12.クラス名簿
迎えた三年生、始業式の日。
クラス分けを張り出した下駄箱は、人であふれかえっていた。私も多分にもれず、人山をにぎわせている一人だ。
渡辺かのんとは同じクラスだった。せりとは分かれてしまった。
「また今年も、ラブラブなわけやね、はるこ」
「へ?」
十秒ほど、なんのこっちゃと理由を推察。
もう一度、クラス名簿を見直して気がついた。
「あーそういうこと」
同じクラスに藤生皆の名がある。かのんが茶化しているのは、そのことなんだろう。
そういえば、鹿嶋くんは別のクラスで発見し、白河くんはどこにあるのか発見できなかった。見落としたかも知れない。
新しい教室は、四階一番端。
席順は、名前の順。かのんの席は対角線上にある。先生が来るまで廊下側の私の席でおしゃべりをしていた。
鐘が鳴り、先生が来た。青いジャージを制服にしている数学教師・下崎だ。
空席はひとつ。
藤生氏のところだということは、すぐわかった。
下崎が出席をとりはじめた。
まずは天宮。『あ』で始まる名前の私の出席番号は、今年は一番だ。あとは終わりまで待ちに入る。
全員の点呼を聞いていると……。
あれ? 白河くんの声。
声のした三列目一番前を見ると、目があった。人の良さそうな笑顔。そこにはメガネをはずして少し印象の違う彼がいた。
藤生氏は、初日から欠席のようだ。
下崎が連絡事項を伝え終わると、始業式のため校庭に出ることになった。
「白河くんの家、離婚でもしたんかなあ」
かのんが寄ってきて言った。
「へ? なんで」
「名前ちゃうかったやん。名簿見てみよっか」
教卓の出席簿をちらっと見てみる。
「下の名前、なんやったっけ」
「ええと、あきなり……これちゃうのん? 『久瀬あきなり』」
「ほいな」
教卓のそばに席があるウワサの彼は、なにやら取りに戻っていた。
「両親、離婚したん?」
「ちょ、はる。ストレートすぎ」
かのんがぶしつけな質問をする私をなじる。
白河……久瀬くんは気にする風もなく答えた。
「おかげさまで。調停はこれからやけど」
「ふーん。大変やね」
「そうでもないで。それより」
始業式の時間はあと三分。悠長に話してられないことに気づく。
かのんは教室を出た。
続く私に、久瀬くんはすばやく小声で告げる。
「藤生くんからのメール、あとで見せる」
「なにしとん! 早く」
かのんにせかされて、私たちは校庭へと走った。
* * *
『父親に会ってくる。どうも攻撃の対象はおれだけじゃなくなってきたから。会えばなんとかなると思う。それまでは、よろしく頼む』
久瀬くんが見せてくれた、藤生氏からのメールの内容。それは、藤生氏がとうとう念願を果たすことを示すものだった。
おめでとう、藤生氏!
でも……不安がつきまとう。
本当に大丈夫なんだろうか、と。