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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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動かない足

作者: kar777
掲載日:2026/08/11

「もう、どうなってもいい」

 漏れた言葉。ホームに滑り込んだ電車が起こした風で、かき消される。

 ポケットに入れた手、触れる包丁。

 俺は今日、人を殺す。


 この電車は急行だ。次の駅に着くまで、あと十六分。

 ……ダラダラしてらんないな。少なくとも三人は殺さないと。

 俺はポケットから包丁を取り出し、掲げ、吠えた。

「今から、お前らを……殺す」

 人々の視線が、スマホから俺に。

 しばしの沈黙。

「え」

 座っている中年男がようやくか細い声を上げると、ようやく何十にも重なった悲鳴が響いた。

 俺はその中の一人、若い女性に向かって振り下ろす。

グチャリ

 感触は最悪。けれど、今はそんなことを考えてる暇はない。

 包丁を抜いて、振り返る。腰が抜けたのか、その場で這いつくばっている男が一人。腕を必死に動かし逃げようとしている。

 俺はすぐさま駆け寄り刃を刺す。

ドチュ

「あ、あぁ!」

 息を吸うのと吐くのを同時に行ったかのような、苦しげな叫び。

 あと一人。

「うぷッ」

 ……吐き気を抑えながら、次の号車へ。

 二重になっている引き戸を勢いよく開けるとそこに居たのは――

 車椅子に乗った若い男だった。


 その男は身じろぎひとつせずこちらを見つめている。

「殺すぞ!」

 俺の怒声が響く。けれども男は動かない。

「殺すぞ!」

 再度の叫びに男は……頷いた。

「聞こえてるよ。好きにすればいい」

 ……は?

「は?」

「僕は、逃げれないからね」

「?」

「これ」

 男が車椅子をこつんと叩く。

「電車から降りるためには、駅員の助けが必要。で、駅員が来るのはこのドア。なら、逃げるだけ無駄だと思わない? 降りれないんだから」

「……いや、無駄じゃないだろ」

 誰かにおぶってもらえばいいだろ。誰かに……助けてもらえばよかっただろ。

 こいつ、馬鹿なのか?

 ……もういい。殺そう。

「もう、どうなってもいいんだよ」

「……!」

 進もうとしていた足が固まる。男は続ける。

「足はもう二度と動かない……サッカーも、できない」

 男の頬に涙が伝う。

「……」

 俺と、同じだ。そんな言葉が頭に響く。血の匂いが、吐き気を誘う。

 ふと、手を見た。血が、べっとりとついた手。

 流れる景色の速度が落ちる。もうすぐ駅に着く。

 足は動かない。


――誰かがおぶってくれる

 そう、思えていたら。俺は……いや、

「もう遅いか」

 電車内、警察に取り押さえられながら、俺は言葉を漏らした。

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