したこと。その事実そのものだ。
動機は、俺の言葉。
そしてなにより、天宮はるこの存在。
「なら久瀬くん、復活させよう結界。今より良くはなるっしょ」
天宮はるこが自信満々に言ってのける。
一体、その自信はどこから来るのだろう。結界を復活が及ぼす影響もわからないのに、良くなるって……そんなことは誰も保証していない。猪突猛進なのか、知識のなさがなせる技なのか。
しかし今ではそれがうらやましい。それが藤生君に『他人のためになにかをする』気にさせたのだから。
彼女は偉大な人だ。
歴史に残るべくもないけど。
それでも、俺は彼女ってすごいよな、と思う。
「そのノリが藤生くんをまるくしたんやな」
「は?」
「なんでもない。じゃ水面に投げとくれ」
しかも彼女は自分の影響力を自覚していない。
そんな彼女ののんきさに俺はほっと、息をつける気がした。
本当は息が詰まるほど怖い。
今から俺は、サナリを裏切る。
サナリへの裏切り……サナリの言うとおりにするなぞ、俺自身は生まれてこの方約束したことはないのだが……はギャンブルだ。成功確率すら分からない。もっとも俺は、契約内容を正確に把握していない。なにが契約に反し、そして裏切りになるのかも分からないのだ。
全てが暗中模索。それでもなんとかなるのでは。
そんな楽天的な考えが脳裏をよぎる。俺も『天宮はるこ』のノリが伝染したのかもしれない。
だがこれは確実に言える。
変わるなら、今しかない。
藤生君を呼び覚ましさえすれば変わるに違いない――そんな自分の賭けに天宮はるこを巻き込んだことは、罪の意識を感じてはいる。
だが信じたい、いや、もっと言えば正当化した上で『すがりたい』のだ。成功の鍵は彼女が握っている、巻き込んだからこそ成功に近づくのだと。そんな証拠たる材料はなにひとつなく、ただ勘でしかないというのに。