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魔法の壺  作者: 鏑木恵梨
Magi Farm
13/168

13.魔法の農場

 学校の帰り道。久瀬くんと歩いている。

 担任から、藤生氏と連絡をつけるよう使命を負わされたため、この二人連れとなったが、実際は自発的行動に依るところが大きい。


「僕も冷静やなかったよな」


 久瀬くんはひとりごちた。


「あれって、ぼくが藤生くん追いつめたんやろな」


 東谷公園で、久瀬くんと私が魔のものに襲われたときのことだ。

 藤生氏に助けられたけど、そのあと久瀬くんはえらい剣幕で怒っていた。信じられない光景だった。彼も怒ることがあるのかと、当たり前のことに驚いたりしたものだ。

 なぜ怒ったのか、自分なりに考えてみた。


(もう藤生氏だけの問題じゃない)


 そういうこと、じゃないだろうか。


「運命は他人が変えられるもんやない」


 もともと久瀬くんは私たちがタマシイの行方に関知するのに否定的だった。

 藤生氏は同じことを言いつつも行動してこの結果となった。でも藤生氏のせいじゃなく、そもそも私がゴネてはじまったことだ。あおいちゃんのタマシイを助けなければ、と。自発的に関わり合いに。というよりむしろ私主導だよね。決して『巻き添え』なんかじゃない。

 私たちはしばらく無言になった。

 のだれど、やがて……久瀬くんが沈黙を破った。


「そおや天宮さん。日下部あおい、やった? あのネタ絶対しゃべったらあかんで。ありかがばれたら最悪、天宮さん殺されてまうかもしれへん」


 私は絶句した。

 殺されるって……私はただ行方を知っているだけなのに?

 久瀬くんは私の考えていることがわかるのか、すぐに言葉を継いだ。


「『器』を壊してまでして魂を奪おうとする魔のものもおるやろ」


 日下部あおいちゃんが生きていたとき、魔のものは我先に彼女に襲いかかろうとしていた。私が彼女に会いに行くと、私を排除しに襲いかかってきた。手に入れてからも、そんなことはたびたびあった。

 今までは藤生氏が守ってくれた。けれどいまはいない。自分の身を守るには、誰にもタマシイの行方はばれてはいけないのだ。

 だけど?


「あおいちゃんのタマシイ、どこにあるんか知っとんの?」

「知ってる」

「藤生氏が教えたん?」


 彼は小さくうなずいた。そして、話題を変えるように私に尋ねた。


「今から用事ある?」

「夜は塾があるけど。なに?」

「覚えとお? 感神社。あれの七つ目のポイントを新発見したんで、行こかと思って」


 そういえば……と、思いかえす。

 私たちの住む苅野市には同じ名前の神社が六つ存在し、それが魔よけの結界を意味しているということ。それが苅野市に、魔の力を貯め込む働きをしているということ。

 それに七つ目のポイントがあるという。

 久瀬くんの意図を読むことはできない。

 だがそこになにかがあるから、彼は行こうとしているに決まっている。


「行ってみる」


 私は早速、友達のせりに電話をした。同じ塾の同じクラスに通っているから、休むことを伝えてもらうのだ。

 せりは、


「藤生くんといっしょなん? 大丈夫?」


 と心配していたが。

 久瀬くんは歩きながら、話をはじめた。


「こんだけ天宮さんも巻き込まれてしもたんなら、知る権利はあるな」

「藤生氏の魔法のこと?」

「よりも、例の苅野の結界の件のほう。苅野って、魔のものにとっては豊富なエサ場みたいな感じらしいねん」

「エサ場?」


 その言葉に不快な印象をおぼえ、私は反応した。


「昔の田舎町やったらさほど問題もなかったんやと思う。でも、この十数年ほどで人口が倍になった」

「それはエサも増えたってこと」


 人が増える、それにつれて諍いも起こる。

 魔のものも肥え太る。

 魔のものの力で、さらにいさかいも……それって、どんどん悪い状態になっていくのでは?


「エサが多いからって、魔のものにとっていいところやとは限らへんねん」


 エサにも質がある。

 悪いタマシイをたくさん持ってるより、いいタマシイをひとつ持ってる方がいい。そういった『ルール』だった。私は以前、サナリからこの理屈を聞いた。


「悪いタマシイが増えていってるんやったら、魔のものにとってもいいことないやん」

「だから結界の存在が重要やねんな。余計な魔の力、魔のものたちを排除して、最適の質と量を保てるし、人間にも支障がない。元来そういうものらしい。サナリはそういうポイントを‘MagiFarm’――魔法の農場、と呼んどった」


 魔法の農場。

 名前は軽いが、実際はかなり不気味なことだ。私たちは知らないうちに『飼育』されていることになる。


「でもその結界は現状からして働いていない……ほら、久瀬くん前言うてたやん。苅野以外の魔のものが増えてるって」

「着いた。ここ」

「って、東谷公園?」


 市街地の、私たちの通う学区内にある緑地公園。市内を貫く芽衣川と人口の林で形成された苅野市街地住民のオアシス。

 通り魔や魔のものに襲撃されたりして、私にとってはろくなことのない場所だ。

 芽衣川沿いに造成された遊歩道を、久瀬くんは歩いていく。夕方の公園に人はまばら。遊歩道を歩く人はいない。


「こんなところに神社なんてあった?」

「うん」


 十七時を告げる鐘。

 と同時に、私たちの目の前で川面から勢いよく水が吹き出した。

 噴水のイベントだ。

 カラフルな照明が噴水を照らし出す。水はさまざまに形を変え、変幻な姿を見せてくれる。


「わー、きれいや」

「そやなあ」


 なんかデートしてるみたいな会話だ。

 鐘が終わるとイベントも終了し、水面はまたもとの静けさを取りもどした。

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