01.9月15日(火)
『MagiFarm』久瀬(白河)視点。暗くて屈折してます。
宛先:白河たかなり
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件名:お久しぶりです
宝塚の駅前で、選挙運動をしている姿を見ました。
お元気そうで、なによりです。
母は、昨日から風邪をひいています。猛暑の疲労によるものと思います。
ご飯はきっちり食べるんで、さほど心配はしていません。
以上
* * *
「ほっとくと、死んでしまうんよ?」
「で、どうしたいん?」
あえて冷たく問い返す、俺。
「どうしたいって、決まってるやん! 日下部あおいって子が死なないように、なんとか助けるねん」
天宮はるこって子は、ホント……まっすぐな子だ。
いいご両親なんだろうなあ、とオッサンな発想が頭をよぎった。
藤生君と彼女は、サナリの話で『日下部あおい』とやらが死んでしまう予定だということを知った。その『日下部あおい』は俺たちより年下、天宮はるこのご近所さんなんだそうだ。天宮はるこは、その子の顔も知っている。
私たちは彼女にふりかかる事故を、知ってしまった。知っているのに、このまま何もしないで見殺しにするのか? そんなことはできない……。
それが天宮はるこの論理。
わからないでもない。
近所だ。顔も知っている。知っている人間の不幸を三文推理小説読むように眺めているのは、後味が悪いには違いない。
だが逆に問いたい。
もしその『日下部あおい』が近所ではなく、遠いところに住む知らない他人だったら、どうする?
自分を苦しめる存在であったとしたら――たぶんこっちは天宮はるこに想像を要求するのは無理だろうけど。
所詮、運命は自分では変えられない。まして他人がどうこうできるものでもない。『日下部あおい』の運命を他人の俺が変える資格など、あろうはずがない。
これは倫理観がどうの、といった話ではないんだ。
それが俺、白河あきてるの論理。
「運命は他人が変えられるもんやない」
俺は文字どおり科白を吐き捨てた。
あとできっと重荷になる。他人の人生を変えるのは、他人の人生を背負い込むことになるんだから。
しばらく彼女は途方に暮れていたようだったが、
「もう、いいよ。頼まない」
大声で彼女は答えた。少し涙ぐんで聞こえた。
泣きたいのはこっちや、という気になりながら、しばしの間彼女の背中をみつめていた。